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登御坂高校サバゲー部!  作者: 冬森圭
前編 サバイバル入部編
4/14

04 サバイバルゲーム終了!?




 基本的なルールはこうだ。

 ペアでつながれた手錠を解除するためには、フィールド上のどこかに配置された〝鍵〟を入手しなければならない。この鍵は見つけやすいように〝小箱〟に入れられているが、小箱にはさらに別の鍵が掛かっており、これを開けるためには大和の待機している〝本部(非戦闘地域)〟まで持っていかなければならない。途中で被弾した場合は失格となり、小箱を入手していても大和は開けてくれない。また、小箱は全部で三つしかなく、他チームのものを奪うこともできる。


「ハル、つまりどういうことだ」

「……箱を探せ。手に入れたらメガネのところまで持って来い。撃たれたらゲームオーバーだ、ってことだろ」

「なるほど。ようは箱の奪い合いってわけか」


 使用する銃はエアガンなので、弾に当たったかどうかはわかりにくい。そのため、被弾の判定は特殊な装置によって自動的に行われる。それは〝被弾判定装置(HDD)〟という春樹たちの肩のあたりに取り付けられた小型の無線機のようなものだ。これを装着すると、身体のどこかにIB弾が当たった場合、それを知らせるアラームが鳴る。発射されたIB弾が帯びる特殊な静電気を感知するという仕組みになっている。


「ところでハル、このエイチディーディーってなんの略だよ? ハードディスクドライブ?」

「〝Hitting Decision Device〟……とかってメガネが言ってなかったか」


 重要な点は、このHDDには〝ヒットポイント〟が設定されており、弾に当たったとしてもダメージが一定数値を越えるまでは失格にならないという点だ。身体の各部によってダメージ量が違い、たとえば手足の場合は数発数十発と撃たれても平気なのだが、頭部命中ヘッドショット心臓命中ハートショットの場合はほぼ一発アウトになる、といった具合である。


「箱を見つけてこいって言われてもさぁ、この裏校庭って迷子になるぐらい広いよなぁ。木とかいっぱい生えてるしさぁ」

「だな。まぁ、そのためにこれが配られたわけだが……」


 春樹は一枚の紙切れを広げた。それは小箱の位置を示した地図なのだが、あまりに難解すぎて箱の在り処がまるでわからない。暗号で書かれているとか、別にそういうわけではない。図が幼稚すぎるのだ。


「ハル。このやたらめったら描かれてるマンドラゴラみたいなモンスターはなんだ? 何の目印だ?」

「たぶん……数からいって〝木〟だろ。わざわざ根っこの部分まで描いてるからこんな不気味な絵になったんだろうな……」

「誰が描いたんだこんなもん!」


 ひとまず地図から読み取れるのは自分たちの現在位置だけのようだった。

 そのとき、肩に取り付けたHDDからザーザーという音がした。この装置は被弾を判定するという機能以外に無線通信機としても使える。


『──こちらHQ、こちらHQ。一年生諸君、聞こえるかな? あ、ちなみに〝HQ〟っていうのは僕がいる〝本部〟のことだよ。各自、もうスタート地点には到着したかな』


 一年生たちのそれぞれのチームは今、それぞれ別のスタート地点でゲームの開始を待っているという状況だった。


『何かトラブルが発生したときにはこの無線で呼び出してくれ。使い方はさっき教えた通りだ。あー、それとルールについてひとつ付け足すことがあるよ』


 大和が話している途中でまたザーザーという音がして、別の無線からの通信に切り替わった。


『──それは私だ、新入生ルーキーども! さっき貴様らに渡してやった地図のことだが……、下手だの何だのと文句を垂れた奴が多すぎる! せっかくくれてやった情報を貴様らはバカにしおって! せっかく私が懇切丁寧に描いたものだというのに……』


 無線の先で怒鳴っていたのは紫だった。そして最後の部分の、急にそこだけしおらしくつぶやかれた独り言のようなことばを一年生たちは聞き漏らさなかった。いや、聞き漏らせなかった。色々な意味で衝撃が走った。


「ハルよ。オレ、あの紫ってセンパイは完璧超人っぽいな、と思ってたんだが……人は見かけによらないもんだな」

「まぁ……人には得手不得手ってもんがあるんだろ」


 それにしてもひどい絵だったが、という言葉を春樹は言わずに飲み込んだ。またどこかで本人に洩れ聞こえたりしていたらどんなことになるかわからない。


『とにかくだっ、そんなに私の地図に文句があるというのなら、貴様らまとめてかかってこい! 私もこのゲームに参戦する!』


 無線の向こう側で紫の猛々しい怒鳴り声がギンギンと響いた。各スタート地点の一年生たちに再度衝撃が走ったのは言うまでもない。

 紫からの通信がブチ切られると、再び大和の通信に戻った。


『──あー……まぁそういうわけなんだ。君たちには鍵の奪い合いをしながらうちの紫とも戦ってもらうことにしよう。それに紫は手錠のマスターキーを持っているから、彼女を倒してもゲームクリアになるよ』


 というが、この時点で紫に挑もうなどと考える一年生は皆無だった。なにしろあの紫である。相当に手強いであろうことは間違いない。おまけに地図の件で激昂しているのだから厄介でないわけがない。


 一年生たちは急遽追加変更されたゲーム内容に戸惑っている者が多数であった。しかし、各自が作戦を練るにも心の準備をするにも十分な余裕は与えられなかった。ゲーム開始の予定時刻まで残り一分を切ろうとしていた。


「ハル、もうすぐ始まるみたいだな」

「……そうだな」

「このサバイバルが終わったら、オレ、ハルと結婚するんだ!」

「……そうか」

「って、なんかツッコんでくれよ!?」


 林之介は銃をいじったり構えたりしてそわそわしていたが、春樹は非常に落ち着いていた。というよりも、別段ゲームのことを気にしているわけでもなかった。

 そこで再び無線が入る。


『──さぁ、時間になった。ゲームを開始しよう!』


 大和の合図でついにサバイバルゲームが始まった。それにより、それぞれのチームが一斉に動き出した。

 チームは春樹たちを含めて全十二組。紫を合わせた総勢二十五名が、この林の生い茂る裏校庭で銃撃戦を繰り広げることになる。


「よっしゃ! ハル、一番乗りで箱ゲットしようぜ!」


 といって早速駆け出そうとする林之介。しかし、その林之介と鎖で結ばれている春樹のほうはといえば、相変わらずじっと落ち着き払っていて、ゲームが始まったというのにちっとも動き出そうとしなかった。


「……いや、ちょっと待て。箱はいいからこっちへ来い」


 春樹は手錠ごと林之介を引っ張って、近くの茂みまで移動した。


「なんだハル、開始早々どうした。あ、もしかしてウ〇コか?」


 鋭いローキックが林之介を襲った。向こうずねにクリティカルヒットし、林之介はもだえ苦しんだ。


「林之介。このゲームに勝つためにはどうすればいいと思う」

「え、他のチームよりも先にカギを見つければいいんだろ?」

「……違う。この戦いは常にペアで行動しなければならないという制約がある。つまり、ペア同士で連携することがこのゲームの肝だ」

「なるほど。つまりオレとハルの友情ラブパワーが試されるというわけか……!」


 二発目のローキックが飛び、ついさっき痛めたところにジャストミートで直撃した。林之介は悶絶した。


「だが逆に言えば、この手錠がなければはるかに有利に立ち回れる」

「……なに言ってんだハル。この手錠が外れないから戦わされてるんだろ、オレたち」

「外れないなら外れるようにしてしまえばいい」

「……へ?」


 理解の追いつかない林之介をよそに、春樹は腰元のホルスターから拳銃(MK23)を抜いた。そしてある操作をしながら遊底スライドを引くと、その遊底スライドの部分が丸ごと銃の本体から外れて取れた。


「ちょっ、ハル! なに武器ぶっ壊しちゃってんだよ!?」

「壊したんじゃない、分解したんだ。ところで林之介、おまえ一円玉持ってないか?」

「え、そりゃ持ってるけど……何に使うんだそんなもん。……ほれ」


 一円玉を受け取ると、なんと春樹はその硬貨のふちを器用に使って銃のねじを外しにかかった。そして銃本体をさらに細かな部品へと分解していったのだ。


「実銃とエアガンの構造の違いまでは分からんがな。でも引き金(トリガー)遊底スライドの動作は本物と変わらないんだから、そのへんの部品はだいたい同じもののはずだ。……お、あった」


 解体を続けているうちに小さなピンのような部品が出てきた。針金ほどの太さの細長い金属だ。そして、それが春樹の目的のパーツだった。


「ハル、もしかしておまえ……」

「そうだ。林之介は他のチームが来ないように見張っててくれ」


 春樹はそのピンの先端を自らの手錠の鍵穴に差し込んだ。

 そう、これで開錠ピッキングするつもりなのだ。


「そんなんで外れるのか?」

「たぶん大丈夫だ。それよりお前はちゃんと向こうを見張ってろ。俺はこっちに集中したい」

「お、おう……任せろ」

「お前の顔を見ると気が散るからな。こっち向くなよ」

「ひどい!?」


 春樹は鍵穴をガチャガチャといじくった。

 林之介が周囲を警戒しながら「ハル、まだか?」と問うと、「まだだ」という声が返ってくる。そんなやり取りを数回繰り返した。春樹はしばらくガチャガチャといじり続けていた。


 そのうちにあちこちから銃撃戦の音が聞こえてきた。ゲームが始まって数分、他のチーム同士が遭遇し、戦い始めたのだ。


「おいハル、なんか向こうのほうで銃の音がしたぞ……敵が近いかもしれん。で、まだ鍵は外れないのか? オレはどうすればいいんだ? 必要とあらばいつでもハルの専属SPになるが? ……ってあれ、ハル?」


 ふと林之介が振り向いたとき、そこにいたはずの春樹はいつの間にかいなくなっていた。林之介の手から延びた手錠は見事に解除されており、そのかわりにアタッシュケースの持ち手の部分につながれていた。最初に銃などの装備品が入っていたあのケースだ。それが春樹の身代わりとして置かれてあった。


「……ハッ! まさかアイツ、帰宅バックレしやがったのか!」


 林之介に返事をしてくれる相手はもういなかった。







読まなくてもいいあとがき?

『ミリタリーコラム ~本編とはあまり関係ないミリタリー知識~』


04.H&K MK23──〝特殊部隊の拳銃〟


 H&K MK23は、ソーコムという名で知られる大型自動式拳銃です。どうしてそんな名前が付いたのかといえば、作中でも少し触れたように元々はアメリカのSOCOMという特殊部隊用に作られた銃だからなんですね。そして特殊部隊用ですから、ものすごくタフでハイパワーで、重くてでかいんです。平均的な拳銃の1.5倍くらいの重さがあります。開発段階から民間人が使うことを、特にひょろっちい高校生などが使うようなことを想定していない銃なんです。ただ重さに加えて他にも細々した問題もあり、実際の特殊部隊ではあまり使われてないんじゃないかという話も耳にします……。


 作中では春樹が使用している(押し付けられた?)銃でもあります。


 この続きは、章終わりのまとめにて。

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