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Pandora

人を惹きつける綺麗な小箱。

でもそれは決して開けてはいけない。






その国は平和だった。

王様はいい人でもなく、悪い人でもなかった。

王様が行う政治は良くも悪くもなかった。

だから国民は裕福でも貧乏でもかった。


不幸ではなかったけど、不満はあった。



ポップもその国民の一人。

ポップはどこにでもいる木こり。

妻のナナと娘のメアリー、息子のチーと4人で

それなりに幸せに暮らしていた。

毎日の食事に心配する事はないけど、

必要以上の贅沢はできない。

そんな生活。


「ねぇポップ。もっと綺麗なドレスが欲しいわ」


ナナは最近ポップの顔をみる度にこう言う。

もう随分前から言われているので、

ポップはいい加減うんざりしていた。

頑張って働いてもドレスを買うお金が貯まらない事にも

苛立ちを覚えていた。


「ねぇ、どうして贅沢をしているわけじゃないのに

 お金が貯まらないのかしらね?」

「仕方ないさ。もらえる金が多くないんだ」

「分かってるなら、もっと働いて、もっとお金を稼いでよ。」


ナナのこの一言にポップは怒った。


「もっと働けだって?!僕はこんなに働いているじゃないか!

 君が起きる前にはもう森に出かけて、帰って来る時はもう真っ暗!

 そんなにドレスが欲しいなら、君も森に出かけて、

 働いたらどうだ!?」

「・・そんなに怒ることないじゃない!

 私が森に出かけたらメアリーとチーはどうするのよ?!

 それに私だって家事をしているわ!」


ナナはフンッと鼻を鳴らして部屋を出て行った。

ポップは“しまった”と思うがもう遅い。

机に頭を置いてうなだれた。


思う事は『もっとお金があれば』




翌日、ポップはいつもの様に朝から森へ出かけた。

朝ごはんは森の果物を食べる。

今の季節は林檎が美味しい。

ポップは林檎の木に登った。

たくさんある林檎の中から、

実が熟して美味しそうなものだけを選んでポケットにつめる。

6個の林檎取って、ポップは木から降りた。

すぐには林檎を食べず、森に進んだ。


どんどん歩いて、いつも木を切っている場所についた。


(ん?誰か倒れてるぞ)


森には似合わない服装をした少女が倒れている。

ポップは少女に近寄った。

きれいな顔をしている。

身長の割りには大人っぽい。

ポップは少女を起こそうと肩を揺らした。


「おーい、大丈夫かい?」


少女はゆっくり目を開く。


「・・う・・ん」

「大丈夫かい?」

「・・・お腹すいた」


ポップは持っていた林檎を少女にあげた。

驚いた事に少女は6個全て食べてしまった。

朝ごはんが無くなってしまった。

ポップは仕方ない、と苦笑した。


「よっぽどお腹が減ってたんだね」

「ええ。林檎、ありがとう」

「君は誰なんだい?」

「私はソーダ」

「僕はポップって言うんだ。木こりをしてるんだ。

 君はどうしてこんな森に?」

「・・・ねぇポップ。私追われてるの」

「!」

「お願い、この箱を預かって」


ソーダから差し出された箱は、とても綺麗な箱だった。

持ってみたら結構重い。


「この箱の中身は何だい?」

「金貨が203枚入ってるわ」


ポップは驚いて目を大きくした。

ソーダはそれを見て静かに笑った。


「開けては、駄目よ?」

「まさか、人から預かったものを開けないよ」

「それに、鍵は私が持っているから」


ソーダの手の上で箱と同じくらい綺麗な鍵が

チャラリと音をたてた。


「しばらくしたら受け取りに行くから、それまで預かってほしいの。

 お願いできる?」

「ああ!もちろんさ」

「そう。でも絶対に開けないでね」

「ああ。約束するよ」

「ありがとう。じゃあ追っ手が来ない内に逃げるわ」


そう言ってソーダは消えてしまった。

ポップはその箱を家に持ち帰った。




その夜、平和だったその国に怪物が現れた。

怪物の名は、『パンドラ』


「ほぉ〜ら、言った通りでしょ。1日ももたなかったじゃない」

「人間め。絶対開けんなって、言ったのに・・・」


箒に乗って、空から壊される国を眺める魔女が二人いた。

双子の魔女。姉のバンビーと妹のソーダ。


「でも、ポップは林檎をくれたの。

 人間にしてはいい奴だから、もしかしたらって思ったんだけど」

「どんなに優しい人間でも、欲には勝てないのよ。

 人間なんてそんな生き物なの。

 鍵を無理矢理壊してまで、あの箱を開けるなんて。なんて醜いの」

「あの箱はパンドラの箱。中には恐ろしい怪物がいるだけなのにねぇ。

 金貨だと信じて・・。ほんとバカみたい」

「ソーダ、この賭けはアンタの負けよ。

 後でパンドラを封印しておきなさいよ」

「もうちょっと暴れてからね。欲を出すとこうなるんだぞって

 思いしらせなきゃ」

「そうね。どうせ壊れても、そんなにいい国でもなかったものね」


こうして魔女達の暇つぶしで一つの国は無くなった。

しかしパンドラを箱から出したのは、欲を持った愚かな人間。

自分の欲で自分を壊してしまったのだ。





人を惹きつける綺麗な小箱。

でもそれは決して開けてはいけない。

それは、パンドラの箱。












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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いと思いますww 自分の作品を見てもらえばわかりますが、こういう風な考えながら書く小説がかけないので羨ましいですww 自分は初心者なのですが、お互い頑張りましょう!
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