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恐怖の帝王襲来編―ファーストコンタクト

私、小暮川一世と彼女、逆木原初子のそもそもの馴れ初めは、私が三十木寮に入ったその日にさかのぼる。


当時、親元を離れて念願の一人暮らしを始めた私は、三十木寮の想像以上のぼろさと耐久性のなさに対する絶望と、寮に入居した初日に柿ヶ内さん、長良川さん、築紫さんらと知り合い、なかなか友好的な関係を気付けたことに対する希望の、相反する二つを抱えて思いはせていた。

まあ、どちらかと言えば希望のほうが大きめではあった。

そんな折の事である。


入居してからしばらくたち、実家から送ってもらった荷物を、本格的に整理し始めたころのこと。

着替えにタオルにいくつかの日用品、愛読している文庫本数冊とポケットサイズのオセロと将棋。

実家の母が入れたと思われる駄菓子詰め合わせと大学芋の入ったタッパー。同じく実家の父が入れたと思われる電動剃刀とライター。弟が入れたと思われる、時々相手をしてやっていたカードゲームの、私が弟との対戦に使っていたものと、スティックのり。

・・・・・・・父よ、せめてもう少しましなものを送ってくれ。剃刀は間に合っているし、私はライターは使わない。そして弟よ、一体なぜスティックのりなんだ・・・・・・。

ちなみに、以来、父からは毎月一回剃刀の替え刃が、弟からは毎月二、三回、スティックのりが送られてくる。

お陰で、大学生活のこれまで一年と半年、剃刀と糊にだけは不自由したことがない。


話を戻そう。

とにかく、当時私は実家からの荷物の整理に明け暮れていた。

だから、途中で部屋に人が入ってきても、気付かなかったのはいたしかたないことではないだろうか。


気がつけばその女は、私の片づけを実に効率よく手伝ってくれていた。

「・・・・・・誰?」

なんというか、普通に謎だった。

「私は逆木原初子。この寮の住人よ」

「はあ、どうも・・・・・小暮川一世です」

「私も大学二回生だから、タメでいいよ。今日は同じ住人のよしみで手伝いに来たの」

このとき、私が彼女を見誤ってしまったのは、後世に語り継がれる痛恨のミスに違いない。


その後、片づけは順調に終了したかに見えた。

「ありがとうございます。お陰で助かりました」

「タメでいいって」

「じゃあ、ありがとう」

「お互いさまよ」

そう言って逆木原初子は私の部屋から去った。

私は、財布を持って何か食べに行こうと寮を出たが・・・・・・。

持っていた財布が矢鱈、軽かった。

おかしいな。まるで財布の中のお札だけをごっそり持って行かれたかのように・・・・・。

以来、私と彼女の因縁は続く。


正直に打ち明けるまでも無く、私が逆木原を苦手としているのは寮の住人公認の事実であり、同時に逆木原の天敵が私であることも周知の事実だった。


財布の中のお札がごっそりと謎の失踪を遂げたその日から、私は逆木原の挙動をつぶさに観察し、彼女本質が『嘘』にあり、発する言葉が七対三の割合で虚実が混ざってることも発見した。

一か月もするころには、私は、逆木原の武器である『嘘』の一切通じない、逆木原キラーとでも呼ぶべき存在と化していたのだ。

まあ、苦手だからその『キラー』としての能力は殆ど発揮されることはないけれども。



回想終わり。

ともあれ、その時の記憶を振り返る限り、得られる教訓は二つ。

あの時、私は人生における大きな選択を誤った、ということと逆木原初子はあの時点では、私と同じ部屋、などと言うふざけた事態にはなっていなかったということである。

では、一体何がどうなって今の『ふざけた事態』と化しているのか。ことは一刻を争うのだ。

焦る私と対照的に、大家の返答はのんびりとしたものだ。

「え?知らないけど?」

「なんで知らねえんだよ」

「いや、だってこの寮の部屋交換って、実は自由なんだよね。私の部屋に一応、正式なリストがあるんだけど、いつでも書き換えていいことになってるし」

つくづく、この寮は一体どんな裏技で、経営を成り立たせているのだろうか。

IT企業の若社長並みの、ビックリドッキリな秘密でもありそうだ。

「要するに、お前と逆木原を同室にしたのは、あたし以外の、この寮の人間ということになる」

まあ、その気になればこの寮に関係ない人でもできるんだけどね、と大家はおどけたように付け足した。

「単刀直入に聞くけど、小暮川、お前か?」

「一体どういう風に脳みそを使ったら、この状況から今の答えが導かれるんだろうな」

「・・・・・・・関係ないけどお前、久しぶりに会ったらなんだが暴言の鋭さが増してるぞ」

長良川のせいか・・・・・などとつぶやく大家。

「まあ、要するに私と小暮川以外の誰かが、犯人ってことだ」

「・・・・・・・もうこの際、誰でもいいです。好き勝手に変えられるなら、自分で部屋を変えればいいだけのことですから」

そう言って大家に、『正式なリスト』とやらを借りようとしたら、大家はわかってないな、とでも言いたげに首を振った。

「ここで変更しちゃったら、面白くないじゃないか」

「・・・・・・・・・つまり?」

「犯人を見つけるまで、小暮川の変更権を剥奪します」

・・・・・・・・・・・・・・・全く。

この寮に入ってから一年と半年。逆木原がらみで、ろくな思いをしたことがない。

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