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宇宙人のごとき勘違い男の野望・中篇

「・・・・・・・・今朝起きたら、郵便受けに大量の広告が入っていて、開かなくなっていた」

「・・・・・・・・そうですか」

朝一番、機嫌の悪そうな長良川さんに捕まった私は、そこで曾祢木ヶ原の矮小な計画が実行に移されたことを知る。


「何事かと思って部屋に帰ったら、鍵穴にガムが詰められていて開かなくて、どうにか入ったら頼んだ覚えのない寿司の出前五人前が頼まれていた、さらに窓に知りもしないマイナーな政党の代表者のポスターが大量に貼られ、部屋に買いだめしておいたカップラーメンは全て消え、代わりに俺の苦手とする大量のスープ春雨が置いてあり、漫画は全てページの端を一冊一冊一ページごとに丁寧に織り込まれてなんか端の方が嵩張って読みにくいし、割り箸は全部折られてるし、結局朝飯は築紫の世話になった。ったく・・・・・・・・・どこのどいつか知らんが、犯人コロス」

良く一晩でそこまでできたな、と私は素直に曾祢木ヶ原に感心した。

というか、曾祢木ヶ原のせいで結局二人の関係が深まってる気がするのだが、気のせいだろうか。

ここで犯人を告発してもよかったのだが、今の長良川さんには例え何であろうと声をかけることを許されそうになかったので、私は開きかけた口を噤む。

「こんなモチベーションで事務所に行けとか・・・・・・・・全く、誰かが俺の代わりに犯人を見つけてくれたらいいと思わないかァ~?長良川」

「そ、そうですね~」

「だろ?・・・・・・ってことで頼むわ」

言いたいことを言い終え、すっきりとした表情で事務所へと向かう長良川さん。

かくして私は、長良川さんに対する嫌がらせの犯人を暴く探偵となった。

只一つ、普通の(推理小説に登場するような)探偵と違うことと言えば。


最初から犯人を知っている、ということだろう。



「・・・・・というわけで、『第一回・寮内嫌がらせ犯吊るし上げ会』を始めたいと思います」

「「「イェーーーー!!!」」」

昼過ぎ。

私と柿ヶ内さん、築紫さん、私の大学の先輩一名が、私の部屋にて、一堂に会していた。

大学の先輩、こと瑕村暇(きずむらいとま)さんは、交友関係が狭く、特に縦のつながりにおいてはほぼ無しと言ってよい私の、数少ない先輩である。

大学の学科もサークルも異なる(そもそも私はサークルには属していないが)にも関わらず、私と彼が如何にして交友を持つにいたったのかは不明である。

本人達にさえも。

ちなみに、さらに言うなら私の知人友人先輩後輩において、この三十木寮に出入りしているのは、彼と私の親友一人ぐらいである。

我が親友こと暴坂轟鬼(あばれざかごうき)もとい、『()世紀末皇帝』はコンビニのアルバイトのためここにはいない。

通称、『史上最強の非正規雇用(アルバイト)』。

彼の働くコンビニにはほかにも、『レジ打ち(スナイパー)』『掃除屋(クリーナー)』『伝説の男(店長)』など、面白人間がたくさんいるのだが、それはまた別の機会に。

「取りあえず、犯人の目星はついてるのかい?小暮川君」

柿ヶ内さんが胡坐をかいて傍らのスナック菓子をつまみながら言う。

ちなみに、菓子は私の部屋にあったものだ。

「まあ・・・・・・順当に考えて、曾祢木ヶ原ですよね・・・・・・」

「・・・・・・だろうねー」

柿ヶ内さんも、呆れたように頷く。彼も築紫さんをめぐる三角関係を知る一人だ(というか、三十木寮住人なら全員知っている)。

正直、三十木寮内で長良川さんに嫌がらせをする人間なんて、曾祢木ヶ原と俺ヶ浜さん以外に思い当たらず、俺ヶ浜さんは昨日の夜のうちにこっそりと寮を出ていることが分かった。

当分、帰っては来ないだろう。

「何故ですか?曾祢木ヶ原さんが何故『順当に』犯人なんでしょうか?」

一人、築紫さんは首をかしげている。

知らぬが仏、という言葉もあるにはあるが、自覚がないのは残酷なことだ。

「成程、君たちの人間関係はあらかた認識できたけれどもそこで我が後輩よ、具体的に犯人がわかったところでどのようにアクションを起こすのか聞きたいね、オーヴァー?」

なんかいきなりしゃしゃり出てきた瑕村先輩が、口をはさむ。

「トランシーバーで会話しているみたいに言わないでください先輩。それじゃあ普通に変な人です」

「普通に、変な人と言うのはおかしくないかい?変な人、という以上何かしら普通ではない要素が含まれているのじゃないかと僕は推察するわけだがそのあたりはどう思う訳かな?」

「取りあえずそのしゃべり方、すげえムカつきます」

「まあ、しょうがないんじゃないかな。三つ子の魂百までとは良く言ったもので人間というのはなかなか自分を変えられない、変え難い生き物だと僕は考えるわけだが特にそれらは人格、キャラクター、性格と言い換えてもいいがまあそんな感じのものに主にあてはまるわけだ。そうすると口調や口癖はそれらの典型ともいえる顕著な例であり変わらぬものの代表と言えるわけだから簡単に君に『ムカつきます』と言われておいそれと変えるわけにもいかないものがあるわけだよ、わかるかい?」

「わかりません」

「だろうね、僕もよくわからなかった」

じゃあ言うな。

私は一人心の中で毒づく。

「順当に犯人が曾祢木ヶ原だとして、どうやって吊るし上げるかだ」

『決めつけはよくないですよぅ』と半泣きになっている築紫さんを無視して、柿ヶ内さんが進める。

この人は後で、長良川さんに半殺しにされるに違いない。

「簡単じゃないですか?おんなじ目にあわせてやれば」

「そううまくいくかな?相手はこの三十木寮の住人ならざるものにして、それでいて寮の駐車場に居座るほどの猛者だよ?」

あ、やっぱ住人とは認めてないんですね。

「まあ、個人的には駐車場住まいってのは、寮の住人って言うよりホームレスに近い気がするしね・・・・・・」

「でもあいつ、大家さんには毎月『家賃』を請求されてるらしいっすよ」

「・・・・・・・マジで」

「大マジです」

呆れたようにため息をつく柿ヶ内さん。

となりでにこやかに笑う築紫さんは、果たして話の流れを理解しているのだろうか?


「とりあえず、嫌がらせを同じだけ返せばいいんじゃないかと思うわけだ」

ところ変わり、曾祢木ヶ原の寝泊まりしているテント(IN駐車場)で、意気揚々と心なしか嬉しげに瑕村先輩がが言った。

「・・・・・・・・で、具体的に何を?」

『いたずらはだめです』とまとわりつき止めてきた築紫さんは柿ヶ内さんによって足止めされている。

「彼のテントをスライムまみれにしてみようかと」

「うわあ・・・・ちっせえ・・・・・・」

「何か言ったかい?」

「いえ、別に・・・・・」

瑕村先輩は学園最強の不良たる称号、『世紀末皇帝』と対を成す、通称『始皇帝』の称号を関しており、その意味するところは世紀末皇帝が『暴力』であるのに対し始皇帝は『策謀』である。

一度聞いた耳より情報は十年経とうが四半世紀経とうがけして忘れず、それらを完璧に使いこなし、世界中に通じるネットワークを持ち、タイミングを逃すことなく最高に最悪な時に現れる、瑕村暇。

彼に陥れられた者は数知れず、彼等の流した涙が濁流となり町内を流れる『囲炉裏川(いろりがわ)』を氾濫させたと言われるほどだ。

そんな彼が、こんなちっさい嫌がらせで終わるわけがなかった。


「それから、スライムの中には昆虫の餌となるようなものを混ぜておこう」

「・・・・・・・すると?」

「彼、曾祢木ヶ原君の性格を類推する限り、自分のテントが汚れていてもさして気にするようなタイプの人間とは思えない。きっと、スライムも適当にテントから掻き出してお仕舞いだと思うんだ。だから追加ダメージを与えようと思って」

「・・・・・・・・・・・・・」

曾祢木ヶ原がテントから適当にスライムを掻き出す。

大した処置もせぬまま、テントの前でスライムを放置。

翌朝、そこには有象無象の昆虫類が・・・・・・・・・・・。

案外リアルに想像できた。

「それだけじゃ皮算用だからね。幾つも策を同時にしかけなければ。そうだ、これから蒸し暑くなるし、通気性を悪くするために(・・・・・・・)このテントの涼しげな窓をガムテで塞いでしまおう。それから、使い捨てのカイロを大量に置いていこう。後はそうだな、バナナの皮でもばら撒いておくか」

そう言って瑕村先輩はちゃくちゃくと流れるような慣れた手つきで準備を進めていく。

「さあ手伝え我が後輩よ。僕の情報網によれば彼がここに帰ってくるまで、ダイヤの乱れ等がなければあと一時間ほどだ。それまでに準備を進めるぞ!!!」

先輩は喋りながらもスムーズにガムテープでテントの窓を塞いでいる。

「・・・・・・はァ・・・・・・・」

私はため息をひとつつくと、いつの間にか準備されていた、足元の段ボール箱から、カイロを一つ取りだした。



その日の夜。

「・・・・・・・・・・・テント(いえ)に帰ってきたら、部屋中スライムヌルヌルまみれだった」

「・・・・・・・・そうか」

いやはや、胸が痛い。

「適当に掃いて外に出しておいたが、まったく、おまけにテントの窓はガムテでふさがれて、カイロが大量に転がってるせいで暑いしよぉ・・・・・・バナナの皮には滑ったし」

(・・・・・・マジかよ・・・・・どんくさいにもほどがあるだろ)

「何か言ったか?」

「いや、別に何も」

冷汗が止まらない。

「はん、まあいい・・・・・・・・。小暮川、頼みがある」

このとき私は、言いようのない嫌な予感に襲われ、その場を立ち去ろうとしたのだが腕を掴まれ逃げる事叶わず。


「・・・・・・・・・・・・・俺にこんな悪戯をしやがった犯人を、見つけてくれ」

・・・・・・・やっぱね~。

こうして私は、曾祢木ヶ原へのいたずら犯を探す運びとなった。

二つ、普通の小説に登場するような名探偵と違う点が二つある。

一つ目、私は犯人をしっている。

二つ目、私は曾祢木ヶ原が嫌がらせをさせられる環境に至った理由を知っている。

ここまで知っている、名探偵役もレアであろう。

ましてや、双方同時に依頼を受けるなど、前代未聞である。

まあ、私のことであるが。

夏になりました。諸事情により、七・八月中の更新はかなり不定期になりそうです。

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