第8話 城の、静かな声
第8話です。
お城の廊下は、長い
とことこ。
3歳の王子と、ルルは、並んで歩く。
だいこんは、少し後ろ。
にんじんは、王子の隣。
たまごは、静かについてくる。
ルルの足あとが、薄く、ひかる。
でも。
曲がり角で、ふいに、止まった。
耳が、ぴくり、と、動く。
「ルル?」
王子が、かがむ。
ルルは、壁を見ている。
そこは、なんでもない、白い壁。
窓もない。
絵もない。
静か。
「……ここ」
小さな声。
王子の胸が、ちくり、とする。
「なにか、聞こえますか」
たまごが、静かにたずねる。
ルルは、こくり、と、うなずく。
耳を、すこし、長くする。
ぴょこん。
その瞬間。
王子の指先の、青い光りが、ふわり、と、広がった。
壁に、薄く、魔法陣。
うさぎの耳が、柔らかく、かたむく。
――しん。
でも。
その、しん、の、向こう。
とても、小さな、ふるえ。
昨日の声。
今日の声。
誰かの、ため息。
王子は、そっと、手を、壁にあてる。
「……さびしい?」
そのとたん。
ぱち。
小さな、光りが、壁の中で、はねた。
遠く。
部屋の向こう。
誰も使わなくなった、小さな部屋。
窓は、ほこり。
椅子は、一つ。
昔は、誰かが、そこに座っていた。
待っていた。
でも、今は、からっぽ。
ルルの目が、やわらぐ。
「……ひとり」
王子の胸が、どくん、と、なる。
ひとり。
その言葉は、よく知っている。
王子は、ゆっくり、息を吸う。
そして。
ぎゅ、と、手を握る。
青い光りが、柔らかく、壁にしみる。
すう、と。
ぬくもりが、広がる。
小さな部屋の、ほこりが、ふわり、と、舞う。
窓のくもりが、すこし、薄くなる。
風が、柔らかく、吹く。
からっぽだった椅子が、きし、と、声を出す。
まるで。
「ありがとう」と、言うみたいに。
王子は、そっと、手を離す。
「もう、ひとりじゃないよ」
ルルが、ぴたり、と、隣にくる。
耳が、すこし、下がる。
でも、今度は、寂しさじゃない。
柔らかい、下がりかた。
にんじんが、静かに言う。
「城も、生きていますね」
だいこんが、こくこく、うなずく。
「知らなかったなあ」
たまごが、ゆっくり、まとめる。
「殿下は、森だけでなく、
城の声も、聞けるようです」
王子は、廊下を、見渡す。
長い。
広い。
でも。
ところどころに、小さな、静かさ。
それは、ただの、静かさじゃない。
待っている、静かさ。
ルルは、また、一歩、歩く。
とことこ。
別の曲がり角。
そこにも、小さな、ふるえ。
王子は、微笑む。
こわくない。
聞ける。
そして。
すこし、あたためられる。
床に、薄く、魔法陣。
今度は、いくつもの、うさぎの耳。
あちこちに、かたむく。
城が、聞いてもらっている。
それは、とても、小さな、出来事。
でも。
お城の中の、静かな声は。
初めて、誰かに、聞いてもらえた。
ルルは、そっと、つぶやく。
「……ここも、もりみたい」
王子は、こくり、とうなずく。
「うん。ここも、いきてる」
雨は、まだ、降っている。
でも。
城の中には、あたたかい、耳が、増えていた。
王子とルルを、見守っていただきありがとうございます。




