第7話 お城の中へ
第7話です。
ルルは、庭の芝生の上で、ぴょこん、と、止まっている。
城を、見上げる。
大きい。
白い。
高い。
耳が、ぴくり、と、動く。
「……はいる?」
3歳の王子が、そっと、聞く。
ルルは、王子を見る。
青い光りが、指先で、柔らかく、揺れている。
怖くない。
暖かい。
ルルは、こくり、と、うなずいた。
「よし!」
だいこんが、胸を張る。
「俺が、案内する!!」
「静かに、ですよ」
たまごが、たしなめる。
にんじんは、王子の手を、そっと、握る。
大きな、扉が、ぎい、と、開く。
城の中は、ひんやり。
床は、つるつる。
天井は、高い。
ルルは、一歩、入って――
つるり。
「わっ」
滑った。
ころころころ。
だいこんの足に、ごつん。
「おお!?」
だいこんが、よろける。
にんじんが、くすり、と、笑う。
「滑りますね」
ルルは、ぺたん、と、座る。
みみが、しょんぼり。
「だいじょうぶ?」
王子が、しゃがむ。
光りが、ふわり、と、広がる。
すると。
床に、薄く、小さな魔法陣。
うさぎの耳の、かたち。
そこだけ、滑らない
「……すべらない」
ルルが、そっと、歩く。
ぴたり。
ちゃんと、立てた。
「殿下の光りが、馴染ませています」
たまごが、感心する。
「仲間、と、認めたでしょう」
ルルは、ぱちぱち、と、目を瞬く。
なかま。
その言葉は、暖かい。
遠くの廊下で、風が、ひゅう、と、吹く。
壁に飾られた、絵が、かすかに、揺れる。
ルルは、びくり、と、耳をたてる。
王子は、すぐ、隣にくる。
「だいじょうぶ。ここ、ぼくのおうち」
おうち。
ルルは、城を、もう一度、見上げる。
誰かの、おうち。
それは、初めて聞く、柔らかいひびき。
とことこ、と、歩く。
長い廊下。
窓から、雨。
葉っぱが、きらきら。
ルルの足あとが、薄く、光る
「おや?」
曲がり角。
掃除をしていた、年配の使用人が、目を丸くする。
「殿下……その、小さいのは?」
だいこんが、どん、と、前に出る。
「友達だ!!」
「友達、です」
にんじんが、優しくつづける。
使用人は、少しだけ、驚く。
でも。
ルルを、じっと見て。
それから、王子を見る。
指先の、青い光り。
ふわり、と、部屋に、暖かさが、広がる。
「……暖かいですね」
使用人は、微笑んだ。
「殿下の、お客様なら、歓迎です」
ルルの胸が、ぽう、と、明るくなる。
森では、誰も、そう言わなかった。
「かんげい」
それは、初めての、音。
王子は、嬉しくなって、笑う。
光りが、ぱあ、と、和らぐ。
廊下の花瓶の花が、少し、背を伸ばす。
雨の音が、柔らかくなる。
ルルは、そっと、王子の隣に、並ぶ。
ぴたり。
小さな体。
けれども、ちゃんと、そこにいる。
「ルル」
王子が、呼ぶ。
ルルは、耳を、ぴん、と、たてる。
「いっしょ、あるこう」
こくり。
うなずく。
その瞬間。
うさぎの耳の、魔法陣が、床に、薄く、広がった。
ふたり分。
並んで、光る。
お城の中に、森の声が、初めて入った日。
それは、小さくて。
でも。
確かな、一歩だった。
王子とルルを、見守っていただきありがとうございました。




