第19話 耳が、伸びる
第19話です。
朝。
雲は、薄く、流れている。
塔の上に、柔らかな光。
魔法陣の、真ん中。
3歳の王子は、ぺたん、と、座る。
茶色の、兎の耳が、
少しだけ、眠そうに、垂れている。
「きょうも、まつ」
胸に、手を、当てる。
どく。
……。
どくん。
魔法陣が、ふわ、と、光る。
ぴたり。
ルルが、小さく、頷く。
「きのうより、ながい」
王子は、えへへ、と、笑う。
もう一度。
どく。
……。
どくん。
ぴたり。
今度は、もっと、柔らかい。
その時。
魔法陣の、兎の耳が、
ふわり、と、揺れた。
風は、ない。
でも。
少しだけ、長く、伸びる。
「?」
ルルの耳が、ぴくり。
だいこんが、声を潜める。
「今……」
にんじんも、目を細める。
どく。
……。
どくん。
耳が、また、伸びる。
今までより、少しだけ、高く。
空に、近づく。
光が、塔の外へ、零れる。
街の煙突が、きらり。
森の葉が、さわり、と、揺れる。
鳥が、一声。
どくん。
王子の茶色の、耳が、
ぴん、と、立つ。
先が、少し、熱くなる。
ほんの、少しだけ。
本当に、少しだけ。
長く、伸びる。
ルルが、息を呑む。
「……のびた」
「え?」
王子は、自分の耳を、触る。
柔らかい。
いつもと、同じ。
「かわってないよ?」
でも。
また、どく。
……。
どくん。
魔法陣の耳が、
今までで、一番、長く、伸びる。
それと、一緒に。
王子の茶色の耳も、
ぴたり、と、揃う。
形が、
同じ。
ほんの、一瞬。
塔の中が、静かになる。
光が、丸く、広がる。
王が、入口に、立っている。
その目が、わずかに、開く。
まだ、短い。
まだ、子ども。
だが。
確かに、伸びた。
どくん。
光が、空へ、滑る。
雲の間を、抜けて。
ずっと、遠くへ。
ぴかり。
どこかの、空の下。
誰かが、ふと、耳を、触る。
でも、気づかない。
塔の上。
王子は、ちょっとだけ、疲れた顔。
「なんか、ぽかぽかする」
にんじんが、優しく、抱きしめる。
「育っております」
だいこんが、こくん。
「殿下、今日は、長いです」
「長い?」
王子は、首を、かしげる。
耳が、ふわり、と、揺れる。
まだ、短い。
でも。
さっきより、少しだけ、空に近い。
どく。
……。
どくん。
魔法陣の耳が、揺らぐ。
けれど、消えない。
戻る。
今は、ここまで。
王は、そっと、頷く。
まだ、足りない。
まだ、短い。
だが。
伸びようとしている。
3歳の王子は、まだ知らない。
自分の鼓動が、
自分の体を、
そして、王家の紋章を、
少しずつ、空へ、開いていることを。
それは、
完成ではない。
けれど、
間違いなく、
王へと、伸びる、
耳の、始まりだった。
王子を見守っていただき、ありがとうございました。




