第17話 ちちうえの、おと
第17話です。
夕方。
空が、赤い。
塔の上は、静か。
3歳の王子は、
窓のそばで、雲を見ていた。
「きょう、まった」
ぽつり。
後ろで、声。
「見ていた」
王子、くるり。
「ちちうえ」
王が、ゆっくり、歩いてくる。
固い靴。
でも、音が、柔らかい。
王子は、少し、照れる。
「そろったよ」
「うむ」
王は、隣に、座る。
窓の外。
街の煙。
森の影。
静かに、息をしている。
「父上」
「なんだ」
「ぼく、早い?」
王は、少し、考える。
「早い」
王子、しょんぼりしかける。
でも。
「だが、悪くない」
王子、ぱちぱち。
「音とはな」
王は、胸に、手を当てる。
どくん。
静かで、深い。
「一つでは、世界にならん」
どくん。
「早いおとも、いる」
どくん。
「ゆっくりな音も、いる」
どくん。
「違うから、響く」
王子は、じっと、聞く。
王の胸に、耳を、ぺたり。
どくん。
どくん。
自分より、ゆっくり。
でも、強い。
「父上、待ってる?」
「うむ」
「いつも?」
「できるだけな」
王子は、考える。
「待つの、難しい」
王は、少し、笑う。
「だから、王なのだ」
王子、きょとん。
「偉いから、王じゃない」
王の声は、静か。
「待てるから、王だ」
夕焼けが、部屋に、差し込む。
うさぎの耳の、紋章が、薄く、光る。
王子は、自分の胸に、手を当てる。
どくん。
まだ、少し、早い。
「父上」
「なんだ」
「ぼく、まてる?」
王は、子どもの頭に、手を置く。
「きょう、まった」
それだけ。
王子の目が、少し、潤む。
「ぼく、頑張った」
「うむ」
どくん。
王の胸。
どくん。
王子の胸。
少し、違う。
でも。
今は、並んでいる。
窓の外。
町の子どもが、笑う。
森の鳥が、一声。
どくん。
……どくん。
ほんの、一瞬。
塔の上で、
二つの音が、
ぴたり、と、そろう。
王子は、まだ、知らない。
今日、初めて、
自分の鼓動が、
誰かと、一緒に、
“ならんだ”ことを。
それは、
世界を揃える前の、
一番、大切な、音だった。
お読みいただき、ありがとうございました。




