第12話 初めての町
第12話です。
雨が、止んだ。
雲は、薄く、解けている。
「今日は、街へ」
たまごが、丁寧に、告げる。
3歳の王子は、ぱちぱち、瞬き。
「まち?」
塔の上から、見えていた、小さな屋根。
赤いの、茶色の、丸いの。
そこに、行く。
ルルの、耳が、ぴょこん。
王子は、小さなマントを、着けてもらう。
うさぎの耳の、印。
にんじんが、裾を、直す。
「今日は、“聞く”日です」
だいこんは、拳を、握る。
「何かあれば、すぐに!」
ごとり。
白の門が、開く。
街の、匂い。
焼き立てのパン。
濡れた、土。
人の、声。
ざわざわ。
笑い声。
「……わあ」
王子の目が、丸くなる。
人が、たくさん。
でも。
みんな、普通に、歩いている。
王子に、まだ、気づいていない。
たまごが、そっと、囁く。
「今日は、お忍びで」
王子は、こくり。
手を、ぎゅっと、握る。
――ざわ。
そのとき。
少しだけ、違う、揺れ。
横道。
小さな、子供。
一人。
濡れた、壁のそばで、うずくまっている。
パン屋の前。
お金を、握っている。
でも。
パンは、もう、ない。
「……無くなっちゃった」
小さな声。
王子の胸が、きゅ、と、なる。
どくん。
指先に、青い光。
うさぎの耳が、うっすら、開く。
ルルが、耳を、立てる。
「……寒い」
その声は、言葉じゃない。
でも、聞こえる。
王子は、一歩、前へ。
だいこんが、慌てる。
「殿……!」
にんじんが、そっと、手を挙げる。
止めない。
王子は、パン屋を、見上げる。
「もう、ないの?」
店のおじさんが、困った顔。
「ああ、悪いねえ。今日は、これで、おしまいだ」
王子は、少し、考える。
胸が、ぽう、と、温かい。
「じゃあ」
指先が、ふわり、と、光る。
でも、強くない。
優しい、光。
「半分こ」
そのとき。
パン屋の奥から、ころり、と、丸いパンが、一つ、転がり出る。
「あれ?」
おじさんが、目を丸くする。
「まだ、あったか?」
誰も、気づかない。
でも。
うさぎの耳の、魔法陣が、一瞬、小さく、揺れた。
王子は、パンを、子供に、渡す。
「いっしょ」
子供が、ぽかん、と、見る。
「……ありがとう」
にこ。
その笑顔。
どくん。
王子の胸が、強く、響く。
青い光が、空へ、すっと、伸びる。
街の人が、ふと、振り向く。
でも。
すぐに、戻る。
柔らかい、温かさだけが、残る。
だいこんが、ぼそり。
「戦ってないな」
にんじんが、微笑む。
「ええ」
たまごが、静かに、言う。
「守る、とは」
王子は、パンを、一かじり。
美味しい。
でも。
それより。
隣の笑顔が、温かい。
「……ぎゅって、すること」
こくり、と、頷く。
そのとき。
街の端。
森の方。
小さな魔物が、そっと、顔を出す。
青い光を、見上げる。
柔らかい。
優しい。
「……王様の、卵」
小さな声が、笑う。
街は、いつも通り。
でも。
ほんの少しだけ。
温かくなっていた。
王子とルルを、見守っていただきありがとうございます。




