第10話 遠くの空の下
第10話です。
雨は、城の上で、静かに降っている。
でも。
ずっと、遠く。
国の外れ。
山をいくつも、越えた先。
そこでは、雲が、早く、流れていた。
風が、強い。
広い大地に、どん、と張るテント。
その真ん中に、立派な、金色の旗。
うさぎの耳の、しるし。
「報告を」
静かな声。
王子のお父様。
真っ直ぐな、眼差し。
鎧の上に、薄く、土。
「はい。今日は、境目の森が、少しだけ、騒ぎました」
兵隊が、答える。
「大事では、ございません」
お父さまは、空を見上げる。
雲が、きれる。
その隙間から。
細い、青い光。
すう、と、真っ直ぐ、伸びる。
ほんの、一瞬。
でも。
確かに、見えた。
「……来たか」
お父さまの口元が、和らぐ。
隣に立つのは、王子のお母さま。
柔らかい瞳。
でも、強い。
「ええ」
お母さまは、胸に手をあてる。
どくん。
小さな、響き。
「目覚めましたね」
風が、旗を、ばさりと、揺らす。
うさぎの耳のしるしが、光を受ける。
お父さまは、ふ、と、微笑む。
「3日、か」
「長いですね」
お母さまが、優しい、言う。
でも、その声に、不安はない。
「でも、あの子は、一人ではありません」
雲くもの隙間から、もう一度、青い光。
今度は、少し、柔らかい。
それは、聞く光。
探す光。
繋ぐ光。
お母さまの目が、少しだけ、すこしだけ、潤む。
「ちゃんと、聞いていますね」
お父さまは、こくり、と、頷く。
「我らの、声も」
風が、少し、和らぐ。
遠くの森の、ざわめきも、鎮まる。
うさぎの耳のしるしが、ふわり、と、光る。
「戻りましょう」
お父さまが、言う。
「国は、もう少しで、整う」
「ええ」
お母さまが、空をもう一度、見上げる。
青い光は、もう、見えない。
でも。
確かに、あった。
「待っていてね」
それは、声にしない、言葉。
でも。
遠く。
城の中で。
3歳の王子が、ふと、空を見上げる。
雨の雲。
でも。
胸が、少し、あたたかい。
「……いま、なんか、あった」
ルルが、耳を、ぴくり、と、動かす。
たまごが、静かに言う。
「遠くの、声かもしれません」
王子は、指先を見る。
青い光が、柔らかく、揺れている。
強くない。
暴れない。
ただ、そこにある。
繋がっている、しるし。
雨は、まだ、降っている。
でも。
空の、向こうでは。
誰かが、ちゃんと、笑っていた。
王子と王と王妃を、見守っていただきありがとうございます。




