表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翠玉の福音  作者: 天丹
7/9

過去編:灰色の檻と、血に濡れた子守唄

かつて、魏影という名の少年は、後宮の片隅で息を潜めるように生きていた。  


腹違いの兄弟は十人を超え、誰もが「帝」という座を目指し、毒と刃を隠し持っていた時代だ。


「……また、一人消えたか」


庭の池に浮かんだ兄の一人を眺めながら、少年だった魏影は感情を捨てた。


流行病が宮中を席巻した際も、彼は死を恐れなかった。


むしろ、この薄汚れた欲望の渦から解き放たれるのなら、病による死さえも慈悲に思えたのだ。


だが、運命は彼に「生」を強いた。

有力な継承者が次々と病に倒れ、あるいは互いに計略を仕掛け合って共倒れしていく中、なぜか最も野心のなかった魏影だけが、健康な体のまま取り残されてしまったのである。


その時、彼の足元に縋り付いたのが、まだ言葉も持たぬ腹違いの弟だった。


この幼子もまた、毒を盛られた母を亡くし、孤独に震えていた。


(……ああ、面倒なことになった)


魏影は弟を愛したわけではない。

ただ、目の前で無残に散っていく命の連鎖に、ひどく飽き飽きしていたのだ。


彼は仕方なく、転がり込んできた「王座」という名の重石を引き受けた。


弟を次の王として育て上げ、安全に引き継ぐまで――それが、彼が自分に課した、乾いた「役目」だった。


感情を殺し、冷徹な帝として振る舞う日々。


そんな彼の唯一の慰めは、夜の帳が下りる頃、誰に聞かせるでもなく口ずさむ「歌」であった。


それは、この泥沼のような宮廷には似合わない、清らかで、しかし救いようのないほど孤独な旋律。  


その歌が枯れ果てる頃、まさか翠玉の森の神――天珠を惹きつけることになろうとは、その時の彼は知る由もなかったのである。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ