まどろみの終局
碁盤の上には、もはや逃げ場などどこにもなかった。
天珠がどこへ石を置こうとも、魏影の執念深い黒石が、影のようにぴたりと寄り添い、彼女を絡め取っていく。
「……はぁ。もうよい。妾の負けだ。」
天珠は石を放り出し、椅子の背にもたれかかった。
神が人間に、それもこんな強引な男に盤上で屈するなど、三百年……いや、千年あってもなかったことだ。
「俺の勝ちだな、天珠。……約束通り、今宵は月が沈むまで、俺の隣にいろ。」
魏影は満足げに目を細めると、当然のように天珠の隣に腰を下ろした。
遠慮も恐れもなく、政務と執着に疲れ果てた男の体が、重みを持って天珠の肩に預けられる。
「……ふん。そなた、会うたびにずぶとくなっていくな。」
天珠は呆れたように吐き捨てた。
だが、負けたというのに、その心には不思議と清々しさが広がっていた。
「しつこい奴め。そなたの勝ちだ、好きにするがよい。」
天珠は眉を寄せながらも、その温もりを拒むことはしなかった。
危機感はまだ、胸の奥で微かに警鐘を鳴らしている。
けれど、男の深い眠りの中の「調べ」は、今は驚くほど穏やかで、天珠を安心させる調べへと変わっていた。
いつしか、天珠もまた、その心地よい重みに抗うのをやめ、ゆっくりと瞼を閉じた。
静まり返った寝殿。
神と帝が寄り添ってまどろむ中、どこからともなく、真っ白な毛並みのウサギたちが、ひょこひょこと姿を現した。
天珠の使い魔である彼らは、袖の中に隠していた真っ白な薄衣を、せっせと二人の肩にかけていく。
まるで、この奇妙な縁を祝福し、二人を世界から隠してやるかのように。
月光に照らされたその光景は、恐ろしい執着の果てに辿り着いた、かりそめの安らぎであった。




