盤上の檻、あるいは執着の網
ある夜、魏影は天珠に「碁」の勝負を挑んだ。 静まり返った寝殿に、石を置く硬い音だけが響く。
「……魏影よ。そなたの打ち筋、存外に図々しいのう」
天珠が呆れたように声を漏らす。 魏影の放つ一石一石は、領土を広げることよりも、天珠の白石を隅へと追い込み、執拗に囲い込もうとする意図に満ちていた。
「俺は、欲しいものは泥を啜ってでも手に入れると決めているんだ。たとえ、相手が神であろうとな」
「不敬な奴め。妾を盤上に閉じ込めるつもりか?」
「閉じ込める? 滅相もない。……俺はただ、あんたが二度と空を見上げないよう、足元だけを見つめていられるようにしたいだけだ」
魏影がパチリと置いた一手は、天珠の逃げ道をすべて塞ぐ、逃れようのない網であった。
天珠は、自分の指先が微かに震えるのを感じた。
(……この男、本気だ)
魏影の瞳は、崇拝者のそれではない。
獲物を追い詰め、その羽を毟ってでも手元に留め置こうとする、捕食者の濁った熱を帯びている。 神としての本能が、天珠の耳元で警鐘を鳴らし続けていた。
だが、その危機感こそが、天珠の退屈しきった永劫の時間を、鮮烈な色で塗り潰していく。
「面白い。……ならば、妾も少しだけ、本気で遊んでやろう」
天珠は、自嘲気味に微笑んだ。
逃げるつもりの神と、逃がす気など微塵もない男。
二人の間に流れる空気は、もはや寵愛などという生ぬるいものではなく、互いの魂を削り合う、静かな闘争であった。




