第4話:私の視界に、お前以外は要らない
「右手左足髪の毛」
第3話では、主君が権左を操り、ライバルを「不純物」として排除し始めました。
続く第4話は、主君の独占欲がさらに暴走します。他の男を視界に入れただけで、権左が主君に怒られる(?)お話です。
「あ、ありえない……! 死体の……それも、自律術式ごときが、僕の『真理の壁』を貫くなんて!」
ライが絶望に染まった声を上げる。
彼が展開した、何重もの幾何学的障壁。それは生前の主君も高く評価した、完璧な防御術式のはずだった。
だが、主君の意志に操られた俺の右拳は、その「完璧」を鼻で笑うように突き抜けた。
物理的な破壊ではない。俺の拳が触れたそばから、ライの術式が主君の魔力によって「上書き」され、彼の所有権が剥奪されていくのだ。
「悪いな、ライ。アンタの術式は確かに綺麗だけど……主君にとっては、ただの『ノイズ』らしい」
「黙れ! 出来損ないが、先生を語るな!」
ライが激昂し、さらなる術式を編もうとする。
その一瞬、俺の目がわずかにライの複雑な魔法陣に奪われた。錬金術師として、その高度な技術に純粋な興味が湧いてしまったのだ。
ドクンッ!
その直後、俺の心臓が内側から、鋭い氷の棘で貫かれたような激痛に襲われた。
「が、はっ……!?」
『……どこを見ている、権左。その安っぽい光景に、一瞬でも心を奪われるな』
脳内に響く主君の声は、氷点下まで冷え切っていた。
それはライへの怒りではなく、俺への「教育」……いや、ただの嫉妬だ。
『お前の眼球に映っていいのは、私だけだ。お前の脳が思考を許されるのは、私のことだけだ。……忘れたのか? お前の右手も、左足も、髪の毛の一本まで、誰のものかを』
「……っ、ふふ、あはは! すみません、イザベラ様。……そうでしたね。俺の全部、アンタの所有物だ」
心臓を抉る術式の痛みが、甘い悦びとなって全身を駆け巡る。
俺は主君に操られるまま、一気に距離を詰め、ライの胸元に手を添えた。
「お別れだ、ライ。主君が、アンタのことを『視界の汚れ』だっておっしゃってる」
黄金色の魔力が、俺の手の平からライの体内へと逆流する。
殺しはしない。主君は彼を「殺す価値さえない」と断じた。
「あ、あああ……魔力回路が……僕の、僕の錬金術がぁぁぁ!!」
ライの絶叫が響き渡る。
主君が施したのは、彼の魔力特性を根底から書き換え、二度と術式を編めない体にする「追放」の呪い。
錬金術に人生を捧げた彼にとって、それは死よりも残酷な、完全な否定だった。
ライが崩れ落ち、周囲に静寂が戻る。
俺はボロボロになった自分の体を癒すこともせず、背負っていた主君をそっと地面に下ろし、膝をついた。
すると、主君の冷たい指先が、不意に俺の頬を撫でた。
爪が皮膚に食い込み、細い血の筋が流れる。
『……よし。悪い子には、これくらいの罰が必要だな』
脳内の声は、ほんの少しだけ、満足げに弾んでいた。
死してなお、彼女の独占欲はとどまることを知らない。
「……次は、どこへ行きましょうか。主君(イザベラ様)」
俺は彼女の冷たい手を、自分の頬に押し当てながら笑った。
お読みいただきありがとうございました!
主君のイザベラ様、もはや死んでいることを忘れるくらいの嫉妬深さですね。
ライバルへの仕打ちが残酷なのは、彼への憎しみではなく「権左の邪魔だから」という一点に尽きるのが彼女らしいところです。
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