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鬼教官として名高い騎士団の「ハズレ師匠」に転生した。落ちこぼれの新人を史上最強に育て上げたら、なぜか聖女や王女まで弟子入り志願してくるんだが?  作者: 長尾隆生@放逐貴族・ひとりぼっち等7月発売!!
第三章 問題児たちの狂詩曲(ラプソディ)

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第31話 終わらない悪夢と、絶望の再演と、砕かれる希望と

 黒い霧が晴れた時、そこに立っていたのは三体の霧幻の狩人ファントム・ストーカーだった。


 一体ですら死闘の末にようやく倒した相手。それが三体。

 魔力も体力も尽きかけている今の俺たちでは到底勝ち目などない。

 絶望が再び俺たちの心を支配しようとしていた。


「怯むな! 奴らの動きはもうわかっている。一体ずつ確実に仕留めるぞ」


 だが俺は指揮官として、その絶望を振り払うように叫ぶ。

 それは虚勢だったかもしれない。だがその声は確かに仲間たちの心を繋ぎ止めた。

 俺を含め四人は満身創痍の身体に鞭打ち、再び武器を構える。


 しかし三体の狩人たちは、先ほどのように真正面から襲いかかってはこなかった。

 一体が陽動として正面からクロエを牽制し、残りの二体はまるで意思があるかのように左右の岩壁を駆け上がり、死角となる側面と後方からアッシュとフィンを同時に狙ったのだ。


(まずい……あいつら、連携して俺たちを攻撃するつもりだ)


 俺は敵の動きを見ながら必死に仲間たちに指示をする。


「アッシュ、右。フィン、左後方だ」


 俺の指示と同時に、アッシュが神速の抜刀術で側面からの奇襲を辛うじて弾き返す。だがフィンは反応が遅れた。


「ひっ……」


 彼の背後から迫る死の爪。


「――ちいっ。間に合えっ!」


 俺は咄嗟にフィンの前に剣を構えながら自らの身体を盾にするように飛び込んだ。

 ガキンと甲高い音が響き、奇跡的に俺の剣が狩人の爪の機動をそらす。

 だがその代償は大きかった。

 無理な体勢で攻撃を受けたせいで俺の身体がバランスを崩してしまった。

 その隙を狩人は見逃すわけがない。

 鋭い爪が横薙ぎに振るわれた瞬間、俺の脇腹に激痛が走った。


「ぐっ……」


 俺は苦痛の声を上げて思わず膝をつく。

 指揮官の負傷。それはこの部隊の機能が半分停止したことを意味していた。


「隊長ぉっ!」


 俺の悲鳴が聞こえたのだろう。アッシュが焦りの声を上げて振り返る。


「アッシュ! 後ろだ!」


 クロエが叫ぶ。俺に気取られたせいで、目前の敵から意識が逸れてしまったのだ。

 アッシュはハッとして振り返り、咄嗟に剣で真正面から防御する。

 だがそれは悪手だ。

 彼の剣は神速のスタイルに会わせた軽い剣。だがそれ故に脆く、重い一撃を受け止めるようにはできていない。

 キィンという甲高い金属音と共に、アッシュの愛剣が真ん中から呆気なくへし折れる。


「……あ」


 アッシュが間の抜けた声を上げる。

 剣士が剣を失う。それは死を意味していた。

 だが狩人は剣を失ったアッシュに追撃もせず一歩引き下がると、今度は別の狩人を押さえ込んだまま動けずにいるクロエの背に爪を立てた。


「ぐあああっ」


 この瞬間、俺とアッシュ、それにクロエ。第三特務分隊の主戦力がほぼ失われてしまった。


 もう誰も助けには入れない。

 戦力はほぼゼロ。

 唯一無事なフィンも、まだ魔力が十分に回復していない。

 いや、たとえ回復していたとしても、彼に三体もの霧幻の狩人ファントム・ストーカーを相手に出来るとは思えない。


 万事休す。希望は完全に砕かれた。

 幸い霧幻の狩人ファントム・ストーカーどもは俺たちに恐怖と絶望を感じる時間を与えるためか、まるでその時間を楽しむかのように赤い目を揺らしてすぐにトドメを刺しに来る様子はない。


 だが、それも時間の問題だろう。

 俺は血を流し続ける傷口を押さえながら自らの判断の甘さを呪っていた。


(……ここまでか。俺の指揮ではこいつらを……守れなかった。だが――)


 俺は指揮官として最も苦しい、そして最後の決断を下スコとに決めた。


「……フィン」


 俺はか細い声で最後の仲間を呼ぶ。


「お前だけでも逃げろ。俺たちが時間を稼ぐ」

「そ、そんな……できません」

「……行け。これは隊長命令だ!」


 俺は剣の切っ先を杖代わりに、ふらつきながら立ち上がる。

 続けてクロエもアッシュも覚悟を決めたように、無言で敵を睨みつけ剣を構えた。

 俺もあいつらも死を覚悟してフィンを逃がすために最後の突撃を敢行しようとした。

 それはあまりにも無謀で、そしてあまりにも英雄的な最後の抵抗だった。


「いくぞ……」


 だが俺が死地へ向かって一歩を踏み出そうとしたその直前。

 静かで、そして底知れないほど冷たい声が、その空間に響き渡った。


「――そこまでだ」


 その声はまるで絶対零度の刃のように、戦場の熱狂と絶望を一瞬で切り裂いた。

 リアムたちがハッとして声のした方を見る。


 そこにはいつの間にか一人の男が立っていた。

 霧の中から音もなく姿を現した――カイエン・マーシャルが。


「貴様らの『試験』はここで終わりだ」


 彼はまるで散歩でもするかのような落ち着き払った足取りで、絶望の淵に立つ俺たちを守るように勝利を確信して赤い瞳を揺らす狩人たちの前に立ち塞がったのだった。

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