閑話 その頃のリナと聖女様
俺が第三特務分隊という名のガラクタ共と格闘している間、もちろんリナと聖女セレスティアがただ遊んでいたわけではない。
彼女たちにはそれぞれ俺から与えられた次なる課題があるのだ。
リナは今、騎士団の第一訓練場で一種の「伝説」になりつつある。
俺が第三特務分隊の指導にかかりきりになる前、彼女に一つの命令を下しておいた。
「貴様の次の課題は反復だ。俺が教えた【限界突破】の応用技術――部分強化を、身体が覚えるまでただひたすらに繰り返せ。脚、腕、そして体幹。その三つを一秒以下の速度で切り替えられるようになるまで、訓練場から出ることは許さん」
その言葉を彼女は神託のように守り続けている。
朝から晩まで来る日も来る日も、彼女は一人訓練場で神速のステップと岩をも砕く拳撃を、ただ黙々と繰り返している。
その光景はもはや訓練ではない。一種の演舞だ。
脚に力を集めて疾風のように駆け抜けたかと思えば、次の瞬間には腕に力を込めて訓練用の岩を粉々に砕き、さらにその次の瞬間には体幹を強化して上級騎士の全力の一撃を微動だにせず受け止める。
他の訓練生たちはもはや彼女を「落ちこぼれ」とは呼ばない。
畏怖を込めてこう呼んでいる。
「……カイエン教官の最高傑作」と。
彼女は俺がいない間も俺の教えを完璧に遂行し、その力を確実に、そして恐ろしいほどの速度で自分のものにしているのだ。
◇ ◇ ◇
一方、聖女セレスティアは騎士団にはいない。
彼女はあの孤児院を自らの活動拠点としていた。
俺が彼女に与えた課題はもう終わっている。だが彼女は俺の教えの「深遠なる哲学」をさらに探求するという名目で、神殿に戻ることを拒否したのだ。
もちろん俺の教えに哲学など欠片も存在しない。
だが彼女の勘違いはもはや誰にも止められない。
彼女は孤児院を拠点に、王都の貧民街で無償の治癒活動を始めていた。
以前の彼女ならその暴走する力で、怪我人をさらに危険な状態に陥らせていただろう。
だが今の彼女は違う。
俺の「指導」によって力の完全な制御を身につけた彼女の【癒しの光】は、まさに奇跡そのものだった。
どんな重傷もどんな病も、その穏やかな光の前では跡形もなく消え去っていく。
貧民街の民はもはや彼女をただの「聖女様」とは呼ばない。
感謝と、そして狂信的なまでの信仰を込めてこう呼んでいる。
「……我らが『聖母』」と。
そして彼女はその奇跡を行うたびに、必ずこう口にするのだ。
「この力はわたくしのものではありません。全ては我が師、カイエン様の深遠なるお導きの賜物なのです」と。
……やめてくれ。
俺の知らぬところで俺の評判がとんでもない方向へと神格化されている。
団長から時折苦々しい顔でその報告を受けるたびに、俺の胃はキリキリと痛むのだ。
つまり、こういうことだ。
俺が第三特務分隊という名の新たなガラクタ共の育成に没頭している間、俺の最初の弟子と勘違い聖女は、それぞれがそれぞれの場所で俺の伝説を勝手に、そして凄まじい速度で作り上げ続けている。
俺の平穏な日々はもう、どこにもないらしい。




