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未来の私

遥は、カフェを出て海岸沿いの遊歩道を歩き出した。


海は穏やかに見えるが、頬に当たる風は強い。


これから何が起きるのかを想像すると遥の胸は高鳴った。

10分ほど歩くと遊園地が見えてきた。


入り口には、『潮風ドリームランドへようこそ!』と書かれたカラフルな看板が掛かっている。


もう、都会では見られないような少しレトロな雰囲気の遊園地である。


遥が入場券を買って中に入ると……

向かって左手には、オルゴールの音楽に合わせて上下するメリーゴーランドが回っていた。


5歳くらいの男の子が、白馬に股がりながら、写真を撮る父親に笑顔で手を振っている。


「パパーっ、ここ、ここ!」

男の子が元気な声をあげる。


「うん、カッコいいよ!翔くん。

パパ、上手に撮るからね。」

父親が何回もシャッターを切る。


父親の隣には、小さな女の子を抱っこする母親の姿もあった。


母親も男の子を見てとても嬉しそうに笑っている。


抱っこされている女の子は、疲れたのか母親の胸で眠ってしまっていた。


平和な家族の姿を見て、遥は心が和んだ。


かつての自分たち親子もこんな風だったのかもしれないーー。


ポップコーンや飲み物を売るお店の前には、群がっている鳩にエサをやる家族連れもいた。


「鳩しゃん、おいで~。」

小さな女の子の手にはポップコーンが握られている。


女の子の足下にはたくさんの鳩が集まってきていた。


女の子が撒いたポップコーンをついばむ鳩たち。


女の子のお母さんが、

「いっぱい鳩さん、いるね~。」

と優しく女の子に話しかけた。

 

女の子は、お母さんを見上げて

「鳩しゃん、いっぱい!

可愛いね~。」 

と寄ってくる鳩にちょっと躊躇いながらも楽しそうな笑顔を見せていた。



昨日と同様、平日の夕方の遊園地には、長閑な時間が流れていた。



遥は、遊園地の奥にある観覧車へ向かって歩き始めた。



海に向かって建つ観覧車は、オレンジ色の夕陽を浴びて輝いているように見えた。


いよいよ今日も乗るんだ……。 


遥は少しドキドキしている胸に手を当てた。


係のお兄さんにゴンドラの扉を開けてもらうと遥は椅子に腰を下ろした。


ゴンドラは、少しずつ上昇し始めた。


遥は、自分を落ち着かせようと窓の外を見たが、今はまだ乗る前に見た夕暮れに染まる空が広がっているだけだった。


不安と期待が入り交じった想いから遥の鼓動が段々と速まっていく。



もうすぐ頂上に着く頃ーー。


チカチカと点滅する光が現れた。


また、あの光だ!


遥の周りを光が覆い始めた。


遥は眩しくて思わず目をつむった。


次に遥が目を開けた時には……。


ゴンドラの窓に二人の男女が映し出されていた。


一人は、遥自身のように見える。


遥は、テーブルに向かって誰かと座っている。 

テーブルには、飲みかけのマグカップが二つ。


そして、ノートが見える。


ノートには何の絵だろう?


あぁ、動物だ!


優しい線で描かれた動物たちのイラストが見えた。


微笑みながら、そのノートを挟んで二人が語らっている。


遥の隣にいる男性の顔がはっきりとは見えないーー。


よく見ようと遥が目を凝らしているとまた、光が現れて遥の視界を遮った。


その人が誰だか知りたいのに……。


「見せてよ!

お願いだから。」


遥は声にならない声をあげた。


しかし、無情にも点滅する光は再び遥を包み込み……。


遥の意識が途切れた。


ギギギ……。

ギギギ……。


金属が軋む音がする。


深く息を吐いて遥が我に返った時、ゴンドラは少しずつ下降していた。


急いで窓の外を見るとそこには、昨日と同じ夕闇があった。


海の沖の方には揺らめく光が見える。



時間にすれば、ほんの数分の出来事だったのかもしれない。


でも、遥には何十分も経ったような不思議な感覚が残っていた。


昨日は、大学時代の過去の自分を見せられたが、今日は……。


もしかしたら、未来の自分?


遥は、ざわめく気持ちを抱えたまま踏みしめるようにゴンドラを降りた。


「ありがとうございました。

またのご乗車をお待ちしています。」


丁寧に係の人に見送られ、遥は遊園地の出口へと向かった。


途中でもう一度観覧車を振り返ったが、何事もなかったように夕暮れの空に静かに周り続けている。


園内には、閉園を知らせるアナウンスが流れていた。


遥は、観覧車の最後の乗客だった。


一体、この観覧車は私に何を知らせようとしているのか……。


遥には、ゴンドラの窓は、記憶の底に眠っていた過去や希望に溢れる未来を映し出す鏡のように思えた。


遥は、夢のような時間をそっと胸に抱いたまま帰路に着いた。


夢の中には、懐かしい誰かが、遥の隣にいたような気がしてならなかった。


見覚えのある男性のシルエット……。


遥の胸にはその人の名前が浮かんでは消えた。


そうだったらどんなに良いだろうーー。


そう思った瞬間、遥の胸には小さな希望の明かりがぽうっと灯った。






















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