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新年に願いを込めて

新しい年が明けた。


湊と遥は、暮れから元旦にかけては、それぞれの家族と過ごすので、初詣は、1月3日に行こうと約束していた。


遥のアパートの近くにある神社の境内は、3日ということもあり、そこまで混んでいなかった。


「湊さん、これなら落ち着いて参拝できますね。」


「そうだね。」


神社の境内には、人がゆっくりと行き交い、鈴の音が清らかに響いていた。


遥と湊は並んで参道を歩いた。


湊が手に持つ紙袋には、年末ぎりぎりまでかけて仕上げた絵本の試作版が入っている。


「とうとうここまで来たね。

完成まで、あともう少し……。」

湊がそう言って、ふうっと息を吐く。


「そうですね。

無事に完成するようによくお願いしましょう。」

遥も湊の顔を真っ直ぐ見て言った。



階段を上って拝殿の前に立つと二人で鈴を鳴らした。


カランカランと鈴が鳴り、厳かな気持ちになる。


お賽銭を入れた後、湊と遥は、並んで手を合わせ、それぞれ心の中で願いを込めた。


どうか、私たちの絵本が無事に完成して、たくさんの人の心に届きますようにーー。


「お願いしたら、何だか安心しました!

湊さん、おみくじ、引いても良いですか?」

と遥が目を輝かせて言うと……


湊も

「うん。引いてみようよ。」

と楽しそうに言った。


遥がおみくじを恐る恐る広げるとーー

そこには、大吉の文字があった。

「わぁ!大吉だっ。

湊さんは?」


湊は小吉だったが、

「小吉でも吉は吉だから……。

きっと良いことあるよ。」

と笑っていた。


「そうですよね。

私、大吉なんて滅多に引かないから凄く嬉しいです……。」

遥はおみくじを大切そうにそっと財布にしまった。


「じゃあ、これはどこかでお祝いしないとね。」

湊がそう言って、二人は近くの甘味屋に足を向けた。



「このお店、入ってみたかったんですよね。

一人じゃ何となく入りにくくて……。」


「そうなの?

じゃあ、ちょうど良かったね。」


引き戸を開けると

「いらっしゃいませ。」

という店主の明るい声が響いた。


こじんまりとした店内は、どこか懐かしい空気が漂っていた。


壁には、綺麗な和紙に書かれたお品書きが張られていた。


窓際に飾られた菊や松、葉牡丹などを使った生け花もお正月らしい雰囲気が感じられ、気持ちが華やいだ。


「何にされます?」

店主の女性がお茶を持って来てくれた。


「私はお汁粉にします。

湊さんは?」


「じゃあ、俺もお汁粉にしようかな。」 


しばらくして、湯気が立つ器が運ばれてきた。


「わぁ、美味しそう。

お餅も入っていて……。」


「うん。」


お汁粉は、程よい甘さで美味しかった。


「お餅、美味しい~。」


「うん。

そんなに急いで食べなくても……

遥ちゃん、お餅つまらせちゃうよ。」


冗談混じりに言う湊は、自分はお汁粉を食べるのを忘れて遥の様子に見とれていた。


「こうやって遥ちゃんとお正月を迎えられて良かったよ。

この先も……

来年も再来年も……ずっとずっと遥ちゃんと一緒にいたいよ。」


「えっ?」

遥は、お餅を食べながら湊を見た。


「それって、つまり……。」


本当にお餅をつまらせそうになり、むせてしまった遥。


急いでお茶を飲んで、軽く咳をした。


「だ、大丈夫?遥ちゃん。」


咳き込みながら、遥は、

「湊さんが何だか……

プロポーズみたいなことを言うから驚いちゃって。」


「そんな……

正直な気持ちを言っただけなんだけれど。

俺、もう、遥ちゃんにプロポーズしたことになるの?」     


「私が意識し過ぎみたいで恥ずかしいです。」

赤く上気した頬を膨らませて、遥は湊を見た。


「まだ付き合い始めたばかりかもしれないけれど……

俺、遥ちゃん以外考えられないんだ。

一生を共にする人は。」


遥は、真剣な面持ちの湊を見た。


「遥ちゃん、ずっと俺の隣にいてくれる?

ここで、プロポーズするのが嫌だったら、また改めて場所は考えるよ。」


「い、いえ、そんな……。

私、湊さんにそこまで想ってもらっていたなんて知らなくて。」


「俺、多分、大学時代から遥ちゃんが良いなって思っていたんだと思う。」


「ありがとうございます。

まだ、すぐ結婚までは考えていなかったけれど、いつかはそうなったら、嬉しいなって私も思っていました。」


「本当に?

良かったぁ……。

絵本が完成したら、遥ちゃんのお母さんにご挨拶に行くよ。

結婚自体は、遥ちゃんがしたい時で良いから。

別に俺、急いでないし……。

いつまでも待つよ。」


「はい、わかりました。

また、その時期については相談しましょう?

あ……すっかりお汁粉冷めちゃいましたね。

湊さんも食べなきゃ。」


二人は、お汁粉を食べながら何で今日、こういう話になったんだろうと考えていた。


でも、すでに二人の気持ちは決まっていた。


「あの……このお店を出たら、どこかで絵本の試作版を見せてもらえますか?」


「うん、良いよ。」


二人は、甘味屋を出るとしばらくぶらぶらと歩いた。


「風が冷たくなったね。」


「えぇ。」

淡いピンクのマフラーに顔を埋めるようにしている遥が

答えた。


湊は、そっと遥と手を繋いだ。


風は冷たくても、二人の心は温かくてこのままずっと歩いていたいーー

そんな気分だった。


駅近くに珈琲のチェーン店があった。


店の扉を開けると店内は、思ったより空いていた。


窓際の二人掛けの席に案内された。


店内は暖かく、BGMに流れるアコースティックギターの軽快な音楽が心地よい。


珈琲を注文し、湊は早速、出来上がったばかりの試作版を遥に見せた。


「わぁ~。

湊さんの絵、やっぱり温かくて優しいですね。

私の言葉も絵の雰囲気に合っているかな?」


「うん。

改めてこうやって見てみると遥ちゃんの文章がストーリーを引っ張っていってくれていると思う。

凄く良い文章だよ。」


「本当に?

そうだとしたら嬉しいです。」


「近々編集者に見せる予定にしてる。

俺の画集を出したから、次は絵本ということで、うちの会社でも話を進めてくれているんだ。」


「そうなんですね。

湊先輩、もう、立派なイラストレーターだから。

社内での信頼も厚いのですね。」


「いや……。

そこまででもないかもしれないけれど、俺自身、絵本の出版には携わって来たからね。

絵本にも力を入れているのは、知ってたんだ。」


「そうなんですね。」


遥は、自分と湊の本が実際に世に出ることになるなんて……まだ実感は湧かなかった。


しかし、初めての体験にワクワクしていた。


本が出来上がったら、お母さん、何て言うかな?


遥は母の顔を思い浮かべた。


絵本のことも湊先輩のことも……

どちらも喜んでくれるのではないかな。


遥は、大切な母に絵本を届ける日が楽しみになってきた。


「遥ちゃん、何か考え事?」


湊に声をかけられて、遥ははっとした。


「いえ……いよいよ私たちの絵本が出来上がるのかと思ったら何だか胸がいっぱいで……。

こうして湊さんと一緒にいられることも私にとっては夢みたいなことなんです。」


「それは、俺もいっしょだよ。

昔の夢をもうすぐ実現出来そうだ。

ありがとう、遥ちゃん。」  


湊と遥は、一つの夢に向かって一緒に歩いていける喜びを感じていた。


「これからも、二人で色んな夢を叶えていけたら良いね。」


「えぇ。」


二人は、まだ見ぬ未来に思いを馳せていた。


カフェの窓から見える商店街には、新年を祝う人たちが、歩いているのが見えた。


破魔矢を抱えた家族連れや仲の良さそうな友人同士……みんな楽しそうに歩いている。


誰かと季節の行事を祝えるのって幸せだな……。

遥は、そんな気持ちで人々を眺めた。



「遥ちゃん、来年もまた、初詣に来ようね。」

湊が遥を見つめて言った。



湊の方に向き直った遥は

「はい。来年も一緒にお詣りしましょう。」

と笑顔で答えた。


二人の思い出が新たに刻まれていくーー。


今年は湊と遥にとって特別な年になるような気がする。


遥には、そう思えてならなかった。









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