二人で迎えるクリスマスイヴ
12月に入り、絵本製作もかなり具体的になり、湊と遥の話し合いも熱を帯びてきた。
「小鳥がリスに出会った時には、綺麗な声を聞かせてもらったお礼にリスからピンク色の花を一輪もらう。
すると小鳥の羽が一部、ピンク色に染まる……というのはどうですか?」
「なるほど……。
誰かに出会うとお礼に何かプレゼントをもらうんだね。」
「はい。
弱っているウサギだったら、小鳥に歌ってもらって元気になったから、赤い木の実を小鳥にプレゼントする。
今度は羽は赤く染まるんです。」
「色彩も豊かになりそうだね。
その調子で色々考えてみようよ。」
「えぇ。
色彩については、私は詳しくないので、先輩が考えてくださいね。」
「わかった。
最後は、小鳥の羽は虹色のように綺麗になるかもね。」
「はい。
美しい鳥になって青空に羽ばたいてもらいたいです。」
「うん、そうだね。」
二人は、良い絵本に仕上げてたくさんの人に見てもらいたいねと楽しそうに語り合った。
「ところで……
遥ちゃん、クリスマスイヴなんだけれど……。」
「はい。」
「今年はたまたま土曜日なんだよ。
一緒にどこか出かけない?」
「えぇ、良いですよ。
でも、どこへ行くんですか?」
「あの動物園に……また、行かない?」
「えっ?
大学時代に行った?」
「うん。
動物園でもクリスマスイベントがあるみたいなんだ。」
「へぇ~、楽しそうですね。
是非、行ってみたいです!」
「じゃあ、行こうよ。
あっ、寒くないように暖かくしてきてね。」
「わかりました。」
遥は、嬉しそうに答えた。
そして……クリスマスイヴの日がやってきた。
朝から澄んだ青空が広がっている。
12月としては暖かな日だった。
湊と遥は、動物園がある駅の改札口で待ち合わせた。
「良いお天気になりましたね、先輩。」
「本当だね。」
湊が空を見上げる。
太陽も顔を出し、明るい1日になりそうだ。
動物園の入り口には、クリスマスツリーが飾ってある。
今日は動物たちも飼育員さんから餌のプレゼントをもらう。
北極熊やゾウガメにプレゼント風に装飾された餌が振る舞われた。
「可愛い~。」
遥が夢中になって、餌をもらう動物たちを眺めていた。
「遥ちゃん、冬毛になってモコモコになっているよ。」
湊が指差した動物は、プレーリードッグだった。
「本当だ。
体全体が丸くなってますね。」
「立った姿が可愛いんだよね。」
巣穴からちょこんと顔を出す姿も何とも可愛らしかった。
冬毛になっている動物は他にもいた。
ニホンジカは、白い斑点模様が消えて濃い茶色の毛並みになっていた。
「木の幹に同化するような色に変わるらしいよ。」
湊が教えてくれた。
自然界では冬眠している動物たちも、ここでは冬眠しない。
活発に動き回る動物たちは、見ていて飽きなかった。
あちこち見て回るうちに昼になった。
二人は、動物園に隣接するカフェに入ってパスタを食べた。
「ここに来たら、やっぱり食べたくなるものがあるよね。」
湊がそう言うと……
「はい。私もそう思っていました。」
と遥も答えた。
間もなくソフトクリームが運ばれてきた。
「美味しい~。
今日も先輩の驕りですよ。」
早速ソフトクリームを頬張る遥が笑って言った。
「この味、忘れられなかったんだ。」
「私もです!」
二人は、顔を見合せて微笑んだ。
ソフトクリームを食べ終わると湊が、リボンがかかった小さな箱をバッグから取り出して遥の前に置いた。
「えっ、開けても良いですか?」
「うん、開けてみて。」
遥が箱を開けるとシルバーで出来た小さな鳥のペンダントが入っていた。
「わぁ~、素敵!」
「気に入ってくれた?
今俺たちが作っている絵本の主人公が小鳥だから、記念に鳥のペンダントを選んでみたんだ。」
「凄く嬉しいです。
大切にしますね。
あっ、私からもこれを。」
そう言って遥が取り出したのは、水彩色鉛筆のセットだった。
「あっ、これ、上から水でなぞると水彩絵の具みたいになる色鉛筆だよね。
ずっと欲しいと思っていたんだ。
ありがとう。」
「先輩がスケッチ旅行に行った時に重宝するかと思って…。
今作っている絵本のラフスケッチにも使えそうですよね。」
「うん、そうだね。」
「あと……これも。」
「まだあるの?」
驚く湊の前に置かれたのは、革で出来たライオンのチャームだった。
「これ、ライオンの顔だね!
何だかちょっとユーモラスで可愛いよ。」
「湊先輩と言えばライオンですから。」
遥は、笑って言った。
「あっ、その顔、良いね。」
湊は、小さなスケッチブックを取り出すと遥の顔をさらさらと描いてくれた。
そのスケッチを一枚切り取って遥に渡した。
「私、湊先輩に似顔絵描いてもらうの初めてです。」
「うん。
遥ちゃんの笑顔がとても良かったから描いてみた。
もう……先輩はいらないよ。
名前だけで呼んで。」
「えっ?
先輩……じゃなくて……湊……さん?
ちょっと恥ずかしいかも。」
遥は、照れた顔をして俯いた。
湊は、可愛くてならないという顔をして遥の顔を見つめていた。
昼過ぎからも、二人は園内を見て回った。
ライオンの檻の前では長い間、湊はライオンを見ていた。
ライオンは、あの時と同じようにたてがみを風になびかせながら、堂々と座っていた。
「二人で写真を撮ろうよ。」
「はい。」
ライオンの檻の前で、遥も湊の横に立って笑顔で写真におさまった。
あの夏の日からタイムスリップしたかの様に二人はまた、ここに立っていた。
遥は、不思議な感じがして、これは夢じゃないよねと心の中で呟いた。
次第に日が傾き、いつの間にか夕暮れになった。
イルミネーションが輝き出して、クリスマスイヴらしい夜を迎えた。
「イルミネーション、綺麗ですね。」
「うん、本当に綺麗だね。」
そう言いながら、湊はそっと遥の横顔を見た。
イルミネーションの光に照らされた遥は、凄く美しいなと思った。
「先輩、あっ、違った。
湊……さん。」
「うん。」
「今日のこと、私、一生忘れません。」
「うん。」
「もう~、うん、ばかり言ってないで何か言ってくださいよ。」
「ごめん、俺、もう、胸がいっぱいで言葉が出てこないよ。」
「えっ?」
ふざけていたと思っていた湊の目にうっすらと涙が光っているのを遥は見逃さなかった。
「まさか……湊さん、泣いているの?
今日は私がハンカチ貸しますからね。」
「泣いてなんかいないよ!」
湊がむきになって言えば言うほど遥は、湊が可愛く思えて少し笑ってしまった。
しばらくして……
「湊さん、笑ってごめんなさい。
私も……胸がいっぱいなのは、同じです。
また、ここに一緒に来られて凄く嬉しい。
何度も何度も思い出していた場所だったから。」
そう言うと遥は、湊をじっと見つめた。
二人が迎える初めてのクリスマスイヴ。
幸せな空気が二人を包んでいた。
あの夏の日ーー。
二人がまた、ここで一緒に時を過ごすことなど想像していなかった。
思ってもみないことが起こるのが人生なのかもしれない。
いつまでもこの瞬間が続いて欲しいと願う湊と遥だった。




