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二人で作る絵本の世界

遥は、待ち合わせのカフェに約束の時間より少し早く着いた。


以前も湊と来た公園の中にあるカフェーー。


中に入ると焼き菓子の甘い香りがほんのりと漂っていた。


窓辺の席に案内され、遥はシートに腰を下ろした。

 

外を眺めるとこの前来た時は緑だった木々が、赤や黄色に美しく色づいている。


紅葉した葉に時々陽が当たり、鮮やかな輝きを放っていた。

遥がそんな風景に見とれていると湊が店に入ってきた。


「あっ、湊先輩!」

湊に気がついた遥は軽く手を上げて、声をかけた。


「遥ちゃん、ごめん、待たせた?」


「いえ、ちょっと前に私も来たばかりで……。

たいして待ってないですよ。」


「そう。良かった。」

遥の向かい側に湊も座った。


二人は、今日はミルクティーを注文した。


湊は、トートバッグからノートを取り出して机の上に置いた。


ノートには、湊が考えたストーリーが書き付けられていた。


「早速なんだけど、俺なりにストーリーを考えてみたんだ。遥ちゃんに見てもらいたくて……。」


「そうなんですね!

先輩が考えたストーリー、見せてもらっても良いですか?」


遥がノートに目を落とす。


「森に住む小鳥の話なんですね。

群れからはぐれて、今はひとりぼっちでいる……。」


「うん。

羽の色もグレーでとても地味な鳥なんだ。

ただ、彼には美しい声があった。」


「綺麗な声を持っているんですね。」


「そう。

小鳥が森の中で色々な動物に出逢い、美しい声で囀ずると、みんなその声に元気づけられたり、癒されたりするんだ。」


「へぇ~。

そんな風に皆が喜んでくれたら、小鳥も嬉しいですよね。」


「そうなんだよね。

次第に自分に自信がもてるようになった小鳥がある朝、目を覚ますと自分の羽に綺麗な色がついているんだ。」


「綺麗な小鳥になるんですね!」


「うん。

喜んだ小鳥は空高く舞い上がり、美しい声で囀ずると、森の動物たちが彼の周りに集まってくるーー。

そして、小鳥はもう、寂しくなくなる。」


「良いお話ですね。」


「そう思う?」


「はい。

あっ、最後に小鳥の羽に色がつくのではなくて、誰かに逢う度に一色ずつ色がついて、段々小鳥の羽がカラフルになっていく……という展開でも楽しいかもしれませんね。」


「なるほどね~。

絵本だから、そんな展開でも楽しいよね。

ページをめくるごとに小鳥の様子が変わっていく……。

何だかワクワクするかも。」


「先輩が描いた優しい動物たちが目に浮かびます。」


「あっ、そういえば小鳥の絵、描いてきたんだ。」

湊は、そう言ってスケッチブックも取り出して広げた。


グレーの羽にくりくりとした黒い瞳ーー。

小鳥は、もう、それだけでも十分可愛かった。


「わぁ~。可愛い鳥ですね。

この鳥の羽に綺麗な色がついたら、素敵でしょうね。」


「そう?」

湊は、嬉しそうに遥を見た。


「先輩の絵は凄く良いんですけれど、私が文章を書くなんて出来るかな?」

遥が不安そうに言った。


「大丈夫、遥ちゃんなら。

遥ちゃんの文章には、人の心を惹き付ける力があるよ。

そして、じんわりと温かくなるんだ。」


「えっ?

先輩、私の文章読んだことあるんですか?」


「うん、大学時代に。

学祭の時に文芸サークルで冊子を買って遥ちゃんの小説を読んだんだ。

遥ちゃんには文才があるよ。

だから絵本作り、頼んだんだ。

遥ちゃん、もっと自分に自信を持って良いんだよ。」


「そんな風に言ってもらえるなんて……嬉しいです。」


遥は、湊先輩が自分の小説を読んでくれていたことに驚いていた。

そして、自分の文章を読んだ上で先輩が、絵本作りに誘ってくれていたんだと思うと胸がいっぱいになった。


遥の目の前のテーブルには、飲みかけのミルクティーが入ったマグカップが2つ置かれていた。


二人の間には、ノートが広げられているーー。


ふとその情景を見て、遥はいつか観覧車で見た風景といっしょだと思った。


あの時、一緒にいたのは、やはり湊先輩だったんだ……。


一人で感慨に耽っていると

「遥ちゃん、どうしたの?

黙ってしまったけれど……。」

と湊に聞かれた。


湊の声に遥は、我に返った。


「あっ、いえ。

すみません、ぼうっとしてしまって……。

先輩が私の小説を読んでくれていたのを知ってびっくりしてしまって。」


「そんなに驚いた?

ごめんね。隠すつもりはなかったんだけど。

何だか言いそびれちゃって。」 


「別にそれは良いんです。

先輩の期待に応えられるかわかりませんが、私、精一杯やらせてもらいますね!」 

遥は、湊の目を真っ直ぐに見つめた。


「俺、絵本ってこどもだけじゃなくて、大人の心にも響くものなんだって思ってる。」


「それは、私もそう感じています。

小さな頃、母から読み聞かせてもらった絵本は私にとって今でも宝物ですから。」


「俺も同じ。」

と言って湊も頷いた。


「この小鳥の話もさぁ、誰もが持っている才能や可能性?みたいなものが、ちょっとしたきっかけで花開くことがあるってことを伝えたくて……。

そのきっかけも誰かとの出逢いだったり、本の中の一節だったり、道端に咲く小さな花だったり……人によって異なると思うんだ。」


「えぇ。」


「俺にとっては、そのきっかけは……遥ちゃんだったんだと思う。

前にも話したかもしれないけれど、俺が絵を描き続けていたのは、いつか遥ちゃんに見てもらいたかったからで……。

描いているうちに色んな人からもメッセージをもらえるようになって小さな自信が生まれたような気がするよ。」


「そうなんですね。

私もやっと先輩の絵が見られて、こんな風に一緒にお仕事できるなんてまるで、夢みたいです。」


「夢みたいかぁ……。

昔も遥ちゃん、そんなこと言ってたっけ。」


「そうですか?

先輩、そんなこと、よく覚えていますね。」


「そりゃあ、遥ちゃんのことは何でも覚えているよ。」

そう言って湊は微笑んだ。


遥は、湊先輩の想いを聞いて絵本作りを自分なりに頑張ってみようと思った。


たくさんの人に手に取ってもらえる本にしたいーー。


二人の絵本にかける想いが重なった。


これから、湊と遥にとって初めての絵本を作るという一生忘れられない時間が始まろうとしていた。















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