伝えたい想い
大学時代の遥は、白いTシャツに淡いブルーのデニムパンツといったシンプルな服装だった。
飾り気はないのに、肩までの伸びた艶やかな黒髪と、はっきりとした目鼻立ちが印象的で、教室でもキャンパスでも、その存在は目立っていた。
湊が彼女といるのを見た友人には、決まって
「さっきは綺麗な子といたね。
湊の彼女なの?」
と聞かれた。
湊が否定すると、大抵友人たちには
「今度俺にも遥ちゃん、紹介して。」
と言われた。
勿論、湊は誰にも遥を紹介する気などなかった。
むしろ、紹介などするものかと思っていた。
遥自身は、自分が周囲から注目されていることなど全く気がついていないようだったが……。
遥は文芸サークルに所属していた。
湊は、学祭で彼女のサークルを尋ねたことがあったが、あいにく遥は不在だった。
湊は、遥に会えなかったのは残念に思ったが、
連絡もなく、急に来たからな……
と思い直した。
「よろしければ、お読みになりませんか?」
声をかけられて振り返るとサークルの文芸冊子が売られていた。
記念に湊は、その冊子を一冊買い求めた。
家に帰ってから冊子を開くと遥の小説があった。
淡々とした筆致なのに引き込まれる。
構成も巧みで、ページをめくる手が止まらなかった。
すごい――そう素直に思った。
遥のことは好きだったが、それだけではなかった。
彼女の中にある確かな才能に、心から惹かれた湊だった。
一緒に遥ちゃんと何かを作ってみたい……。
湊がそう思ったのは、自然な流れだった。
彼女の普段の控えめな姿からは想像がつかない程の人の心を動かす力、情熱ーー。
絵本という形なら、自分の絵と彼女の言葉で、何か素敵なものが生まれる気がした。
今、まさにそれが実現しようとしている。
大学時代には、思うだけで終わってしまっていたことが……ついに形にできる日がやってきた。
湊は、絵本を一緒に作ろうと勇気を出して遥に伝えて良かったと心底思った。
遥ちゃんは、自分と絵本を作ることを喜んでくれているだろうかーー。
今までの自分の想いをいつか彼女に伝えてみたい。
湊は、様々な想いを胸に遥との待ち合わせの場所に向かった。
秋は深まり、街路樹の紅葉も始まっていた。
湊は地面を踏みしめるように一歩一歩、歩いていた。




