永久の花園編・Ⅲ
迷宮。
そう呼ばれる建造物、或いは自然から織り成された迷宮に、何故、我々は挑むのだろうか?
枯れる事無く湧く資源を、財宝を、己のものとする為?
恐ろしい魔物を打ち倒し、轟く名声を我が物としたいから?
非日常でしか体験出来ない世界に行き、この身を刺激で焼き尽くしたいが為に?
きっと、そのどれもだ。
ん?なんだ嬢ちゃん達。この、ビラ……は?────え?ダンジョン……保険??
「っと──……問題は、ここからか」
使い方がちゃんと合ってるか分からない装備に、初めての塚登りだったが、以外にもさくさくと登れてしまった。
けれど、それもここまでだ。
ここから上は、全て巌穴鼠の巣穴ゾーンだ。
穴が開いていれば登りやすいかもと思うかも知れないが、その穴の繋がっている先は全て巌穴鼠の寝床。
つまり──これから待ち受けているのは、何時、何処から飛び出してくるか分からない巌穴鼠に備えなければいけないスリル満点な鬼畜コースとなっている。
しかも俺が目指すのはその頂上付近……。
「ハハ」
乾いた笑いを出さずにはいられなかった。
「カイトさん、大丈夫ですか?!」
「へっ?」
俺は今壁を登っている最中の筈なのに、何故か耳元付近からフローラの声が聞こえた。
何でだ?と耳元の方を振り返れば、そこにはシルフィが居て。
「うわっ?!」
まさかこんな所にシルフィが居るとは思いもしなかったので、俺はそれに驚いて──足を踏み外し、ズルリと少し落ちた。
「キャーッッ??!」
その様子を見ていたフローラは悲鳴を上げ、それと連動するかの様にその声がシルフィから発せられる。
「何っ何っ?!ビックリした!」
「ごめんなさい!ごめんなさいっ!サポートするならお互いの声が聞こえた方が良いと思って、シルフィにお願いしたんです」
「え?あ~~~……成程、だから耳元でもフローラの声がしっかりと」
「すいません……私のせいで」
流石に振り返って下を見る、何て芸当は出来ないが、その声だけでフローラの萎れ具合が目で見てるかのように分かった。
「大丈夫っ大丈夫っ!ちょっと滑っただけだから!それよりもフローラ。ちょっと悪いんだけど、その場所から見て一番高い所に穴が開いてるのって何処?」
「え?──えっと……一番高い……あ、あれかな?カイトさん!もう少し左です!」
成程、やっぱりちょっとズレて来てたな。
「ありがとうフローラ!またズレてきたらそんな感じで教えてもらえるかな?」
「は、はい!分かりました!」
一度左に移動してからっと。
「……頼むから出て来ないでくれよな~っ」
ピントを差し込める場所を探しては慎重にそれを打ち込んでいく。
「ふう……」
今の所出て来る気配は……ないか。
巌穴鼠の巣穴の横を恐る恐る過ぎていくカイト。
そしてまたピントを差して縄を結んで登ってを繰り返していき……。
カイトは中腹よりも上の所まで登ってきていた。
何か、順調すぎて怖い。
「それに、何か引っかかるんだよな……」
順調すぎる事だけじゃない。登っていて、何か違和感を感じる。けど、その違和感が何なのかと聞かれれば答えは出なくて。
休めていた腕を再び塚にかければ、近くの巣穴から僅かながらの振動と足音が聞こえ──。
ヤベッ!
塚を掴んでいた片方の手をパッと離して、極力巌穴鼠との接触を回避する為の体勢になった。
巌穴鼠は、カイトの横っ腹にでも体当たりしたかったのか?結構な勢いで巣穴からぴょこりと顔を飛び出させ──思惑通りにならなかったからか、巌穴鼠は頭をくりくりと傾げさせた。
冗談じゃない。あんなのに激突されてたまるか!
巌穴鼠は黙っても30cm近くの身体を持つ生物なのだ。そんなのがこんな登っている最中に激突してきたら……只じゃ済まなくなるに決まっている。
何とか躱せた事に、内心喜びを見せるカイトだったが……カイトは肝心な事を忘れきっていた。
「あ、」
そもそも、巌穴鼠は直角の壁くらい自由に走り回れる。
先程の巌穴鼠はそのまま巣穴から飛び出すと、チャッチャカ塚を駆け登り──対角線上に位置を構えた。
「いやいや、ちょっと待っ」
巌穴鼠に人の言葉が通じる訳もなく──その後ろ脚は、塚を蹴り──
「へ゛ぶッッ」
ダンッっと顔に着地を決めた巌穴鼠。
その衝撃は、軽く意識を飛ばす程で。
「カイトさんッッッ?!!!」
縄から手を放してしまったカイトは、重力のまま下へと引っ張られ──
──たが、ピトンを打ち込んで結んでいたお陰で、幾つか抜けたものの、地面への直接の落下は防ぐことが出来た。
「~~~~ッッってぇ……あ゛~~っクソッ」
視界がまだチカチカする……。あ゛~~~~……俺今どの位落ちた???うわ、巣穴ゾーンの半分以上戻ってきてる。
「だ、大丈夫ですかカイトさんッッ??!」
「あ~~……大丈夫じゃないけど大丈夫……」
と言ってはみたけど、今ちょっと宙ぶらりん状態なんだよね。足伸ばせば何とか……ウオ~~ッ足の力だけで引き戻すのキッッッツ!──ハッ、そうだ!
「ごめんフローラ。ちょっとシルフィにお願いして、ちょっと強めの風で背中側押してもらえないかな?」
「!は、はい!シルフィ!お願い!」
ブワリ
背中を押す風の力を借りたカイトは振り子の様にゆらゆらと揺れ始め、次第にその振り幅を大きくしていき──カイトの手は、再び塚を掴んだ。
よし!
「助かった!ありがとうフローラ!」
え~~と、それじゃあ……こう言う時って、外れたピトンをもう一回打ち直すしかないよな??それぞれに縄括りつけちゃってるし……。
う、しょっぱなから結構距離開いてるな。間に新たに打ち込みたい位だ。
ととっ、そんな事考えてる場合じゃない。
とにかく早く登って打ち込んでおかないと──。
「────………………」
上を見上げなければ良かった。
既に数匹の巌穴鼠が、巣穴から顔を覗かせてこちらを待ち構えていたから。
「いや、駄目でしょそれは」
その言葉が合図だったかのように一斉に塚を駆け降りて来る巌穴鼠。
おいおいおいおいおいおいっ!!?
今から登った所で何もかも間に合わない。だったらせめて、この場で踏ん張ろうとカイトは必死に塚にしがみ付いた。
「────ッ………………ん?」
さっきの様な衝突に備えていたが、一向にその衝撃は襲ってこない。
と言うか、今、通り過ぎてった?
何で?
あいつら何がしたかったんだと疑問ばかり浮かぶが──……その答えはフローラから伝えられる形となった。
「あ、あのっカイトさん!巌穴鼠が、カイトさんが打ち込んでいた物を引っこ抜こうとしてて…………」
はい?
ちょっと待ってくれ、そんな事をしたら、そんな事をしたらだよ?
命綱の意味が無くなる。
「──────ッッ」
今、漸く分かった。
あの女の人が言っていた『一階層では巌穴鼠による死者が一番多い』と言う意味が、漸く。
そりゃあ多くなるだろう。こんな事をしてくるんだから。
俺みたいに大事な物を盗られた人は、俺みたいに登って取り返そうとして、それで──。
ああ、クソッ!!すっげー腹立つ!
見た目の可愛さの割に、何てゲスイやり口だ!!
「カ、カイトさんっ今すぐ降りてきた方がッ」
フローラの必死な声が耳に入る。
確かにそうするべきだろう。けれど──多分もう遅いのだ。
顔にパラパラと小石や砂がかかった。
どうしてそんな事が起きるのだろう?何て、解りきっている筈なのに。反射的に顔を上げてしまえば、既に巌穴鼠の脚の裏が眼前に迫っていた。
*****
「シルフィッッッ!!!」
ゴッッ
「~~~~~~っっっ!!!ぃっッぁッ!!!!」
巌穴鼠に本日二度目の顔面着地を決められたカイトだったが、結果的に言うと、彼は助かった。
シルフィが出してくれた風が、簡易的なクッションの役目を果たしたのだ。
それでも、やはり高所から落下した為か……勢いを完全に取り除く事は出来ず、最後の最後で臀部を打ち──きっと尾骨でも打ち付けたのだろう。
カイトは痛む臀部を抑えながら、声にならない叫びを上げつつ地面をゴロゴロとのたうち回った。
そうして、暫くして痛みも落ち着いたのか、カイトは漸く転がる事を止めた。
「……………………」
はぁ~~~~っ……。やられた。
そんでもってあの時感じた違和感の正体も、やっと分かった
綺麗すぎたんだ、あの壁。
今まで何人もの人が挑んでたって言うのに、残してあるピトンが一つも無かった。
そこにもっと早く気付けていれば……もしかしたらもう少し巧く動けたのかもしれない。
「……はぁ」
「あのぉ…………カイトさん、打ち付けた所大丈夫そうですか……?」
「ッ!あ、ごめんフローラ!うん、打ち付けた所はもう結構痛み引いて……──と言うより、本当、助けて貰って何てお礼を言ったらいいか……」
本当、フローラには頭が上がらない。
「い、いえっ私だってカイトさんに助けて頂いた訳ですし。それに……カイトさんにコレを取り返してもらってなかったら、私もカイトさんの様に登ろうとしていたと思うので……それを考えたら、あの…………本当にありがとうございます」
フローラの発言に、そんなもしもを想像したカイトは、尚の事取り返せて良かったと強く頷いた。
「──にしても、あの塚、どう攻めるべきかなぁ。ピトンは差し込んでも最終的に抜かれるし……このピトン、差し込むだけじゃなくて差し込んだ先で爪みたいのが出て引っかかってくれたりしたらいいのになぁ」
まぁ、製品の案を出すのは簡単だけど、いざ作るとなるとなぁ……難しいよな。
「あ、でも結局縄の所が齧って千切られたら意味無いか」
「シルフィじゃ流石にカイトさんをあそこ迄飛ばせないですし……」
「「う~~~ん……」」
何かいい策はないかと頭を傾げて悩む中、一瞬だけあの“ダンジョン保険“のビラがフッとよぎった。
駄目だ駄目だ!あんな怪しいの俺は頼らないぞ!!
他の案、他の案……。
……と言うか、命綱も何も無しで登る方が一番良いのかも知れないと思えてきたな。
けど──フローラの前じゃそんな事する訳にはいかないし……。
腕も疲れてきてるし、いっその事後日また挑戦するとか?
「う゛~~~ん……」
「何かいい方法は……」
「ごあ~~」
ん?ごあ~~???
え?何の声──
突如混ざり出した独特な音に顔を上げれば──そこには、『私も仲間です』とでも言うかの如く自然に輪に溶け込んでいる二体の土人形の姿があった。
「土人形?!」
「え?きゃっ?!モンスター?!」
いきなりの登場に、カイトとフローラは土人形から距離を取った。
一方で、その土人形は『どうしたの?』とでも言いたげな様子で距離をとった二人を見つめる。
…………ん?この土人形何処かで見た事あるよう────あ。
そうだ!確か昨日の!ピンク髪の女性が連れていた筈だ!
「フローラ!ちょっとストーップ!!それ、モンスターじゃなくて使い魔!!」
「え?!」
見覚えのある土人形の事をを思い出したカイトは、モンスターだと思い杖を構え攻撃姿勢を取っていたフローラを全力で止める事となった。
「成程……モンスターではなく使い魔としての土人形だったんですね。……危ない所でした」
危うく攻撃するところだったと、両者共にホッと胸を撫で下ろした。
──あれ?でも、待てよ?ここにこの土人形が居るって事はもしかして…………。
ガサリ。
「ッ!」
その音にいち早く反応を見せたカイトが振り返った。
ガサガサ。ガササッ。
「………………」
茂みを掻き分ける音は徐々に大きくなっていき、そこから現れたのは───
「ごあ~~ッ!」
「ごあ!」
「ごあ~ごあごあごあ♪」
「ごああ」
「……………」
またしても二体の土人形。
そしてその土人形達は仲間と合流したからか、やけに和気あいあいとした様子で交流しだした。
「何だか、見ていて微笑ましいですね」
「うん……ちょっとこっちの緊張感返して欲しいくらいに」
ハイタッチをしたり手を取り合ってグルグルと回り出したり……いや、土人形なのにどれだけ表情に富んでるんだ?
それに……小さいサイズと言っても(それでも50~60cmはありそうだけれど)4体の土人形を使役してるって……何気に凄い事なんじゃないのか?
そんな事を考えていれば、また何処からか「ごあ~!」と言う声が聞こえてきた。
まだ増えるの?!と、音の聞こえた方に身体を捻れば──。
「137、138、169、170お疲れ様だよ~。これで一階層の範囲調べは完了しただ──あれ?君は昨日の……」
「どうしましたヒマル先輩?そこに何方か──」
土人形と共に、昨日の女性達がやって来た。
「貴方…………」
げっ。
気まずさを感じて、つい視線を逸らしてしまった。
「カイトさん、お知り合いの方ですか?」
「いや、お知り合いと言う程でも無いと……思うんダケドナ~~……」
気を使って小声で話して来たフローラに、少し片言になりながらそう答えた。
答えつつ、チラリと視線を白銀髪の女性に向ければ、女性は「どうして此処にいるんですか?」とでも言いたげな様子で目を細めて不機嫌そうにこちらを見ていた。
ウッ。
悪い事をしている筈では無いのに、その視線にジワリと嫌な汗をかきそうになった。
「…………」
あの人は、昨日私が酒場で忠告した事を聞いてなかったのでしょうか?
溜息を吐き出したくなる気持ちを抑えながら、気まずそうにしながら座っている青年を見て見れば、その装備はどう見てもこの壁のような巌穴鼠の巣を登る用の物で。
いや、更によく見れば──身体を繋ぐ縄やピトンの状態、彼の額周辺の赤味──それはどう見ても彼が既に一度登っている事を教える物で──彼が盗られた物を取り返すのに失敗している事の証明だった。
「………………」
それが分かってしまったローサは、彼へ向ける視線を更に冷ややかな物にした。
「ローサちゃん?」
それから、ズンズンとカイトの方に歩みを寄せ、しゃがみ込んで同じ位の視線になると──困惑を見せているカイトに向かって、強烈なデコピンを一撃放った。
「ローサちゃん?!!」
「カイトさんッ」
「いっったぁ──────ッッ…………?くない???」
後ろに倒れる程の威力を持ったデコピンだったのに、何故だか全く痛くない。
一体どうなってるんだ?
起き上がり額を擦ろうとすれば、しゃがみ込んでこちらを見ていた白銀髪の女性と嫌でも目が合った。
「カイトさん、一人で何とかしようと思う志は大変素晴らしいと思いますが──それが行き過ぎてしまえば、それは只の無謀者か大馬鹿者と言うのですよ?」
「なッ──流石にそれは──いたっ──くないッ!」
『言いすぎだろ』と言いたかったのに、再度お見舞いされたデコピンにその言葉は口に出来なかった。
それにしても……これ程の威力を持ったデコピンが痛くないとかどんな謎技術だよ?怖いよ逆に。
「いいえ、事実ですので」
「ローサちゃん……怒る気持ちも分かるけど、落ち着いて、ね?」
「そ、そうですよ!何方か存じ上げませんが、あまりカイトさんをイジメてあげないで下さい!」
「──貴女は……」
カイトの方ばかりに意識をやっていたので、今更ながらに彼の側に居た女性の存在に気付くローサ。
だがローサはその女性を見てハッとした。それはヒマルも同様だったようで、彼女もまた、少し戸惑った表情を見せていた。
「エルフ、ですか」
ん?何だろう……二人してフローラを見てエルフって分かった途端、戸惑ったような空気を出したような。
フローラは……今のに気付いてない感じだったけど。なーんかモヤるな。
「──コホン、すみません。あの、失礼でなければ……この町には何時頃から?」
「え?えっと、その、私……昨日この町に着いたばかりで」
「そうですか、昨日……」
「あの、もしかして私……何かしちゃってましたか?」
「いえ……町で見かけた事がなかった方だったのでつい。申し訳ありません。不安な気持ちにさせてしまいましたね」
「あ、いえいえっ!私こそ初心者冒険者なので、何か間違った事をしちゃってたのかなって勘違いを」
「──初心者?」
フローラの“初心者“と言う言葉に反応し、眼鏡を光らせるローサ。
「では、宜しければこちらの“ダンジョン保険“などにご興味は?!」
あ!まずいっ!
また何処からかビラを取り出し、迫るその姿に──昨日の事が思い出されたカイトはバッとフローラの前に出た。
「ピュアッピュアな初心者に向かってそう言う勧誘、良く無いと思うんだけど?!」
「何を言うのですか?初心者だからこそ、不安に感じてる面をサポートされている……と言った安心感は必要かと!」
ぐッ!俺が思った事ピンポイントで突いてくるなこの人。
「確かにそうかも知れないけれど!けど!得体の知れない怪しい所に、安心感を委ねるのも怖いっての!」
「怪しい?失礼ですね!私達は正式に国の認可が降りている機関です。この通り、証明書だってありますよ!」
自信気にその用紙を見せるローサ。だがカイトは、それを見せられても首を傾げるばかりだった。
「まさか、こちらを見て頂いても納得されないと?」
「いや……そう言うの出されても、俺みたいな一介の冒険者じゃソレの意味とか良く分かんないし……」
高そうな紙使ってて装飾も金掛かってそうだなぁ位は分かるけど。
「なっ」
「まぁ、普通はそンなもンだよねぇ~。ごめんねぇ、うちの機関の知名度が低いばっかりに、疑り深くさせちゃって」
「ヒマル先輩ッ!そう言った事は余り口にしない方が……」
「ンでも本当の事だしなぁ」
「ごあ、ごあ」
昨日も思った事だが──白銀髪の女性と違い、ピンク髪の女性は随分と大らかそうだ。
彼女の纏う空気に、こちらの警戒心すらも薄まってしまいそうだ。
「えっと……あの、すみません。この“ダンジョン保険“と言うのは、つまり、どう言った事なんでしょうか?」
おずおずと手を上げたフローラ。
それに、一方は表情を明るくし、また一方は顔を覆ったのであった。
*****
「──え?凄い、ですね。負傷した際はその場所迄来て、治癒もしてくれるなんて……」
「いえ、そんな事は。冒険者の方が途中でリタイアしてしまう殆どの理由は、体調不良や負傷によるものなので、サポート内容としては当然と言った内容かと」
「それに、この金額」
「白銀級からは金額が上がってしまうのが心苦しいですが。それに……追加プランに加入しなくては受けれないサポートも御座いますし」
「そ、それでもこれは安いかと」
「苦難を乗り越え、ダンジョンボスに挑める冒険者が少しでも増えて欲しい──それが、私達、ダンジョン保険連盟機関、通称“L.I.F.I“の活動総理念ですので。そして、この金額設定で、少しでも加入してくれる方が増えてくれればと……設立者の意向です」
『ダンジョンボスに挑める冒険者の方々が少しでも増えて欲しい』ねぇ……。
立派だ。どんな人が設立者だか知らないが、とても立派な理念だろう。
けれど、それはそれとして、そう言った話を耳に入れれば入れる程反抗的な感情が湧き出てしまうのは──それだけ充実したサポートを受けて、果たしてそれは冒険者と言えるのだろうか?と思ってしまうのは──自分の心が狭いからだろうか?
「はぁ……」
あ~やだやだ。そんな事を思ってしまう自分も。逃げるに逃げれないこの状態も。
「ごあ?」
「……えーと?」
「ごあごあ、ご~ああ♪」
ごめん、何て言ってるか全ッ然ッ分かんない。
仕方ないから適当にうんうんと頷いといた。
「あ?!ちょっと待って!!その縄遊ぶ用とかじゃないから?!てかまだ縄解いてないから引っ張るのは……っ!うっわ、土人形力つっっよッ!!?」
引っ張り返そうとしたけど全く動かない、寧ろ引きずられてる。流石、小さくても立派な土人形である。
「あれ~、ゴアさん遊んでもらってるの?良かったねぇ」
違います!この子勝手に縄を引っ張りだしたんです!あれ?もしかしてさっきのってそう言う話だったりした?!
あ、待って、他の土人形も何だ?何だ?って感じで混ざろうとしないで!
君達全員が引っ張る程、この縄の強度は強くないのだから。
「話の途中だと言うのに、少し騒がしくなってきましたね……」
その中心に居るのは、昨日の青年と土人形達だ。
でも、それも仕方の無い事だった。
土人形達はヒマル先輩の言う事も聞くが、そのヒマル先輩当人が基本的に──悪い事をしてはいけない以外は──自由行動を許している。
そして、ヒマル先輩の土人形達の基本的性質は、好奇心旺盛な自由奔放者。
つまり、手が付けられない、だ。
彼みたいに反応が良い人は土人形達にとって尚更恰好の餌食だろう。
「あの、」
「──すみません、話の途中でしたね。それで──」
「あの、一つ聞きたい事があるのですが」
「はい、何か気になる点でも?」
「その……この“ダンジョン保険“は、紛失物の捜索や奪取はしてくれますか?」
「────!…………それが貴女の持ち物で有り、それを貴方が望むのであれば、私達はそのサポートを全力で行うのみです」
「そう、ですか」
ローサの言葉を聞き入れたフローラは深く頷いた。
それから、彼女は一度カイトの方に視線を向け──でも、彼は何故か土人形達と縄を引っ張り合ってて。
「フフッ」
それにクスッと噴き出した彼女は、もう一度深く頷いて──
「それじゃあ、私、この保険に加入したいと思います」




