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第2話 幕開けー②

「止まれガキィィィィ!!」


ギフトランドに来た初日から、私はガラの悪い巨漢達に追い回されていた。

額に爪痕のある強面のハゲは、どう考えても悪党集団のトップとしか思えない。


そもそも、あんなキャラクターをゲームでいただろうか。

私の記憶能力の無さにも驚きだが、攻略サイトで見たことのないイベントだ。

おそらくパリフィオで開催された、騎士団イベントで表記されている【盗賊】だろう。

さて、私が現時点に至るまでにあった出来事をまとめてみよう。


約1時間前、私はギフトランドで意識が覚めた。

状況を把握してすぐ、ベガスライムを抱えながら都市部の『ベルクラウン』へと

進み始め、旅路の途中で商人から食料と薬を一通り揃えた。

トラブルなく順調に進んでいたはずなのだが、ベルクラウン前の酒場近くを通っていたところ、

路地裏から姿を現した謎のハゲに追われているという状況だ。


パリフィオのストーリーで主人公が訪れることのない場所としても有名な酒場だが、

まさか子供を追い回す犯罪者が現れるとは。

ボツになったシナリオの可能性もあるが、今はそれどころじゃない。


私を乗せているスライムも、ゲームで見たことのないような苦しげな表情を浮かべ、

スピードも段々と落ちていっている。

悲しいことに、私はこの世界に降り立ってから、私が何者かという情報を持っていない。

そのために、下手に動けば最悪な結末を辿るというリスクもある。


「ごめんよぉ、ベガスライム__」

よくよく見てみると、先程まで私の胴体ほど大きかったスライムは、長時間サーフボードの

様に乗り回していたせいで、もう私の頭の大きさほどしか無かった。


嫌な予感は的中。

ついにスライムは跡形もなく消え、私は迫りくる盗賊たちの前でピタリと静止してしまった。

「あ、やばっ」

(かしら)ぁ!アイツ止まりやしたぜ!!」

(ヤバい…捕まったら何されるか分からない_)

先頭を走っていた小柄な男の手が私へと伸びる。

私は思わず目を瞑り、その場でしゃがみこんだ。


「おいおい、私の縄張りで狩りは良くねぇなあ、リドラー」


突然、私の眼の前に現れたのは、黒いコートを羽織った三つ編みの女だった。


女は私を捕まえようとしていた盗賊の男たちを一瞬にして氷漬けにしてしまった。

溢れ出る冷気が街の一角へと漏れ出し、氷柱が屋根の下で連なっていく。


私は彼女を知っている。

透き通るような青い髪と、吸い込まれるような琥珀色の瞳。


ギフトランド統括責任者(とうかつせきにんしゃ)代表、パリフィオのキーキャラクター

でもある〝氷界(ヴァイヌ)の守護者〟


「エ、エンディング?」

「ん?私のことを知ってるのか、嬢ちゃん?」


知ってるもなにも、私がパリフィオをプレイする中で、一番最初に手に入れた

キャラクターが、眼の前にいるエンディングである。


氷漬けにされた盗賊たちを横目に、エンディングは突然私を持ち上げた。

「手配書に載せられていたが…そうか、エアレイの妹ってお前だったのか」

「へ…?エアレイ?」

「知らないわけ無いだろう?妹であれ、そうでなかれ、彼女は〝隔星の聖女(アネモ)〟だ。

…あの盗賊等も、お前を使って彼女を脅そうとしていたのだろうがな」

エンディングは脇に私を抱え、街の路地裏へと入っていく。

「あのう…私はこれから何処に連れてかれる予定ですかね…?」

「家だよ、い・え。この世界の【平穏】を管理するラフウィン家の城だよ」


(おっと、それはかなり好都合…)

「その…もしかしてお姉様に会えたり…」

「…?何言ってんだ、妹に顔を合わせない姉が何処にいるってんだよ」

私はこの瞬間、この世界に来れたことを心から感謝した。


なぜなら、私が面倒なクエストをこなしたりすることなく、

最推しであるエアレイに会えるからである。


エアレイ=ラフウィン。作中屈指の敵キャラとして登場する彼女は、

ギフトランドを主人公が出て以降も姿を現し、各地で人々を絶望へと叩き込む

〝奈落の魔女〟と言われいる。

彼女は基本的に〝悪役令嬢〟と一般的に呼ばれるポジションにいて、

過去に何があったかはまだ明かされていない。

1年前くらいにプレイアブル化されたときはかなり話題になったものだ。


しかし、ふとエンディングの言葉に疑問を抱いた。


「エンディング…さん」

「…エンディングでいい。」

「じゃあ、エンディング。もう〝傀儡の腕輪(パペットリング)〟は見つかったの?」

突然、エンディングの足が止まる。

私は何も気にせず、彼女にただ、問いかける。

「…〝悪魔の大辞典(エルテマ)〟〝死者の記録簿(アルフォンド)〟〝詐欺師の天秤(カローミネリア)

あと…〝忘却の悲劇(バリオネス=ミノ)〟」

「待て_何処で〝悪意の異物(アヴァルデッド)〟の存在を知った?」

「貴方が友と呼んでいるエレノアは、今言った全ての〝悪意〟に呑み込まれてしまう。

そのシナリオを用意したのは誰でもなく__」


私の視界が突然反転する。

エンディングと重なった視線。凄まじい殺意を持っている、憎しみ、呪いの感情を持つ

人間がする、底のない真っ暗な瞳。


放り出された私は、空中で慌ててバランスを取り、路地裏から転がり出た。

(やっぱり…キャラクタープロフィールとストーリーを進めてて予想はしてたけど…)

「貴方がエレノアの〝結末〟を変えたんだよね、エンディング」

「…ただの子供だったら家に帰してやれたが…残念だ。本当はエレノアが堕ちる

材料のために、お前を使う予定だったんだが__」

青く透き通ったエンディングの髪色が、少しずつ濁った灰色へと変化していく。

「最悪…」

「私は後悔が嫌いなんだ…殺す後悔、信用の後悔、そして…過ちの後悔。

どこから情報が漏れていたかは分からないが、この後悔は…お前の首をハネてからにしよう」

エンディングは薄気味悪い笑みを浮かべ、近くの建物に触れた。




「__〝死金の列強(アドスバルデッド)〟起動」



突然、辺りの物の動きが止まり、黒い海が押し寄せてきた。

隅へと惨めに逃げる私と、壊れた機械の様に嗤うエンディング。

まさか、突然現れた味方キャラクターが敵に回るなんて思いもしないだろう。

「さぁ、処刑の時間だ無様に吠えて死ね」


私自身がここからの打開策を見つけるのは不可能。

さて、どうしたものか。


こうして、私の記念すべきパリフィオのチュートリアルが始まった。




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