第1話 幕開けー①
私が目を開けた時、そこは美しい緑が広がる野原だった。
ゆっくりと立ち上がると、自分の手と足の距離が近くなっていて夢でも見ているのかと思った。
だが現実だった。
私の足元で頬を擦り付けているスライムを見て確信した。
「…序章ストーリー解放のために討伐しないといけないベガスライム…」
私は、異世界の中で現実を見ているのだと。
ここは、RPG×乙女ゲームチックなストーリーで構成されるオープンワールドゲーム、
【パリフィオ=モーメント】の始まりの舞台、ギフトランド。
主人公の経験値を上げたり、他キャラクターとの交流を通して、おおまかな世界設定を
認識することのできるチュートリアルの街。
主人公は平民の少年。様々な国を旅し、事件に巻き込まれながら、世界の〝深峡〟で
待つ父の元を目指す王道ファンタジー。
しかし、クエストを進めていくうちに展開されるストーリーの内容は、女性でも楽しめる
乙女ゲームの要素を取り組んだもの。シンデレラストーリー、悪役令嬢など、個性の強い
キャラたちが繰り広げる世界観は圧巻されるものだ。
しかし、だ。どうして私はここにいるのか、という疑問はひとまず置いておこう。
主人公の少年、玄はクエストを進めていくうちに重要なキャラクターであり、
性別が変更できる機能はついていない。だが、私の身体はどこからどう見ても女。
つまり、ゲーム内に登場するサブキャラクターとなっている可能性が高い。
(ギフトランドでベガスライムを狩れるポイントは1つ…つまりここは、キローク領か)
妙に人懐っこいスライムを抱えながら、私は風がそよぐ野原の中を歩き始めた。
「__彼女、赤木御守は、ごく普通の高校生。
御守が覚えているのは、人々の記憶の断片だけであることを、彼女自身はまだ知らない」
「祝福が呼応し始めて何千年か。繰り返されるこの物語の一片を綴ったのは、
地球という星で生まれ変わった〝精霊玄〟の3人。しかし、我々の選択は__果たして」
神階_第49層。
そこは、古より存在し続ける、悪食の意志と神秘を手に入れた超越者達の巣窟。
「あの少女の辿る道は、これまで犠牲となった309806人の誰よりも、過酷で呪いにまみれている。
これでは、ただの無駄死にとなって終わるのが明確じゃないのか?」
不気味な赤い仮面を被った革神、カリュードは目を細めて悔やむ。
「希望なく廻る世界の秩序に、呪いと過酷は付き物だ。今更何を言っている?」
顔の至るところに呪印が浮かぶ静神、デリッジは呆れたような態度で返した。
無意味な言い争いを遠くから眺めていた、冒険家の様な姿をしている統括者、〝ニンゲン〟は、2人の間に割り込むような形で、まぁまぁと言いながら、腰に下げたボロボロのカバンのポケットから、黒く染まった
謎の球体を取り出した。
すると驚くことに、険悪な空気の流れかけていた2人は今度は心配するような、小馬鹿に
するような態度でニンゲンに絡み始めた。
「…〝ニンゲン〟お前は今回の選択によほど自信があるようだな?」
「俺達が今回の選択で賭けていないのは、勝率が0%のギャンブルだからだ。
考え直してみろ?選択者に賭けられるポイントは1年に1回だぞ?」
「私が今回賭けるのは、無謀だから、気が狂ったからというワケではない。
…それは赤木御守という人間が私の〝後継者〟だ」
数秒の静寂。誰1人として動きを見せない中、デリッジは身にまとった赤いローブを
漁り、ニンゲンと同じ、黒い球体を取り出した。
「〝後継者〟だからこそ、勝率0%の必要があるって事だな」
続けて、カリュードも同じように球体を取り出した。
「その情報が無ければ、危うく今年の賭け分を無駄に消費するところだったじゃないか」
3人は球体を天井の見えない階層の中心で、高く掲げた。
球体はゆっくりと宙へと浮き上がり、やがて青い光が彼らを包みこみ、そして
あっという間に消えていってしまった。
「さぁ、テーブルは変わった__予想外の結末を楽しみに待とうじゃないか」
___ギフトランド、第2都市キローク領。
「いたぞ!追え!!」
「クソっ!すばしっこい奴め…逃がすな!!」
スライムをサーフボードのように滑らせながら、街中を突き進む少女と
それを追うガラの悪い大男と、その子分たち。
「こんなイベントがあるなんて聞いてないよ〜!!!」
赤木御守、異世界探索1日目。
街中で逃走中が始まってしまいました。