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「いつまで猫かぶってりゃ良いんだよ」


「開始半刻で飽きるの早いでしょ?」


 ぼやくダフにラブがすかさず突っ込む。幸いにも、先行するブレイン殿下とライト、殿のマックスには双子の声は聞こえてない様だ。


 約半日の課外実習で、場所は初級から中級の冒険者の狩場であるソーナの森、上級冒険者レベルの教師がお目付役に付き、装備や持ち物も万が一に備えてやたらと厳重かつ多い。出てくる魔獣も初級寄りの弱いものばかり。ブレイン殿下、ライト、マックスが双子をフォローしながら次々と討伐をこなしていく。懇切丁寧な彼らの指導付き。課外実習初参加の双子に、まさに至れり尽くせりの対応だった。下心はなんとなく、透けて見えたが。


 しかし双子は課外実習は初めてでも、魔獣討伐は初めてではなかった。討伐経験は中級冒険者ぐらいはある。熱心に討伐の際の注意点を教えてくれているが、既に知っている事をドヤ顔で繰り返し説明されるとイラッとする。


「エリス様に大物仕留めるって言ったのに、こんな森の浅いところじゃ大した魔獣出ないよなぁ」


「仕方ないわよ。学園の生徒が参加する課外実習なんてそんなもんでしょ」


 他の参加者達は緊張感を持って真剣に実習に取り組んでいる。討伐自体が初めての生徒も多いのだ。

 コソコソと双子が話し合っていると、ブレインが振り向いた。


「2人とも、実習参加が初めてと思えないほど落ち着いているな。もしかして討伐に参加した事があるのかな?」


「あっ…、はいっ…。兄と一緒に1、2回」


 とっさにラブが笑顔で嘘をつく。兄と一緒には本当だが、討伐は大きいものから小さいものまで、百は超える。しかし、あんなに丁寧に教えてもらっていて、実は知ってましたーとは言えないし。そんな双子の心中には気づかず、ブレインは感心した様に頷いた。


「ああ。やはりイジー子爵家の子は凄いな。その年で既に討伐経験があるとは……。ハル・イジーか。確かラース侯爵家に仕えながらも冒険者としても活躍しているのだったね」


 双子たちの兄、ハル・イジーは上級冒険者だ。その討伐に同行していたら学園の課外実習などで動揺する事もないだろう。


「そうか。ならばもう少し森の奥へ行ってもいいかな?この辺の魔獣は我々のレベルでは物足りないんだよ」


 ブレインの言葉に、ダフが驚いて目を見張る。


「えっ?でも先生は今日の実習はこの近辺の討伐だけだと……」


「完全な初心者ならこの辺が適しているだろうけど、ダフとラブ嬢が討伐経験があるから大丈夫!奥へ潜ろう」


「うん、問題ない」


 自信満々に言い切るマックスと、それに同意するライト。

 ラブは困った様に視線を彷徨わせた。


「では、一度先生に許可を頂いてから…」


 ラブの不安げな様子に、ブレインは苦笑した。


「大丈夫だよ。私達は何度か3人で森の奥での討伐も経験しているし、それも先生方はご存知だ。君ら初心者が一緒でもなんら問題ない。今までより魔獣は手強くなるが、私達が必ずフォローするし、君達にも良い経験になるだろう」


「はあ…」


 ため息を押し殺してラブは不承不承頷いた。ブレイン殿下の表情から、森の奥に行くのは決定事項の様だ。一応今回のパーティーのリーダーであるため、彼が決めたなら従うしかないだろう。ダフを見ると、キリリと緊張した様な顔をしているが、それは表面的なもので、内心は心底うんざりしているようだ。なんせ母親のお腹の中からの付き合いだ、すぐに分かる。


「では……。少しでも危険と感じたら、引き返しましょう」


 ダフの慎重な言葉に、ブレイン達は笑っている。


「大丈夫だよ。君たち2人のことは私達が必ず守る。大船に乗った気持ちでいなさい」



◇◇◇



 どこが大船だ。

 とんだ泥舟だった。


「ラブ!障壁はどれぐらい保つ?」


「治癒に魔力を使ってるからそんなに保たない!」


 血溜まりで倒れ伏すマックス。

 魔力切れでへたり込んでるライト。

 

 その2人を障壁で庇いながらマックスの治癒を施すラブ。


 ブレインとダフは障壁の外で、襲いくる魔獣を切り裂いているが、数が多すぎて防戦一方だ。マックスの流した血の匂いに惹かれて、続々と魔獣が集まっている。


 ラブが魔力ポーションを飲みながら障壁を維持しているが、魔力ポーションは飲んですぐに魔力が回復するものではない。回復する端から障壁に魔力を取られるので、ダフ達のフォローに回れずにいた。


 何故こんな事になっているかと言うと、様々な要因が絡み、こうなったとしか言いようがなかった。


 まず、森の奥へ進む内、討伐に夢中になり過ぎて、奥へ進み過ぎてしまった。ブレイン達が双子にいい所を見せようと張り切ったのと、双子が的確にブレイン達をフォローしたため討伐が順調に進み、気づいたら自分達の実力を超えたエリアまで入ってしまったのだ。

 

 気づいた時には魔獣に囲まれていた。そして不意をつかれたマックスが魔獣に腹を裂かれ、血の匂いを嗅ぎつけた魔獣達が集まり出した。


 囲まれた時もまだ余裕はあった。マックスの治療を即座にラブが行い、他の3人が2人を守りながら魔獣を倒す。しかしそこに最悪なタイミングで厄災がやってきた。


 銀毛犬(シルバードッグ)

 初級冒険者がよく狩る黒毛犬(ブラックドッグ)より遥かに格上の魔獣。牙も爪も鋭く、獰猛で動きも速い。しかも魔法があまり効かない、変異種だった。

 上級冒険者もパーティーを組んでようやく討伐可能な魔獣だ。学園の生徒が相手に出来るものではない。


 銀毛犬(シルバードッグ)が現れた事により、戦況は一気に悪化した。

 ライトの魔法が悉く跳ね返され、焦ったライトが魔法を連発したため、魔力が切れた。魔力ポーションを飲み、回復を待つ事になる。


 ダフとブレインが剣で攻撃するが、銀毛犬(シルバードッグ)の動きが速く、かすり傷すら負わせられない。しかも相手は銀毛犬(シルバードッグ)だけではない。他の魔獣も相手をしなければならず、小さな傷、疲労は確実に溜まってきていた。


「ダフ、ラブ嬢とライトを連れて逃げられるか?」


 肩で息をしているブレインが、小声で聞いてくる。


「無理ですよ!数が多すぎる。俺たちが分散したらあっという間にやられます。もしもの時は殿下だけでも障壁の中に入ってください!後1人増えるぐらいなら何とか保つでしょうから!」


 障壁は今3人が入る最小の範囲で展開されている。人数が増え、範囲が広がればそれだけラブの負担が増える。


「馬鹿なっ!私は最後まで残る!君が入りなさい!」


「殿下こそ馬鹿な事言わないでください。王族差し置いて安全圏に逃げる臣下がどこにいるっていうんですかっ!」


 グッと詰まるブレインに、魔獣が襲いかかる。とうに体力は限界が近い。咄嗟に身を捩ったが、腕に魔獣の爪が掠り、剣を取り落としてしまった。


「うっ!」


 ダフがすかさずフォローし、魔獣を剣で制すと、ブレインを庇いながらジリジリと障壁まで下がった。


「ラブっ!!」


 ダフの鋭い声に、ラブが障壁を解除する。ブレインを押し込め、すぐにラブが障壁を展開させた。


「ラブっ!出来るだけこっちに引きつける!最悪、隙を見て、殿下だけでも連れて逃げろっ!絶対死なせるなっ」


「分かった!」


 剣を振るうダフにも、魔法を展開しているラブにも、一切迷いはない。危機の時には優先すべきことをハッキリさせる。冒険者のセオリーだ。迷いを見せれば全滅する。


「殿下。私も囮になります。どうか御身のことだけをお考えください」


 青ざめたライトが、それでも決意を込めて言う。ブレインは首を振る。


「何を言うんだ!ラブ嬢、障壁を解除しろ!このままではダフが死んでしまう」


「いいえ、殿下。そのご命令には従えません」


 ラブはジッとダフを見つめながら、逃げ道はないかと周囲を探り続けていた。たとえダフが目の前で魔獣に引き裂かれようと、ブレインを無事に帰さなければ、それはラース侯爵家の落ち度になる。何が何でも無事に帰さなくては。主家に迷惑をかける事は、自分達にとって死ぬより辛い事だった。


 その時、魔獣の勢いを躱しきれず、ダフが魔獣に押し倒された。倒れてもなお剣は離さなかったが、喉を食い千切ろうと歯を剥く魔獣を防ぐのに精一杯だ。


「ダフっ……」

 

 ラブは心が恐怖で引き裂かれそうになっても、決してダフから目を離さなかった。

 いつだって、喧嘩ばかりしてた。ダフの単純な所に腹を立て、怒ってばかりだった。でも嫌いなわけがない。生まれる前から一緒の、大事な片割れだ。


「ダフっ」


 構えた剣が徐々に下がっていく。魔獣の牙が、ダフの肩や顔に傷を付ける。他の魔獣が集まってきて、ダフを取り囲み始めた。もしあの牙がダフの首を貫けば、他の魔獣達もダフの肉を奪うために、襲いかかるだろう。


「ラブ嬢っ、命令だっ、障壁を解除しろっ!ダフが死んでしまうっ!私は王太子だぞっ、従うんだ!」


 ブレインが叫びながら障壁を叩く。ラブは首を振り、必死で杖を掴んでいた。


 ダフの剣がとうとう弾き飛ばされた。無防備な首を狙い、魔獣がダフに覆い被さる。腕で防ぐが、そこに魔獣は牙を立てた。


「いやぁっ!ダフっ!ダフがぁ、誰かっ、ダフを助けてぇっ!」


 ラブは叫んでいた。ダフの言う通り、障壁は死んでも解除しない。でもこれ以上、死に向かうダフの事を見ていられず、ラブは叫びながら目を閉じた。


「助けてっ!()()()()()




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― 新着の感想 ―
[一言] とても面白かったです( ´∀` )b お嬢様の無双、楽しみです!щ(゜▽゜щ)
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