第1話 不思議な精霊さん
目が覚めると、ベットの横で母の美咲が眠っていた。
「母…さん……」
掠れた声で呼びかける。
「悠人!大丈夫?!痛いところとかない?」
かすかな声に気づいた母さんがとても心配そうに話しかけてくる。
「うん……大丈夫………」
それから、自分が気を失ったあとに看護師によって救命措置が行われ、3日間生死をさまよっていたという。
死ぬのが怖くないなんて、二度とそうは思えないな。
それから、母さんは帰宅し、僕は早めに眠りについた。
翌日の朝は、雨が降っていた。
怖い……死が、病魔に侵されてく感覚が、とにかく怖い。
朝からずっとそんなことばかりを考えていた。
先日までなんとも思っていなかったのが嘘のように、死が怖い。
「なんでっ………なんで俺なんだよ!」
そう言い終わるのと同時に、僕は病室を飛び出した。
どこへ行くのでもなく、何を求めるでもなく、ただ走り出す。
゛少しでも逃げたいがために゛
病室を出て、階段を駆け下り、通路を抜け、庭に出て、立ち止まる。
「この病院に、こんなところがあったのか?」
目の前には、大きな花畑があった。
「はは……ちょっと前に来てたら、素直に感動できたんだろうな………」
こんな状況で感動も何も無い、ただひたすらにこの恐怖から逃れたい。
「あなた………何してるの?」
突然、背後から声がかかる。
「………なにも」
「なにもないって顔…………してない」
なんなんだ、今はとても誰かの相手なんてしたくない。
「なんか悩んでるなら………聞こうか?」
「っ!ほっといてくれ!!余計なお世話なっ!?」
感情に流されるまま怒鳴っていると、いきなり女の子が抱きしめてきた。
「なにするんだ!」
「辛いんでしょ?なんでも話して?」
温かかった、まるで心までとかすかのような。
「…………話せば、長いぞ?」
「いい、時間ならある」
それから僕はこれまでのことを女の子に話た。
病気の事、余命半年だということ、全てを話た。
「そっか」
「ほらな、もうこんな時間だし聞いてて面白くもないだろ、僕はそろそろ戻る、君もそうした方がいいよ」
「ねえ、生きたい?」
突然、女の子の口からそんな言葉が発せられた。
「は?……」
「だから、まだ生きていたい?」
女の子は微笑みながら問いかけてくる。
「そんなのっ!行きたいに決まってるだろ!」
「じゃあさ、1年間あなたの世界を見せて?」
意味不明、だけれどその言葉には何かを感じた。
「できるのか?」
「うん、あなたが条件を飲んでくれるならね?」
「わかった、でもどうやって寿命を延ばすんだ?」
そう、それが大事なのだ、それができなきゃただの茶番にしかならない。
「大丈夫、本当はわたし、精霊さんなんだよ?」
は?何をふざけたことを、そう言葉にしようとした時、゛花畑が散った゛。
──────わたしの名前は雫、精霊さんだよ?
その言葉を残して。