不出来な新人を自主退職に追い込んでたツケ 巡ってきた自分の番
とある工場。そこに自分の大声が響く。
「なにやってんだ! 遅いぞ。ゴミ分別なんて誰でもできるだろ。使えないなぁ」
そう声を荒げていた。
数人入ってきた新人の中で使えないヤツがいたから自主退職に追い込むような雰囲気が醸成されていた。それに乗っかり、通常の仕事も遅いので、他に回されたそいつに出来ない部分を大袈裟に指摘してやる。
「まだ入ったばかりなんだから遅いのは仕方がないよ。悪いけどこれもお願いね」
「おいおい、そいつにお願いなんてしなくてもいいだろーが」
忙しい所へといつも応援に行かされるやつがフォローしているから注意する。
「新しい仕事を覚えるのは大変だよ。ここはただでさえちゃんと教えないんだから」
「教えてるだろ。覚えないそいつが悪いんだ」
「出来ないヤツを辞めさせていけば、いつかは自分の番になっちゃうよ」
「そりゃー、自業自得ってやつさ」
おかしなこと言うよな。自分の仕事の範囲を守っていれば、そんなことにはならないのに。
◇ ◆ ◇
時は流れ、何度か人が入れ替わり、また新しい人が入ってきた。今度のヤツはなかなかに使える人材だ。
分からないことは訊くし、物覚えも良い。
順調に仕事が進んでいた。新人の能力が思っていた以上に良かったのだ。
が、順調すぎた。自分の所の仕事が無くなった。時間給の派遣なら仕事をしているからこそお金を貰える。仕事がなくなったら残業もなく、基本給だけだと生活に困ることになるだろう。
仕事が回ってこない。加工の担当者が忙しく動き回っている。あの様子ではすぐには仕事が来ないようだ。
そこへあちこちに応援に行っているヤツが通りかかる。
「なに呆然と突っ立っているの?」
「いや、仕事がないから」
「はぁ!? 無かったら探したら、自分が出来ることを」
そいつが呆れたような顔をして、バカにしたようなことを言ってくる。
「いや、俺の担当はここだし。そういう、お前は何やってるんだ?」
「加工の手伝いだよ。ボール盤ぐらいなら簡単だから教えてもらえば」
簡単そうな仕事を提案してくる。
「なんでわざわざ。仕事を回さないリーダーが悪い」
「まぁそうなんだけど、いつも動かないだろ。だからこそ自発的に動かないと」
正論言ってもダメ。言われることも分からんわけではないのだが。
「こういうとき指示出すのが仕事だろ。指示がないんだから仕方がないだろー」
「あっち見ろよ。新人さんが仕事探して、教えてもらっているだろ? 真似したらどうだ」
「なんで俺が新人みたいなことしなきゃならないんだよ」
「じゃあ、誰でも出来るゴミの分別でもしたらどうだ。今、加工忙しいみたいだし助かるぞ、きっと」
「それこそ加工の仕事じゃん」
なんで自分の仕事をしないんだよ。他人に仕事を盗られるようなこと勧めるとそこの担当に恨まれるだろ。
「今、お前暇なんだろ?」
「それとこれは別だ」
「今、役に立っているのはあの新人だぞ。お前が干される番が来るぞ」
「なんでだよ。仕事してるだろ」
「してないだろ。しばらくはそこに仕事は回って来んぞ。どうするんだ」
なんで仕事を教えた先輩にそんなこと言うんだ。
「後輩なのに生意気だぞ」
「あのな、オレの方が入社早いぞ。IDオレの方が若いだろ。オレが夜勤だったから勘違いしてんだろ」
確かにIDが俺よりも数字が小さい。そういえば、応援でたらい回しされているときに、こいつより後から入ったと思うやつにも教えてもらっていたのを思い出した。
確かに今は手持無沙汰だ。このままだとこの会社なら確かにアタリがきつくなりそうだ。
「だが、後輩に教えてもらうってのは嫌だぞ」
「だから知らない仕事に対してなら、お前が新人と変わらないんだと認識しろ」
くそっ。仕方がないのか。
「休憩時間もスマホでゲームばかりして、メシのときも一人で食ってたから誰とも仲良くしてなかったボッチだろ。挨拶もちゃんとしないんだから、そんな態度のままだと本当に潰されるのはお前の番になるぞ」
「分かったよ、やりゃーいいんだろ」
「あの新人と一緒に、荷物が届いたらしいから荷運びでもしてたらどうだ?」
「ああ、行ってくる」
それで荷物の運び入れを手伝うことになった。
「何、一個づつ運んでるんだ。新人を見ろ。三つ一度に運んでいるぞ」
「若いのと一緒にするな! 何入ってるか知らないが重いんだよ」
「チンタラするな! そんなふらついて落とすなよ。使えないなぁ」
なんでだよ。初めてなんだから仕方ないだろ。
「しばらくはあそこ仕事少ないし、新人の方が良くね」
「そうなだ。忙しくなればいつもの応援呼べばいいし」
勝手なこと言ってんじゃねぇ。忙しくなれば二人でやるより、俺の方が慣れてるから速いだろ。
「おーい。次はこれらを仕分けするぞ」
「まだあるのかよ」
「文句言わずにやれ。まだ終業まで時間があるだろ」
「やるよ。やりゃーいいんだろ」
慣れない仕事を熟し、遅いと罵られる。
こうやって、事ある毎に新人と比べられ、ついには自主退職するに至るのだった。