巻きこまれ令嬢の憂鬱
「はぁ…」
「38回目」
「はぁ…」
「39回目」
「ねぇ、さっきから私のため息数えるのやめてくれない?」
「お嬢様のため息を毎日聞き続けるオレの身にもなってください。こちらまで鬱々とした気分になってきますよ」
「じゃあこの私の体質どうにかしてよ!なんで何度も暗殺者を家に送り込まれなきゃならないわけ!?」
巻きこまれ体質、というものがある。
自分は関わりたくなくても、あらゆる面倒事や事件に巻きこまれやすい体質のことである。
ある研究によればこのように運が無く、面倒事を引き受けやすい人は人とあまり関わりを持とうとせず、ネガティブ思考で、笑うことが少ないそうだ。つまり、ポジティブになり、人と積極的に関わり、沢山笑えば幸運は寄ってくるという結論であったのだが…
他の人はどうだか知らないが、私、金森巡にはそれは当てはまらなかった。
天真爛漫とはいかなくても、どちらかと言えば明るめの性格だったし、友達もそれなりにいたし、無表情ではなかったと思う。
それなのに、私の巻きこまれ体質度は半端ではなかった。
産まれてすぐ、病院のいざこざに巻きこまれて別の子供と取り違えられた。(すぐ判明して自分の母親のもとに戻れたが)
何かと曲がり角で食パン咥えた少年とぶつかった。(別に恋愛には発展しなかったが)
どこかの財閥のご令嬢のお忍びと間違えられて誘拐されかけたこともあるし、先生に雑用を押し付けられることも他の子より断然多かったように思える。
とにかく、物事の大きい小さいに関わらず、私の人生は波乱だらけだった。
その人生もなぜか帰り道で謎の宗教団体に拉致され、謎の儀式に参加させられ、意識を失ったことで終わった…と思う。
実感はないが、私は転生しているからだ。
それも、乙女ゲーム『君と世界樹の下で』の世界に。
『君と世界樹の下で』は主に中高生に人気のあった乙女ゲームで、声優の豪華さと綺麗なスチルが売りのゲームだった。
私自身特にゲームというものには興味がなかったが、友達に頼まれて応募した懸賞が狙っていたものではなかったが当たり、「私それ持ってるから巡にあげる!推し決まったら今度語ろ!」と押しつけられたものである。
しかし、実際始めて見ると、私は攻略対象である王太子などにキュンキュンすることはあまりなく、むしろヒロインに同情した。
いきなり異世界から召喚され王国のいざこざに巻きこまれるも、一生懸命頑張る姿に泣いた。
私も頑張ろうと思った。
まあそんな斜め上の楽しみ方をしたが、それなりにこのゲームのことは好きだった。
ただ、転生となれば話は別である。
いやだって、アニメか?ラノベか?
いくら私の体質が規格外とはいえ、もうこれは時空を超えている。
まじ、ふざけんな、神様。ゆるさねーぞ?
ただし、こんな中でも2つだけ、幸運と言えることがある。
まず1つ、転生したのは穏やかな侯爵家であったことだ。
乙女ゲームの舞台、ユトランド王国は比較的治安も良く、貧富の差もそこまで激しくは無いものの、日本ほど安定している訳では無い。貧乏な家ではまだ小さな子供が働きに出る事も珍しくないし、スラムのような場所もある。
つまり、私にとっては命に関わる。最悪、奴隷として売られたりする可能性もあるわけだ。
その点、侯爵家なら安全なはずだし、食料も確保されている。父親は少し気が弱いところがあるが、領民にも信頼されている優しい人だし、母親は落ち着いた雰囲気で綺麗な美人さんである。平民よりは安心して生活できるだろう。
2つ目、これが最も重要なことだが、私は物語に全く関わらないモブキャラだということだ。
転生したことに戸惑いまくっていた生まれたてのとき、父親と母親に連れられて来た王城でここが『君と世界樹の下で』通称キミセカの世界だと気づいた。
だってパッケージそのまま!白亜の王城の後ろに超巨大な木、世界樹がそびえ立っている。
こ、これもしかして私の体質的に物語の重要ポジなのでは…?悪役令嬢だったりするのでは…?と心配しまくったが、それは杞憂だった。
「陛下、こちらが先日生まれた我が娘でございます」
「おお、これはこれは可愛らしいおなごではないか…そうだな、この淡い紫の瞳から…アイリスと名付けてはどうだ?」
「アイリス・グーテンベルク…素晴らしい!陛下、素敵な名前を頂きありがたく存じます」
「よいよい、他ならぬアーサーの娘だ。将来が楽しみだ。…アイリス・グーテンベルクに女神の御加護があらんことを」
貴族に子供が生まれた時、国王が名付け親となるのがこの国の習慣である。なんでもそれによって生まれた時から王室に対する忠義を感じさせるためとか。
ともかく、陛下によってアイリスと名付けられた私は、ゲーム内でアイリスというキャラクターが全く出てこなかったことに凄く安心した。
晴れてモブキャラだと判明し、もしかしたらこの体質も転生したら治ってるのかも…と期待した私が馬鹿だった。
「そりゃどう考えたってお嬢様のそれは治せないですよね、もう何年悩まされてると思ってるんですか」
私の体質は治ることなく、寧ろ悪化した。




