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イチョウがまた微笑んだ。


「それでね、あなたが助かったのは、先にソウゲツが渡した勾玉のおかげなのよ」


そういえば、あの勾玉は服のポケットに入れておいた。ソウゲツと呼ばれた彼に会えたら返さないといけないと思っていたからだ。


危なくなった時に無意識につかみだし、それを握って右手を振り回した。それが功を奏して、あの鬼に傷をつけることができたようだ。ソウゲツ様様だと思って、私は彼のことを見た。なのに。


「と、言いたいのだけど、本来はあの勾玉くらいじゃ守り切れないはずなのよ。それでね、これなんだけど」


イチョウの言葉に、青年が小さな座布団みたいなものに載せたものを持ってきた。


「これは」


そこにはバラバラになった数珠玉が乗せられていた。この数珠玉は祖父が私にくれたものだった。小さな座布団ごと受け取って、数珠玉にそっと触れた。その時また、ツキリと頭が痛んだ。すぐに治まったけど、二度目ということが少し気になった。


「その数珠について教えてもらいたいのです。棟高様は『タイゲン』という名に心当たりはないでしょうか」


ダンディな男性が訊いてきた。その言葉に私は眉を寄せた。


「言わないといけないことでしょうか」

「重要なことなのです。是非ともお答えいただきたい」


柔和な笑顔でダンディな男性が言った。だけど、なんだろう。その笑顔が癇に障る。人好きのする柔らかい笑顔。周りに好印象を与えるはずだ。

なのに、その作った笑顔(・・・・・)にいら立ちがつのる。


そう思う反面、自分のその気持ちに驚く自分もいた。大体自分はそんな裏読み(・・・)できる(・・・)性格をしていない。


そう思ったことにまた驚く自分がいる。


何だろう、これは。思考がまとまらない。


「棟高様、どうかお願いいたします」


再度男性が言った。私は眉間に力が入るのを感じながら答えた。


「それは祖父から渡されたものです。製作者は知りません。「タイゲン」という名前は聞いたことはありません」


『うそだ』


頭の中で声がした。そう、これは嘘だ。「タイゲン」という名前は知っている。


『いや、知らない。そんな名前は、()は知らない』


また、相反する声が聞こえてきた。なんなのだろう。先ほどから、自分の頭の中で何が起こっているのだろう。


また、ツキリと頭が痛んだ。今度は短い間隔でツキリ、ツキリと痛み出した。


「そうですか。『タイゲン』のことを知っていらっしゃったお祖父様は、お亡くなりになられていらっしゃいますから、手掛かりはないということですね」


ダンディな男性は口ぶりほど残念ではない感じで言った。


「ところで棟高様、金曜の夜のことなのですが」

「……金曜の夜ですか?」


不自然なところで言葉を切られて、つい訊いてしまった。それを待っていたかのように男は笑った。


「ええ。棟高様にお聞きしたいことが、他にもございまして」

「……聞きたいことですか?」


また、不自然に言葉を切られた。言いたくないのに、訊き返してしまう。それに、だんだんと痛みが強くなってきているみたいだ。


「棟高様は、鬼が核を移動させたのを見つけたのですよね。どうしてそれが分かったのですか」

「それは……見えた……から」


言葉を絞り出してから、私は額に手を当てた。もう、痛みは尋常じゃないくらいに酷くなっていた。


「視えた? それはなぜですか? あなたが特別な血筋の方だからではないですか」

「特別……な、血?」


頭痛だけではなく吐き気まで覚えてきた。左手を口元に持っていって、拳をあてた。


「ユウゲン様、待ってください」


イチョウが静止の声をあげているみたいだ。今となっては脈と一緒にズキンズキンという音が、頭の中に鳴り響いている。


「あなたは『阿片(あがた)』の血を引いておられるのではないのですか?」

「駄目です! ユウゲン様。棟高様の様子がおかしいですよ」


続けて言われた言葉に痛みが止まった。額を押さえる手の隙間から、向かいに座るイチョウの心配そうな顔が見えた。


『だけど、もう遅い』

『可哀そうに。まだ……は、居ないのに』

『これで……思いだしてしまう』


頭の中に声が響いた。聞いたことがある気がする声。


「アガタ?」


遠くで誰かの声がした。いいえ。これは私の声。呟くと同時にどこかで、パリン と、何かが割れたような音がした。


「あっ……あっ……」


溢れた記憶に意識がほんろうされる。



父の顔が、母の顔が、弟の顔が。

話す祖母の姿、諭す祖父の在りし日の姿。


ああ、そうだ。在りし日に言われていたことだ。

闇に潜むもののこと。特別な血筋のこと。それから鬼のこと。


あの日、祖母は私の記憶を封印した。

そして、祖父は私の……を探していた。


でも、祖父のお眼鏡にかなうものは現れなかった。

少しでも見つからないようにと、数珠に力を込めてくれた。

残り少ない命と引き換えに。



私は頽れるように床へと倒れ伏し、意識を再び手放したのだった。




再び目を覚ました時、目に入ってきたのはイチョウと呼ばれている女性の姿だった。イチョウは私が目を覚ましたことにホッとした表情を浮かべた。


「どれぐらい意識を」

「無理に話さないでいいから。意識を失っていたのは4時間くらいよ。どう? 大丈夫かしら」



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