表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

その言葉を聞いた鬼ははじかれたように動いた。奥村から離れようと、そして私を人質にでもしようと考えたのか、私のほうへ向けて走り出した。一足飛びで私のそばに来ると、私の腕を掴んだ。


「ぎゃははは~。今日のところは見逃してやる。この女の命が惜しければ……」


鬼は私の首に尖った爪を突きつけながら振り向こうとしたが、それは出来なかった。すぐに追い縋った奥村の手刀で、首を刎ねられたのだ。


鬼の血が私の顔に飛んできた。


鬼の頭はくるりと回転しながら、離れていく。下向きになった顔が驚きの表情を浮かべ、それから愕然とした表情に変わり、向きが変わって表情が見えなくなったところで、突然砂にでもなったかのように、ざーっと崩れ落ちた。


私の位置からは見えなかったが、どうやら奥村が鬼の核を壊すことに成功したみたいだった。


視線を下に向けると、足元には黒い砂のようなものがたまっていた。ユラユラと黒い煙が立ち上っている。そのすぐそばに人の足が見えた。下げた視線をその人の体に沿って持ち上げていった。


私の目の前にいるのは、青い燐光を纏った、秀麗な顔をした鬼。額にふたつ小さな突起が見えた。その鬼の口が動いて何かを言ったけど、いろいろと限界を迎えた私は意識を手放したのだった。



「う、ん」


鼻をくすぐるコーヒーの香りに、意識が浮上してきた。寝起きにコーヒーを入れてくれるのは、友人の宏美だ。昨日の合コンの後に、宏美のところに泊まってしまったのかと思いながら、私は目をあけた。


「起きたのか」


低い聞き心地のいい声が聞こえてきて、私は布団をはね飛ばして起き上がった。ベッドの横には見目麗しい男性がいた。


「えっと、あなたは」


問いかける私を男はベッドに押し倒し、布団をかけて抑え込んできた。


「ちょっと、何するんですか」

「頼むから動くな」


意味が解らずに布団の中でジタバタともがく。そこに呆れを含んだ女性の声が聞こえてきた。


「何をしているのよ、あんたは」

「イチョウ、てめえ、何をしやがる。ちゃんと着替えさせておけよ」

「あら、心外だわ。私がシャツを羽織らせたら、彼女が丸まってボタンを止めさせてくれなかったのよ。いいじゃない、役得で。いいものが見れたんだから」

「ばかやろう!」


二人の会話に、なぜ布団をかけられたのか分かった私は、動くのを止めた。それに気がついた男は布団を押さえるのをやめて、離れて行った。そのまま部屋の中から出て行ったようだ。


私は布団の中で手探りでボタンを留めていった。そろりと布団から顔を出すと、そばに立つ女性と目が合った。女性はにっこりと笑った。


「ごめんなさいね。まさか寝起きで、飛び起きれるだなんて思わなかったのよ」

「え~と、あの」


言いかけて、ハタッと止まる。何から聞いたらいいのだろうか。そんな私の困惑がわかったのか、女性が訊いてきた。


「いろいろと訊きたいことがあるのはわかるけど、まずはこれだけは答えてくれる? どこか痛いところや変に感じるところはない?」

「あ~、はい。……大丈夫です」


女性の問いに上体を起こした私は、軽く体を捻ってみたりしながら答えた。


「どうやら本当に大丈夫のようね。あれだけの瘴気を浴びながら、よく無事だったというか。それともソウゲツとの相性がよかったのかしら」

「瘴気?」


訊きなれない言葉に、首を捻る。その時ツキリと頭が痛んだ。その痛みに顔をしかめたが、それはすぐに収まった。


「そのことも含めて話さなければいけないのよね。でも、その前にお腹すいてない?」


女性の言葉に私は無意識に胃の辺りを押さえた。そう言われるとお腹がすいている気がする。私の表情から読み取ったのか、女性が笑いながら言ってきた。


「やっぱ、そうよね。丸一日半寝ていたのですもの。お腹だってすくわよ」

「えっ?」


女性が言った言葉に、目を瞬いた。


丸一日半(・・・・)? 


そんなにも眠っていたのかと思ったのよ。あの時お店を出たのは金曜日の21時を過ぎていた。それからみんなと別れて駅に向かったのが20分過ぎ。怪異にあったけど、あれは時間にして30分も経っていなかったと思う。それなら私が意識を手放したのは22時頃だったはず。じゃあ、今は日曜日の10時頃ということなのか。


思わず部屋の中を見回したけど、壁や見えるところに時計はなかった。


「ごめんなさいね。殺風景な部屋でしょう。次からは時計ぐらい置くようにするわね」


察した女性が言った言葉で、本当にそれだけの時間が経っているのだと察せられた。


「それから、これだけは先に言っておくわね。あなたの服を脱がせたのは私よ。かなり汚れてしまったのよ。申し訳ないけど、処分をさせてもらったわ。着替えはそこにおいてあるものを、身に着けてくれるかしら。あと、あなたの荷物はそこにあるわ。あとで中を確認してね。じゃあ、私も出ているから、着替えが終ったらそっちの部屋にきてね」


女性はそれだけを言うと、ウインクをして部屋から出て行ってしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ