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あまり眠れないまま、私は朝を迎えた。私は時間の無い時用に作っておいた、焼くだけ簡単のクロックムッシュを冷凍庫から取り出して、トースターに置いた。焼いている間にヨーグルトにブルーベリージャムを入れたものと、コーヒーを用意した。コーヒーはマグカップにセットできるドリップのもの。お湯が沸いたらすぐに出来上がる。お手軽が一番だ。


食事を済ませると、部屋の隅に置いてある小さな仏壇に手を合わせた。


「じゃあ、行ってきます」


そういうと、部屋に鍵をかけて仕事場へと向かったのでした。



私は一人暮らしをしている。それに家族と呼べる人はもういなかった。


私が小学生の時に両親と弟はバスの事故で亡くなった。スキーのツアーに予約を入れていて、私は熱を出して行けなくなったのだ。両親は私を置いていくのは、と心配し、キャンセルをしようとした。でも、行きたがっていた弟と、祖父母が私を見ているという言葉と、私が「行ってきて。大丈夫」と言ったから、参加することを決めた。2泊3日を楽しんで帰る途中に、バスは事故に巻き込まれてしまったそうだった。


それから私は祖父母に育てられた。祖母は私が大学に入った年に亡くなった。祖父は私が大学を卒業して就職をしたのを見届けたというように、5月の終わりに亡くなった。まるで亡くなるのがわかっていたかの様に、家の中は片付けられていた。祖父の遺言通りに家などを処分した。私は祖父の家から離れたところに暮らしていたので、この家をそのままにすることは重荷にしかならなかった。


祖父には子供が父しかいなかったので、遺産はすべて私のものとなった。けど、祖父が残してくれたものは微々たるものだった。両親が亡き後、私を大学まで出してくれたのだ。お金が残っている方が不思議だったかもしれない。


母方の祖父母は母が結婚してすぐくらいに、相次いで病気で亡くなったそうだ。母の方は妹(叔母)がいたけど、外国にお嫁にいったので、母が亡くなってからは一度も会っていなかった。たまに葉書きが届くことがあるくらいだ。私も祖父が亡くなったことを知らせて以来、手紙は出していない。たぶん元気に暮らしているのだろう。



昼休み、友人の宏美と社食で食べていたら、総務の同期の真紀に声をかけられた。今日の合コンに参加してくれないかというものだった。誘っていた友人が、一人は足を怪我をして参加できなくなり、もう一人は油断から風邪をひいたと連絡があったそうだ。私が断る前に宏美がOKをしてしまった。人数が確保できたと喜んで、真紀が離れてから私は小声で宏美に文句を言った。


「ちょっと、ひどくない? 私の意見を聞かないで参加を決めるなんて」

「あら。こうでもしないと桔梗は、参加しないじゃない。まだ23歳なのに、若さがないのよ。あんたみたいなのには、出会いはそうそう落ちていないんだからね」


宏美が言うことももっともではあると思う。私が今までに合コンに参加したのは一度だけ。大学の時もサークル活動なんかはしなかった。こんな私には出会い自体がないのかもしれない。


終業時間になると、私は引きずられるようにトイレへと拉致されて、一度私に化粧をしてみたいと言っていた友人たちに、遊ばれたのだった。


合コンの待ち合わせのお店。男の人たちが待っていたけど、ひとり人数が少なかった。何でも、少し遅くなるらしい。男達を見て、普通の人たちなことに安堵する。


先に飲み物を頼み、乾杯をした。少ししたら、それぞれ話が合う人を見つけたのか、特定の人と話すようになってきた。私はもっぱら相槌を打つだけだったのだけど、なぜか一人の男の人に気に入られてしまったようだ。その人は好みの男性がいなかったらしい宏美と私の相手をしていたけど、私により話を振ってくるのだ。


開始から1時間くらいたった時に、遅れていた男の人が姿を見せた。猫背なのか、背を丸めてみんなに挨拶をした。女性たちは男の姿を見て、すぐに興味を失くしたようだ。前髪を長く伸ばしていて、目がよく見えなかった。空いている席に座った男は、なぜか私の方を見てきた。


私もその男のことがなんとなく気になったのだが、先ほどの男につかまってしまい、彼と話すことは出来なかった。


一次会が終り、二次会に行こうということになった。勢いのままにカラオケ店に突入する様子に、私は宏美に断って先に帰ることにした。


駅に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。相手は私に興味を持った男だった。駅まで送ると言われたけど、なんか嫌で、私は一人で大丈夫と断った。そのまま、男から離れようと、歩く速度を速めた。


左腕を掴まれた、と思ったら、気がつくと意識が少し飛んでいたようだ。腕を掴まれて立っている場所は、駅に向かう通り沿いにはなかった、小さな公園だったから。


いつの間にと思いながら「手を離してください」と、男に言った。だけど、男は何も答えなかった。それどころか、左腕を痛いくらいに掴んでいた。それにどことなく様子がおかしい。


ハアハアと息が荒く、目も血走っていた。

これはまずいかもと、私は思ったのだった。


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