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白銀の左手  作者: 蘭千阿
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第一話

「さあ、決めてくれたまえ」


重厚感のあり歴史を感じさせる机に肘をつき、顔の前で手を組んだ男がそう言葉を発した。


「心躍る冒険の日々をあきらめて安穏とした生活を送るか」


髪はオールバック、年齢は中年に差し掛かるところ

顔には不敵な笑みを浮かべている。


「それとも私と共に明日が来るともしれぬ冒険の日々に戻るか」


対する少年は諮詢する表情を見せる。

顔には数滴の汗が流れる。

彼は今も包帯で巻かれた左腕を見た。

腕の先にある左手は失われている。

それに代わるものを、目の前にいる男が用意するという。

その代償は未知。無くなった左手以上のものを失う可能性もある。


「僕は・・・」


-----------------------------


レンガ造りの街並みの中、真っ直ぐな金髪を肩まで伸ばした少年が

人もまばらな大通りを歩く。

肩にはカバン、服装はブレザーの学生服。

周りの道行く人の中にも彼と同じ服装、カバンの生徒がちらほら。

オールドフィールド国立学園

そこが彼らの通う学校。

そしてそこには一つの特徴がある。


「よ、ティト」


「おはよう、レオン」


黒髪の少年、レオンが歩いていた金髪の少年、ティトに後ろから駆け寄る。

成長期を終えたばかりのレオンの身長はティトの頭二つは大きい。顔つきにも男らしさが見えている。

追いついてきたレオンの顔を見上げ、いまだに成長期の来ない自分の体と女性と見間違えられる自分の顔つきにに内心でため息をつく。

ティトの内心なんてつゆ知らず、レオンは彼に向かってにやりと笑いかける。


「今日はダンジョン探索の日だ。楽しみだな!」


期待しているぜ、と彼は自分の肩にも身長の届かない少年の頭をなでる。


「もう、頭なでるのはやめてって」


まるで年下扱いされていることにティトはつんとそっぽを向いた。


「はは、ちょうどいい位置に頭があったからさ」


「うう・・・結構気にしてるのに」


彼らの通うオールドフィールド国立学園は冒険者を要請する学園である。

学費は無料、ダンジョンを探索するときの装備は薬品は簡易なものが無償で用意される。

その代わりにダンジョンの探索で得た金品やそこに住むモンスターから剥ぎ取った素材の一部を学園に提供することを対価としている。

そこに通うのは様々な生徒だが、大抵は貴族や商人の家を継ぐことのできない末弟や親を失った孤児などである。

大体の生徒はそこを三年で卒業し、冒険者ギルド所属の冒険者となり世界中で活躍する。


ティトは三歳の時に事故で両親を失い、生まれたばかりの弟と共に親戚に引き取られた。

叔父叔母にまるで自分の子供のように育てられた彼がこの学校に進学することを決めたのは

弟の一言がきっかけであった。


「士官学校に行きたい」


普段は養父母だけでなく血のつながった兄にも決してわがままを言わなかった彼が初めて口にした望み。

その望みをかなえたいと家族は思いつつも、士官学校は入学費や授業料が高額であり、

いち中流家庭であった彼らには大きな負担となることが気がかりであった。

その中で彼はこの学園の存在を知り、冒険によって得られる素材や金品をお金に換えて弟の夢の手助けをすることに決めた。

冒険者が時には危険な場面に陥ること、それによって取り返しのつかない怪我や死に陥ることを知っていた叔父たちはティトのその意見に初めは反対したが、ティトの熱心な説得により彼はこの学校に入学することとなった。


レオンは地方領主の四男で、父や祖父の代から続く名家であった。

ただ父は領主となる前は冒険者としても活動をしており、時折父から聞かされる英雄譚に憧れ

自らも冒険者となるためこの学園への入学を決意した。


立場の異なる二人であるが入学時から不思議と意気投合し、

一緒にパーティを結成して互いに掛け替えのない親友、仲間となっていた。


更衣室でそれぞれの装備に着替えた彼らは集合場所である校庭に向かった。


「おいすー」


軽装を身に纏った赤髪ポニーテールの少女が重装備に身を包んだティトたちに手を振る。

背の大きさはティトよりも頭半分の大きさだけ高い。


「こんにちは、レオンさん、ティトさん」


ポニーテールの少女の隣にはローブを被った青髪のボブカットの少女がいる。

彼女はティトと同じくらいの背丈である。


「こんにちは、レイ、リアンナ」


ティトは二人に挨拶を返す。

赤髪の少女がレイ、青髪の少女がリアンナである。

レイはパーティ内で格闘家としてダメージソースとなる存在。

身のこなしは男子生徒にも引けを取らず成績優秀、持ち前の明るさもあって他の生徒からの信望も厚い。

リアンナは白魔導士であり、傷ついたパーティメンバーの回復や前線で戦うメンバーへの守護の補助を担う。

多少引っ込み思案であるが優しい少女である。


「ランは?」


「まだ来てないよ」


レオンの問いに対してレイが首を振る。

すでにほかのパーティはメンバーがそろって出発を始めている。

残りは彼らのパーティのみであった。


「・・・遅れた」


茶髪のくせっ毛の少年がティトたちのもとに駆け寄る。


「遅刻だよ、ラン」


レイがじとっとした目で茶髪の少年、ランを見る。

ランはばつが悪そうな表情で頭にかぶっていた三角帽子をいじった。


「・・・新薬の研究に夢中になってた」


ランは抑揚のない小声で呟いた。

彼は魔術や薬学などの分野に精通しており時間を見つけてはその研究に勤しむ。

パーティでの役割は黒魔導士、モンスターに対してダメージを与える魔法の使い手であった。

常に無表情で何を考えているかわからないというのが周りからの評判である。


「んじゃ、行くか」


レオンの役割は戦士、剣を振りモンスターを屠るパーティでも花形の職だ。

そしてこの5人のパーティのリーダーでもある。

ちなみに彼らは同級生でありパーティ結成から一緒にいるメンバーである。

ティトは体ほどの大きさの盾を左手にギュッと握りしめる。

彼の役割は重戦士。パーティの前線に立ち、仲間を守護する役割である。

レオンを先頭にして彼らは今日の探索先であるラフラル洞窟へと向かった。


ラフラル洞窟は学園のある街、メティアを出てから1時間ほど歩いた先にある。

大体は探索になれた中級者~上級者向けのダンジョンであり、入学して1年は街から出てすぐのメティア草原でスライムやワイルドキャットなどの弱小モンスターを狩って戦いに慣れる。

戦いの際にとった行動やモンスターを倒すことで冒険者のレベルが上がる。


風にそよぐ一面の草原、モンスターを相手に戦う他のパーティを横目に彼らは進んでいく。


「俺たちみんなレベル30に到達したから、そろそろ下層に行こうと思うんだ」


「賛成!」


レオンの意見に皆が肯定の意思を伝える。

レベルはステータスカードと呼ばれる魔法具―これも入学時に学園から支給される―で確認することができる。

レベルが上がると力や素早さ、魔力などの基礎能力のほかに各職種ごとの特有スキル―魔導士であれば魔法など―が使えるようになる。

学園からはレベルごとの推奨探索エリアが決められており、レベル15まではメティア草原、

レベル15~30まではラフラル洞窟上層、レベル30以上はラフラル洞窟下層となっている。

これは生息するモンスターの強さによって決まっている。

学年ごとのレベル平均は1年生で10、2年生で20、3年生で35であることから彼らのレベルは

普通よりも早いペースで成長している。


「ラフラル洞窟を攻略すれば俺たちも卒業確定だな」


「ちゃんと授業に出てればですけどね・・・」


ランの言葉の通り、学園の卒業要件のひとつは3年以内にラフラル洞窟の底にたどり着くことである。

ただ、リアンナの言った出席日数や3年の内に6回行われる中間考査、定期考査で合格することで卒業が可能となる。

これらを達成できず3年を経過した場合は中退扱いとなり放校される。

中退しても冒険者ギルドに登録し冒険者となることは可能であるが、周りの冒険者から一目置かれるのは

きちんと卒業できた生徒である。実際に冒険者ギルドの中でも上位ランカーとなるのはやはり学園の卒業生であった。


「見えてきたな」


ラフラル洞窟はメティア草原の端にあるボルク山の麓にぽつんと存在する。

山の岩肌にぽっかりとあいた空洞、補強のためか入り口の周りは太い木材で囲われている。

入り口の奥は暗がりになっており先が見通せない。


「行くぞ、ライト頼む」


「ああ」


ランが持っていたカバンから炎の入った瓶を取り出す。

瓶のふたを開けると炎が飛び出し、ふよふよと浮遊する。

精霊、ウィルオーウィスプと呼ばれるそれは魔導士と契約することで使役できる。

洞窟のような暗がりのダンジョンでは明かりとして役に立つ。

一行はティトを先頭にして洞窟に入った。


洞窟の上層はゴブリンや節足虫などの小型の魔物の住みかとなっている。

特に脅威となるレベルのモンスターではないが、ゴブリンは知能もそれなりにあり集団で連携して襲ってくることから洞窟に入り始めるレベルのパーティにとっては最初の鬼門となる。

しかしながらレオンたちのパーティはゴブリンの襲撃を難なくかわし、モンスターを屠る。


「ゴブリンって倒してもそんなに旨味ないよね」


「めぼしい素材無いしな」


「節足虫の甲殻もってく?」


「あんまり大きくないけど、ポーションくらいの金額にはなりそうだな」


モンスターから剥ぎ取った素材はリアンナの持っている素材袋に詰め込む。

見た目はポシェットほどのサイズであるがこれも魔法具であり、見た目以上の収納性を発揮する。

モンスターから素材を回収した彼らはさらに先へと進む。


ある程度奥の階層に進んだところで彼らは今までと周りの雰囲気が異なるのを感じた。

空気がさらに淀み、さらに闇が深くなる。

ここからは一行にとっても未知の領域、洞窟の下層であった。

自然とメンバーの緊張が高まる。


「ティト、何かあったらすぐに伝えてくれ」


「了解」


上層と同様にティトを先頭にして彼らは移動を始めた。

事前に伝え聞いた限りでは洞窟の下層はグールやワーウルフ、リザードなどより耐久、攻撃力の高い魔物が出現する。

視覚は頼りにならない、一歩一歩を慎重に、肌に触る空気の感覚、辺りに聞こえる物音に注意しながら進む。

いつ魔物に襲われるかわからない不安と緊張のせいか高めた聴覚のせいか心臓の鼓動まで余計に大きく聞こえる。


「来る」


ティトが盾を構えて小声でメンバーに伝える。

軽快に響く足音、その足音はだんだんと大きくなっている。

暗闇の中、豆粒ほどの小さな光が二つ。

そして荒い息遣い。

レオンが上段に剣を構える。


豆粒ほどに見えていた光は狼男の姿となってティトに飛び掛かる。

ワーウルフの爪がティトの盾に食い込み火花を散らす。

左手に全体重をかけてティトは襲ってきた怪物を押し出す。

苦手な相手だ、と彼は思う。重戦士はパーティの防御の要であるが装備が重いために素早い相手についていくことは困難であった。

ティトの真横からワーウルフが腕を振り上げてその爪を彼の体に突き立てようとする。


「任せろ!」


駆け出したレオンが飛び掛かる怪物に対して剣を振り下ろす。

危機を察知したワーウルフは体をのけぞらせる。剣閃が怪物の鼻先を掠める。


「あたしが!」


怪物の横からレイが殴り掛かる。

右の拳は怪物の左頬を確実にとらえ、鈍い音とともに吹き飛ばす。

岩肌にぶつかった狼男はよろめきながら立ち上がるも、接近していたレオンの横一線の剣閃により首を吹き飛ばされ絶命した。


この後も一行は探索とモンスターとの戦いを続ける。

数時間の時が過ぎ、下層のモンスターとの戦いに慣れてきたころだった。


「ここ、広間になってるね」


彼らがたどり着いた場所は広々とした空間。

ごつごつとした岩の中にクリスタルの結晶が所々生えており、それが光を放つ。

そのため、今までは辺りの様子を伺うことができなかったがこの場所では全体の空間の形状が把握できた。


「もしかして、ここが最深部?」


辺りにはこれ以上先に進めるような入り口は見当たらない。


「とりあえず手分けして探してみよう」


レオンの指示に従って各自が最深部と思しき空間を探ることにした。


「あれ?」


探索を始めてしばらくしてティトが壁の中に切れ目があるのを発見した。

切れ目はいびつな形をしつつも一周ぐるっと回っており、隠し扉にも見える。


「おーい!こっち来てくれ!」


レオンの呼ぶ声に従って一旦探索を中止して彼のもとに集まった。


「どうやらここが最深部みたいだ」


レオンの指さす先には石でできた祭壇があった。

祭壇に文字が彫られている。


「オールドフィールド国立学園生徒へ ラフラル洞窟最深部に到着した証明としてこの祭壇に手をかざすこと、か・・・」


ありがたみも達成感もない事務的な内容に苦笑しつつも彼らは祭壇に手を添えた。


『2年生 レオン・ノイマン、ティト・ペターソン、レイ・マナベ、リアンナ・カーライル、ラン・サヴィアンの認証を確認』


「よし、これでOKだな」


「そうだ。さっき見つけたんだけど、あそこに気になる切れ目があるんだ」


レオンが帰ろうとした矢先、ティトが先ほど見つけた切れ目を指さす。

一行は彼が見つけた切れ目の前に立った。

ランが壁の切れ目、その外側をまじまじと観察する。


「確かに何かありそうだな」


切れ目の境界での色味の違い、切れ目のすき間から微妙な空気の流れがあることから隠し通路の可能性が高いことをランが説明する。


「レイの打撃で何とかなるか?」


「いや、絶対手が痛いでしょ・・・」


「任せろ」


ランが右手に持っていた杖を壁に向ける。


「ロックバースト」


呪文により顔面ほどの大きさの岩を壁に向けて射出。

3発の岩により壁が破壊され、壁の向こうにある通路が露出された。


「行ってみようぜ」


今まで発見されなかった通路。その先にある未知にレオンは目を輝かせる。


「あの・・・大丈夫なんでしょうか。なんだか嫌な予感がします」


一方のリアンナはその未知に対して不安を覚えていた。


「隠し通路なんてめったに出会えないんだ。せっかくだから入ろうぜ。それに危なかったらすぐに引き返す」


レオンの意見に対して反論はなく。5人は現れた通路の中を探索する。

道は細く一本道。天井も低く、背の高いレオンは頭を少しかがめて通っている状況であった。

モンスターはいない。だが先頭を歩いていたティトは異様な雰囲気を感じていた。

そして歩き進めるごとにその異様さは強さを増していく。

狭い通路による圧迫感のせいだとティトは思うことにした。

しばらく歩いたところで細い通路の出口と思しき箇所が見える。

5人は慎重に通路から出る。

その目の前には赤い肌の大きな竜が体を丸めていた。


拙作を読んでいただきありがとうございます。

感想やご指摘いただければ幸いです。

今後も不定期ではございますが更新をいたしますのでよろしくお願いします。

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