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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第七話 ~偽りの道~

黒い光を放つ魔法陣の中心に光の柱が下りる。

術の成功を確信したその男は、喜びを隠しきれないのか笑みを浮かべた。

光が消えると、そこには二人の人間が立っていた。

「……二人か。他の邪王も動いていたのを思えば上々か……」

男の声に驚き、二人は思わず後退する。

「そう怯えずとも良い。ここは安全だ」

「あん……ぜん……?」

「お前たちは召喚の術で転移中に、()の妨害を受けた。

 他にも仲間がいたのだろう?その仲間は敵の手の中だ」

二人は男の説明に顔を見合わせた。

「じゃあ……ここは本来、みんなで来るはずだった……?」

「そういうことだ。二人だけでも無事で良かった」

「そん……な……。みんな、みんなは……」

「残念ながら、今はどうにもできない」

淡々と話す男に、泣き黒子のある人間─唯李は眉を潜める。

「だが、お前達次第では事態は好転する」

「私達……次第?」

もう一人の人間─実星が聞き返すと、男は頷いた。

「お前達は元々、素質がある。故に召喚に選ばれた」

「召喚……選ばれた?それに、素質?」

聞けば聞くほど解らないと、実星は混乱している様子だ。

「なるほど……。何となく理解した。

 それで、うちらは何をすればいいの?」

唯李は一旦、話を進めようと実星への説明や補足を後回しにした。

「話が早くて助かる。付いて来い」

唯李は背を向けた男を気付かれぬよう睨み付ける。

男の話を信じるのであれば、自分達は「召喚」の「成功者」で、他の仲間が妨害により敵の中ということになる。

果たしてそうだろうか。

この男が召喚を行ったにしては、妨害に関して淡白すぎる。

誰でもいいから成功すれば良かったのだとしたら、むしろ危険な人物の元に召喚されたことになる。

どちらにせよ、この男を信じる事が出来なかった。

それでも、今の状況を正確に把握するまでは迂闊に動けない。

「そういえば、挨拶がまだだったな。

 俺はデュラッツォだ」

一度足を止め、男─デュラッツォは振り向いて名乗った。

落ち着いて観察すると、男は黒髪で、前髪は左寄りで分けられており、右目が隠れるほど右側の前髪が長い。

よく見ると、瞳は紫色をしていた。

「あ、笠井 実星です」

「うちは金子 唯李」

ご丁寧に名乗ってもらった以上、こちらも失礼のないように返しておかねばと、二人は取り敢えず名乗る。

デュラッツォは一瞬、口許に笑みを浮かべ、頷いた。

「こちらの世界にいる間は別の名を使った方がいい。

 二人で呼び合っているのを聞かれ、異世界の人間だとすぐに露見してしまうのは避けたい」

確かにそれは一理あると、唯李はデュラッツォの言葉をようやく受け入れる。

「そうだなぁ……。みほ、どうする?」

「急に言われても……」

困った様子で実星は自分の呼び名を考えている。

「うちはカッシーって呼んで」

「早いよ⁉︎カッシー……って、名前?」

「あだ名。名前はね、グラディズ・ガジガ様だ」

「ちょっと待って。カッシーはどこから来たの?」

「カッシーっぽいじゃん」

「全部濁点付いてるのに!?」

実星は普段から内気で大人しいが、唯李と絡むときだけこのように突っ込みをしたりする。

大体は唯李が突っ込まざるを得ない言動をするせいだが。

「細かいことは気にしない!」

「細かいかなあ」

「考え付かないならうちが考えようか?」

「フリースラントでお願いします」

「おっけー。じゃあ、フリースね。布みたい」

あまり深くは考えず決まったが、この名がこの先も長い付き合いになるなど、今の二人には予想だに出来なかったのだろう。

「グラディズにフリースラントだな」

「それでお願いします」

「では、城主の元へ向かうぞ」

こうして、唯李はグラディズ、実星はフリースラントの名を使うこととなった。

さらにデュラッツォの後を付いていくと、登り階段に当たり、ようやく自分達が地下にいたことを理解する。

ここに来るまでに窓が1つもない理由も合点がいった。

階段を上ると、今度は窓のある廊下に出る。

窓の外は曇り空なのかあまり明るくない。

木々はなくゴツゴツとした岩肌のようなものが見えるだけである。周辺の情報も仕入れられず唯李──グラディズは肩をおとす。

そんな廊下をしばらく進むと、開けた場所に出た。

外に面した壁側には扉がなく、内側の壁に大きな2枚扉がある。

デュラッツォがその扉を開けて中に入ると、二人もそれに続く。

「シャイレンドラ様、ただいま戻りました」

「デュラッツォ、よく戻った。……その二人が異世界の?」

「はい。間違いございません」

「そうか!よし、これで……」

扉の中は大広間になつており、奥には玉座がひとつある。

そこに座っていたのは女性で、デュラッツォが「シャイレンドラ」と呼んでいた。

デュラッツォに付いてグラディズとフリースラントが近付くと、シャイレンドラは満足そうに頷く。

「ようこそ、異世界の人間よ。私はシャイレンドラ。

 ここ──ゼーランディアを治めるものだ」

「はじめまして。グラディズ、の方でいいのかな……」

「その名に早く慣れるには、その方がいいだろう」

跪いたりした方が良いだろうかと、グラディズはデュラッツォやシャイレンドラの顔色を窺う。

優しげな金の瞳が細められる。

「硬くならなくても良い」

「あ……ありがとうございます」

シャイレンドラは金髪ミディアムボブで、前下がりの髪型だった。

「それで……あの、うち……私達を召喚したのは……」

切り出すタイミングを見極めていたが、早い方がよさそうだったので、グラディズはシャイレンドラとデュラッツォに尋ねた。

シャイレンドラとデュラッツォは顔を見合わせる。

シャイレンドラが頷くと、デュラッツォが事情を話し始めた。

「この世界はディヴァースという。

 ディヴァースは人間界と邪界に分かれているのだが……。

 人間界の人間達が突如、邪界に対し攻撃を仕掛けてきたのだ。

 理由は不明、対話も断られ、邪界は人間達の攻撃を防ぐしかなかった」

いきなりの情報量の多さに、グラディズは頭を痛めた。

「えーっと……ってことは、ここは邪界ってことです?」

「そうだ」

「人間界にも国とかあるんですよね?

 仕掛けてきたのはそのうちのひとつ?それとも連合?」

邪界と人間界の2つのリージョンがあるとして、その衝突が国規模なのか、リージョン規模なのかで事の大きさも違う。

冒頭だけでその質問を先に投げ掛けられ、デュラッツォは驚いていた。

「国旗は掲げられていないが……攻めてきている軍の規模は国単位のようだ」

「国旗がない?じゃあ、人間側は故意に勢力を特定させないようにしてるのか」

どこまでを信じて良いのか解らないが、ひとまずは話を合わせていこうと、グラディズはデュラッツォの話を広げていく。

もし、嘘の情報があれば、どこかで矛盾や違和感が出てくるはずだと。

「邪界には四人の邪王がいる。

 シャイレンドラ様はそのお一人であられるのだ。

 他の邪王は人間との全面戦争を考えている。

 だが、シャイレンドラ様は人間とは戦いたくないと仰せなのだ」

どこにも好戦主義と平和主義がいるのだなと、グラディズは苦笑する。

「人間との交渉、そして、他の邪王への牽制……。

 それらを同時にこなすことができる存在。

 それを求めてシャイレンドラ様は召喚の術を指示なされた」

「他の世界から召喚しなきゃいけないほど、この世界は人材不足なんですか?」

少し棘のある切り返しにデュラッツォは面白いと笑みを浮かべた。

「新しい風が必要、ということだ」

「……で、うちらは具体的に何をすればいいんです?」

納得はできないが「デュラッツォの説明」は理解した。

その上で何をさせられるのかと、グラディズは怪訝そうに尋ねる。

「まずはこれを」

そう言うなり、兵に運ばせてきた腕輪を二人に渡す。

赤い石がはめ込まれた、女には少しごつい感じの、幅広な腕輪である。

「魔力を増幅させる魔具だ。

 加えて、この城への転移も可能にしてある」

さすがにその説明だけでは、これをどう扱って良いか解らない。

ひとまず受け取り、促されるまま腕にはめる。

はめた途端に、体が熱くなり、これまで感じた事のない、何かが体を駆け巡っている感覚に戸惑う。

「人間界との交渉も、邪王への牽制も、今のままでは無理だ。

 故に、お前達にはまず、その身に眠る力を理解してもらう」

グラディズは最後にひとつだけ、無意味だろうと解っていても、言っておくべき事があった。

「うちらに選択の余地はない、ということですか」

「召喚の術は文字通り、喚ぶ為の術だ。送還はできない。

 お前達の世界と繋げたものの、お前達がどこにいたのかも、こちらは把握していない。

 つまり、こちらで元の世界へ戻すことはできないのだ」

場所ではなく、人に焦点を当てた召喚ならば、確かに元の場所が不明だというのも理解はできる。

召喚時にしばらく滞在した真っ暗な空間に戻されるのも困る。

そうなると、前に進むしか道はない。

「だが、お前達が力に目覚めれば、その力で戻ることが可能になるかもしれない」

「つまり、やっぱり選択の余地はないと……」

「残念ながらな」

少しも残念そうには見えないが、説得力のある内容にこれ以上の反論は難しそうだった。

「解りました。従います」

溜め息混じりに、グラディズは承諾の言葉を返す。

フリースラントは事の成り行きを見守っていたが、恐らくすぐには帰れないということだけはっきり理解したのだろう。

落胆した様子で俯いている。

これが正しいかどうか、グラディズにはまだ判断できないが、情報の真偽を確かめるためにも、まずは動けるようになる必要があった。

自分達にどんな力があるかも解らないが、何かしらの力も手に入るのであれば、一旦従っておくのが良い。

散り散りになった他の仲間達がどうなったのかも考えなければならず、グラディズは頭痛と胃痛で倒れるのではないかと苦笑した。

唯「これからはグラディズ/カッシーかぁ」

実「やっぱり何か違和感……」

唯「もう受け入れるしかないんだよ」

実「他のみんなも名前変えたりするのかな」

唯「これでうちらだけだったら笑うわー」


大丈夫、ちゃんとみんな変わります(大丈夫ではない

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