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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第七十三話 〜最後の夜は〜

あれからさらに七日が過ぎていた。

邪王達は一度城に戻り、シャイレンドラとデュラッツォだけが復興の為にアイユーヴを頻繁に訪れてはいる状況である。

アルヴェラの暴走していた魔力はどうにか落ち着き、ようやく歩き回れるくらいまで回復した。

魔力量の調節だと勝手にカシュガルを殴りに行ったアモイへ攻撃するという事件はあったが、概ね問題なく元の状態へと戻っていた。

ロンシャン達が七日もの間、何をしていたかというと──。


「たっだいまー!アルさん、見ろよこれ!」


満面の笑みで部屋に入って来たグラディズは、その手に持った黄金のネックレスを見せびらかすように掲げている。

それを呆れた様子で迎え入れ、アルヴェラは筆記具を机の上に置いた。

「また遺跡発掘?」

「おう!今回はヤバかったぜ!

 これぞ罠!って感じの部屋ばかりでさー」

グラディズはアイユーヴ城周辺の森にある、神殿遺跡の調査隊に同行させてもらい、彼女曰く「冒険」の日々を満足そうに送っていた。

何よりも発掘される「お宝」が多く、それがグラディズを駆り立てる。

「ヴィルヘルムさんに迷惑掛けてない?」

「ヴィルは相棒だぜ? 平気平気」

調査隊を率いているのは、ヴィルヘルムという名の騎士だという。

アルヴェラは会ったことがないのだが、「長身に黒髪ポニーテールの超絶美形」だとグラディズは言っている。

「先輩、そろそろこの人止めて下さい……」

グラディズの後ろでグッタリしているセラヴィーンとマーシアに、アルヴェラは苦笑した。

この二人も遺跡調査に同行している。

魔術の師であるコウライに、暇なら実戦修行だと遺跡の邪鬼退治という名目で連れ出されたのが始まりだった。

「罠だと解って入ってって、その解除するの私なんですよ⁉︎」

「良い実践素材じゃない」

「わざわざ発動させる必要ない罠を発動させる人がいます⁉︎」

両手をワナワナと震えさせながら詰め寄るセラヴィーンに、アルヴェラは「そこに」と返すしかなかった。

「マーシアも邪鬼に慣れてめきめき強くなってるんでしょ?

 良いことしかないじゃない」

後輩の成長は嬉しいと素直に褒めるアルヴェラに、マーシアは満更でもなさそうだった。

「あと、残念ながら、それも今日までだよ。

 明日には帰ることになったから」


「えっ⁉︎」


驚きと喜びと落胆が入り混じった三人の声に、アルヴェラはニッコリと笑うのだった。


アルヴェラが言うには、自分の状態が落ち着いたので、アモイが魔術を使っても問題ないそうだ。

アルヴェラと契約状態にあるアモイは、術の使用時に使う魔力を主から受け取る必要があり、安定しないうちは大掛かりな術が使えないのだとも説明されていた。

仲間達はさぞかし気落ちすると思っていたが、グラディズ達を見て解るように、そうでもないのが現状である。

ロンシャンも師のもとで鍛錬を続けており、レオナに至ってはヴィアハスと毎日どこかへ出掛けていた。

邪王と二人で出掛けるなど、よく許可されたなと思ったが、アイユーヴ側には部屋に籠って魔術の基礎を学んでいると報告しているとのこと。

その肝の据わり具合は拍手ものだろう。

ヴィアハスが共に居るのであれば、レオナに危険は及ばないだろうと、アルヴェラは聞かなかったことにした。

フリースラントはコウセイと馬が合ったらしく、白魔術を習いながら仲良くやっている。

そして、ディリスティアはアルヴェラが目覚めて以降、側から離れない。

グラディズ達が訪ねてきた今現在は不在だが、それはある用事の為である。


「アル!上手く焼けたから食べて!」


グラディズが開け放ったままだった扉を疑問にも思わず、嬉々とした表情で部屋に飛び込んで来たのは件のディリスティアだった。

手には焼きたてのパウンドケーキを乗せたお盆を持っている。

この通り、ディリスティアはアルヴェラの側で、彼女の為にお菓子作りをするのが日課になっていた。


ディリスティアの作ったケーキで一息つくことにした一行は、中庭へと出向く。

そこには先客が居た。

「あ、リューさん」

「お前らか。どうした?」

休憩中だったのか、座って寛いでいるリューベックにグラディズは駆け寄る。

「またディリスがケーキ焼いたからみんなで食べに」

「またか。飽きもせずよくやるな」

「そう言いつつ、ここに居るってことはリューさんも狙ってたんでしょう?」

目を細めるグラディズに、リューベックは笑みを浮かべた。

「まあな」

それから彼はアルヴェラへと視線を移す。

「さすがにもう大丈夫そうだな」

「はい。ご迷惑お掛けしました」

「もう捜し回らずに済むのはありがたいな」

「あ、あはは……」

熱が下がり、魔力が不安定ながらも動けるようになったアルヴェラは、ここぞとばかりに城内を探検と称して見て回った。

その度にリューベックが捕まえに来るのが恒例になりつつあったのだ。

なお、毎回見る場所を変えて放浪するアルヴェラを、リューベックは予知でもしているかの如く的確に捜し当てた。

そんなリューベックを輪に加え、アルヴェラ達はピクニック気分でケーキと飲み物を広げ始める。

「……この騒がしい空気も明日までか」

「そう、なりますね」

「せいせいすると思っていたが、存外寂しいものだな」

「お互い、元の生活に戻るというだけです」

アルヴェラは淡々と答えた。

その横でグラディズやセラヴィーンが悲しげにしているものの、アルヴェラにはそれがない。

「お前は随分と冷めているな」

「解ってたことですし。

 完全に切り離されるというわけでもないですし」

全て終わったから、これでお終い、というわけではない。

特に、アルヴェラは。


この世界──ディヴァースを知った。

ここに大きく関わった。

何やら使命を押し付けられた。


これはさすがに「それではさようなら」で終わるようなものではない。

だからというわけではないが、アルヴェラは悲観していなかった。

「何より、これで終わりだと思いたくないですし」

グラディズが訝しげにアルヴェラへ視線を向ける。

「また機会があれば、いくらでも冒険しますよ。

 新しい世界を知るのは、とても興味深いですから」

願わくば、危険がないと尚良い。

天界からの贈り物とやらで多少の危険は自分で払えそうだが、遭遇しないに越したことはない。

「その冒険、俺も連れてってくれよ」

「私は遠慮しますぅ」

「えー?セラも行こうよ」

「何であんたはいつの間にかそっちなのよ⁉︎」

敵しかいないとセラヴィーンは頭を抱えた。

それを笑いながら、アルヴェラはケーキを口に放り込む。

焼き立てのそれは柔らかく、程良い甘さが好みだった。

本当にディリスティアは自分の好みをよく知っている。

無事に彼女を元の世界に返すことが出来ると思うと、本当に安心してしまう。

「アル、美味しい?」

「もちろん。ディリスが作ってくれるものに不味いものなんてないよ」

「材料も勝手も違うから、美味しく出来たか不安で……」

まるで恋する乙女とその相手のような二人にリューベックは額に手を当て項垂れた。

初めてこれを見た時は取り乱すほど驚いたが、いまだに慣れない。

「リューさん?どうしました?」

キョトンとした表情で首を傾げるアルヴェラを視界に捉え、リューベックは大きな溜息を吐いた。

「いや、相変わらず仲が良いなと思ってな……」

「仲が、良い?ですか?」

虚を突かれたような顔でアルヴェラは鸚鵡返しのように尋ねる。

「そう……見えますか。そうですか」

少し悲しげに微笑むと、アルヴェラは視線を落とした。

すると、ディリスティアも眉尻を下げて困った様子でアルヴェラを見詰める。

「……何か、悪いこと言ったか?」

微妙な空気になってしまったので、リューベックは申し訳なさそうに返した。

「いいえ。側からそう見えているなら良かった」

良くはないだろう。

思わず出掛けた言葉を慌てて呑み込む。

そう見えないと思っていたか、そう見せかけているかのどちらかではないのかと。

複雑な事情がありそうだが、そこまで踏み込んでいる時間はもうない。

「リューさんが地雷踏んだー。俺らでも避けるくらいのデカイやつ」

ニヤニヤとからかうようにグラディズが言うと、リューベックは焦る。

「ジライ?というか、何か問題あったような言い方だな」

「ああ、そっか。この世界には地雷ないのか。

 踏むと発動する罠、くらいに考えてくれたら良いよ」

「……ただの問題ではなく、かなりの問題に足を突っ込んだんだな」

「ま、そういうこと」

「くそ……」

何の気なく口にした言葉が問題になるとは思わず、彼は動揺していた。

アルヴェラはそれを見て思わず笑ってしまう。

カシュガルといい、不器用な男の人を最近よく見掛けるなと。

さらに連鎖は続き、ディリスティアがそのアルヴェラの笑顔を見て嬉しそうに頬を染める。

取り繕った笑顔ではない、アルヴェラの本来の笑顔だとすぐに解ったからだ。

元の世界ではあの事件以来、感情を抑えていると感じていたが、この世界では素のアルヴェラを見ることが出来る。

それを引き出しているのが自分ではないながらも、昔のアルヴェラがそこに居るように思えて、やはり嬉しかった。

「あーあ、アルさん、もっとそうやって笑ってればいいのに」

「な、何?カッシー、急に」

「学校戻ったら、どうせまた仏頂面で過ごすんだろ?」

そこまで酷いのかとアルヴェラは肩を落とす。

「何がそうさせてるか知らないけどさ。

 周りも、引きずられたり遠慮したりするんだぜ?」

過去に何かがあった、程度にしか知らないグラディズにはそれしか言えなかった。

マーシアとセラヴィーンも同様である。

「……じゃあ、もっと強くならないとダメだね」

「これ以上⁉︎」

「魔力が増えただけで、私はまだまだ弱いよ。

 そうだな、私も剣か……いや、槍がいいかな」

魔術は万能ではなく、また場所も選ぶ。

戦術の幅を広げる意味でも何か直接攻撃の手段が欲しかった。

剣ではなく槍を選んだのは、完全にアルヴェラの趣味だったが。

「俺も剣持とうかなぁ。リューさん教えてくれるし」

「おい、ちょっと待て。誰がいつそんなことを言った」

「え?教えてくれるだろ?アルさんと一緒に」

「だから待て!なんでこいつも入ってる⁉︎

 そもそも槍がいいと言ってただろう⁉︎」

専門ではないと抗議するリューベックに、アルヴェラはシュンと気落ちする。

「あーあ、せっかくアルさんが頼ってるのに、酷いんだ、リューさん」

「俺が悪いのか⁉︎」

「アルさんが頼るなんて、よっぽど信頼してるってことなのに」

「う……」

チラリとアルヴェラを一瞥すれば、悲しげに眉尻を下げて項垂れていた。

「解った!お前らの面倒を見るのが仕事だ。やってやるよ」

「やっりい!さすがリューさんだぜ!」

「ただし、槍は専門外だ。我流になるぞ」

「剣だって我流じゃないですか」

マーシアが余計な一言を発すると、リューベックは言うなと睨み付ける。

何度も辛い鍛錬を課せられ、マーシアはすっかり麻痺したのか、怖がる素振りもない。

「大体、お前ら明日には帰るっていうのに、今から鍛錬だと?

 馬鹿じゃないのか?いや、馬鹿だよな?」

グラディズに至っては午前中に遺跡探索に出掛けていたはずである。

夜までと考えても、大したことは出来そうにないが、わざわざ帰る前日に自分を追い込む理由などない。

「最後まで異世界を満喫するんだって!な?」

「ふふ、そうだね」

共感できない、とリューベックは溜息を漏らす。

そして、ケーキを食べ終わった一行は、そのままグラディズとアルヴェラの鍛錬を見学することになった。

二人はリューベックの手ほどきで夜まで武器を振り回し、最後の夜を満足そうに過ごしたのだった。

ロン「二人とも馬鹿なの?」

リュ「ほら!これが正しい反応だ!」

ロン「いや、押し切られるリューさんも馬鹿です」

フリ「まあまあ、危険はないみたいだし──」

アル「さっきのは危なかったよねー」

カッ「真剣はさすがにヤバかったなー」

フリ「二人とも?それに、リューさん?」


その後、寝るまでフリースラントの説教が続いたそうな。

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