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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第七十二話 〜知恵熱?〜

その後、アルヴェラは絶対に何かあっただろうと仲間達から問い詰められたのも相まって寝不足になり、翌日の朝食前に倒れた。

疲労からか知恵熱なのか、アルヴェラの体調不良は長引いていた。

さすがにディリスティアも不安になる。

ここは異世界なのだから、もしかしたら何かの呪いを掛けられたのではないかと。

あり得ない話ではないので、ロンシャン達も真剣にその説を検討する。

「アルさんが起きられないくらいやられるなんて……」

「だよね。多少の熱じゃ学校だって休まないのに」

グラディズとフリースラントが神妙な面持ちで切り出すと、ロンシャンも頷いた。

「アルは大丈夫って言ってたけど、やっぱり診てもらおう」

「確か、神官さんが医者の代わりもするって聞きました」

セラヴィーンも真剣に提案する。

そう、皆は誰も笑い事ではないと必死に知恵を絞っていた。


「薬湯はもらってるし、呪いとかじゃないから……」


弱々しく響く声に、皆は顔を上げる。

「またそんなこと言って。

 何でもないと思ってもヤバイ状況かもしれないじゃん」

ロンシャンがアルヴェラに詰め寄ると、アルヴェラは苦しそうに呼吸しながら眉尻を下げた。

「いや、理由、教えてもらった」

「は?」

「アモイ、あとお願い……」

『解った。マスターは寝てろ』

その声と入れ替わりにアルヴェラは目を閉じる。

アモイは姿を現わすと、アルヴェラの額に手を当てた。

すると、アルヴェラの呼吸が落ち着き、静かな寝息に変わる。

「どういうこと?」

「ちょっとした不運が重なった、ってのが真実さ」

「不運?」

話し辛そうにアモイは頭を掻いた。

「ガァラを退けた功績ってことで天界から贈り物があってな」

「贈り物って……」

「天界の祝福。効果は魔力の底上げなんだが……」

溜息混じりにアモイはアルヴェラを見やる。

「上昇した魔力を制御出来る精神状態じゃなくてな。

 溢れた魔力が肉体に定着せずこの有様だ。

 受け皿は問題ないはずだったんだけどなぁ」

「いや、何簡単に言ってんの?」

魔術を習った者だから解るその矛盾に、グラディズとセラヴィーンは目を細めた。

「いくらアルさんだからって、そんなほいほい魔力上げていいわけないでしょ」

「そうですよ。いくら先輩でも出来ない事もあるんです」

「やっぱそう思うか? いくらアルでも無理あったかぁ」

魔術を使えない他の仲間は顔を見合わせる。

「要は暴走状態にあるってことであってる?」

「まあ、間違っちゃいないな」

「大丈夫なの? それ」

「三日三晩、制御しようと頑張ってるんだけどなぁ」

「アモイ?何で止めなかったのかな?」

笑顔のままアモイに詰め寄るディリスティアは仁王の気迫を纏っていた。

思わず後退りするアモイに、逃がさないと距離を詰める。

「だから、まさか受け止めきれないとは思ってなくてだな。

 むしろ、何でアルはこんな不安定な状態なんだよ。

 俺が天界に呼ばれてる間に何かあったのか?」

「居なかったのかい!」

むしろ何があったのかを教えてもらおうかとすら考えていたロンシャンは、思惑が外れ思わず声を上げる。

「デュラッツォの処遇について話した後に呼ばれたからな」

「でも、アルさんがそこまで取り乱すようなことって……」

グラディズがロンシャンに視線を送る。

ロンシャンも大きく頷く。


「絶対、(カシュガル)関連だ!」


嬉々としてそう言い放つ二人に、アモイは嫌悪の表情を浮かべた。

「ああ?何であいつが出て来んだよ」

「宴で中座したあとからずっと変だったもの」

「邪王達は何があったか知ってそうだし、それしかないよ」

「話をさせてくれって来たけど、アルが駄目だって追い払うし」

明らかに二人の間に何かあったのは間違いない。

アモイは面白くないと、不在時のアルヴェラの記憶を覗いた。

普段は必要ない限りはしないのだが、今回は事情が事情なので許してもらおうと。

が、()()を見た途端に、アモイは激昂することとなる。


「あんの野郎!絶対許さねぇ‼︎」


そう叫ぶと、アモイは姿を消した。

ロンシャン達は顔を見合わせる。

向かった先は恐らくカシュガルのところだろう。

主人であるアルヴェラが眠る今、問題を起こされては困る。

あの精霊がアルヴェラ贔屓なのは少しの付き合いでも解るほどだ。

そして、そのアモイをして許さないと言わしめることを、カシュガルはしでかしたことになる。

「とりあえず、追っとく?」

「その方が良いね」

「あたしとカッシーで行ってくるから、こっちはお願いね」

一応、急いだ方が良さそうなので、ロンシャンとグラディズは部屋を出てカシュガルのいそうな場所へと向かった。


アイユーヴ城の中庭は日が差し込み、晴れた日中であればとても明るく気持ちの良い場所だった。

その場所を空気ごと重くしているのは邪王の一人、カシュガルである。

あの宴の夜以降、アルヴェラの顔を見ることも出来ずに過ごしていた。

翌日に元の世界へと帰るだろうと思っていたアルヴェラは、体調を崩した為にまだこの城に滞在している。

それを良いことにカシュガル達も滞在を伸ばしているのだが、三日過ぎてもアルヴェラは部屋から出て来ない。

あの夜、アルヴェラに触れた事で何か気を悪くしたのだろうかと思い、見舞いがてら部屋を訪ねたが追い返されてしまった。

容体もそうだが、避けられていることが不安で堪らない。

「カシュガル様」

「……ラディスか」

「一度リヴォニアに戻った方が良いかと」

ここに居ても出来ることはない。

ラグーザへは状況を伝えているものの、王の不在が長く続くのは確かに避けた方が良い。

「ああ、そうだな」

カシュガルが重い腰を上げたその時、彼の目の前の空間が歪み、何もなかった中空に拳が突き出される。

突然のことに慌てて左腕を立て防御したが、その拳は確実にカシュガルの顔を狙っていた。

「カシュガル様!」

飛び退いたカシュガルの前にラディスが出る。

拳を放った主は遅れてその場に姿を見せた。

「お前は、時の……」

ラディスが怪訝そうに呟くと、怒りに顔を歪ませたアモイがカシュガルを睨み付ける。

「てめえ、よくもアルにあんな……」

「アルヴェラ?何の話だ」

「ふざけんな!俺が居ない間にアルを襲っただろ!」

カシュガルがアルヴェラに危害を加えることなどあり得ない。

それが解っていたからこそ、ラディスは驚きカシュガルの方へと振り向いた。

傷付ける意味でないのであれば、その言葉が使われる用途は一つしかない。

「……カシュガル様?」

「待て、だから何の話だ」

「時の精霊は言い掛かりを付けている、ということですか?」

ラディスの瞳がいつになく冷たい。

だが、身に覚えのないことなのだからカシュガルも堂々と頷く。

「少し、腕の中に留めた程度で襲ったなどと言われる筋合いは──」

「してんじゃねぇか!」

カシュガルの告白にラディスは溜息を漏らした。

腕の中に留めた、つまりは抱き締めたということになるだろう。

それだけであれば確かに大したことはない。

だが、今回は相手が悪かった。

「カシュガル様、アルヴェラには先に了承を得ましたか?」

「何故だ?」

承諾は得ていないと捉えて良さそうだ。

側に居たのは僅かだが、アルヴェラはラディスを含め、リヴォニアで出会った男を、男として見ていないと思った。

普段からそうなのかは解らないが、好意の目も受け流していたところを見ると、かなり鈍いと思われる。

だとすると、男から触れることに対して免疫はないと考えた方が良い。

カシュガルは大人しかったアルヴェラを「抵抗しないから受け入れた」と考えたのだろう。

アルヴェラ側は何が起きたのか解らず固まっていた、ということで間違いはなさそうだった。

「今回はカシュガル様にも非があるかと存じます」

「なっ⁉︎」

「何も言わない、動かない、は了承にはなりません」

馬鹿なとカシュガルは本当に解らないという表情でラディスを見ている。

「アルヴェラは本来、内向的な性格だと仲間が申しております。

 自ら発言することも少なく、大人しいのだと。

 こちらへ来て必要に迫られ無理をしているようなのです。

 であれば、突然のことに対処できず口を閉ざしたと考えるべきかと」

当たり前のように解説するラディスに、カシュガルは眉を顰めた。

「何故お前がそのようなことを知っている」

「アルヴェラの仲間達とは話す機会も多かったので」

「話は終わったか?なら、大人しく殴られろ!」

収まりきらない怒りを拳に込め、胸の前で左手に打ちつけながら、アモイはカシュガルに鋭い視線を向ける。

「いたいた!何とか間に合った?」

「さあて、これはどういう状況なのか」

アモイを追い駆けて来たロンシャンとグラディズが中庭へと辿り着いた。

「カシュガル様、あの二人の意見が鍵のようです。

 最悪の場合は……精霊に殴られて下さい」

主君を守る立場上、殴られるなどあってはならないが、今回は分が悪い。

カシュガルは納得しきれないと眉間の皺を深くした。

「すまないが、二人に尋ねたい」

「へ?」

ラディスから声を掛けられ、ロンシャンとグラディズは目を丸くする。

「そちらの世界では相手の了承なく触れる行為は許容されるか?」

唐突な質問だが、この状況でそれが出て来るということは、アルヴェラとカシュガルの件に関係しているのだろう。

二人は顔を見合わせると肩を竦めた。

「程度によるかな。触れること自体ダメな人も居るには居るし」

「ならば、今回はアルヴェラに限定する」

「うーん。アルだと特殊だなあ」

「あの人、極端に人との接触嫌うしねぇ」

触れられるのを嫌う。

それを聞いてカシュガルは胸を射抜かれたような衝撃を受けた。

自分が犯した罪を突きつけられたようにも思える。

「では、男の腕の中に了承なく捕らわれた場合は……」

「男の人に突然抱き締められるってこと?

 あー、無理無理。あの子、男の人に免疫ないから。

 動けなくなるか、全力で逃げるかのどっちかだね」

ロンシャンが笑いながら答えるも、それを聞かされたカシュガルはより深く胸を抉られることとなった。

「女同士だと嫌がりながらも受けてくれるんだけどねぇ」

「あ、でも、男でも信頼してるならちょっとは反応違うんじゃない?」

「いや、あの子はどうせ頭真っ白になって大混乱するだけだね。

 自分がそういう対象になるって考えないから」

何とも(むご)い話である。

どれだけ好意を向けようが、互いに信頼してようが、異性として受け入れてもらえない可能性があるという。

「最後にひとつ、聞いておきたいのだが……。

 そうなった相手をどう思うようになる?」

「会いたくないだろうね。思い出すと恥ずかしいから」

脳内補正で「二度と」を勝手に付けた挙句にドン底へと叩き落とされ、カシュガルはすぐには立ち直れない程の傷を負った。

「ってわけだから、アモイも目くじら立てないでさ。

 殴られる以上のダメージ受けて立ち直れなさそうだし」

「ッチ……仕方ねぇな。今回は大目に見てやるよ」

次はないと言い、アモイはその場から消える。

下手な騒動に発展しなくて良かったと、ロンシャンは胸を撫で下ろした。

「殴られた方が良かったんじゃないか説ない?」

グラディズが俯いたままのカシュガルを指して尋ねる。

「もっとやり方はあっただろうし。

 何より、あたしらのアルに手を出した報いだよ」

最終的に何をしようとしていたのかを考えると、ロンシャンは怒りを抱かずにはいられない。

物理的な痛みよりも頭で解らせて後悔させる方が、苦しみとしては大きいはずである。

「何だかんだで、ロンシャンもアルには甘いねぇ」

「それはそうと、アルヴェラはどういう状態なんだ?」

「なんか、アモイが言うには魔力を制御できず暴走させてるみたい」

予想の斜め上を行く回答に、ラディスは片眉を上げた。

「天界が功績だって魔力の底上げしたらしいよ」

「……天界とやらは余計なことしかしないのか」

「本当にね……」

「では、落ち着けば問題はないな」

治療の難しい病などではなかったので、そういう意味ではラディスも安堵していた。

「じゃあ、ここはラディスに任せて戻ろっか、カッシー」

「了解」

サラッとカシュガルを押し付けられたラディスは仕方がないかと溜息を漏らす。

中庭を去るロンシャンとグラディズを見送り、打ち(ひし)がれている主君へと目を向け、その有様に苦笑した。

他者へ弱っているところを見せない主君の、珍しい一面とも言える。

当然、そのような状態での応対などしたこともなく、ラディスはいつも通りの言葉を向けるしかなかった。


「カシュガル様、アルヴェラのことは忘れ、職務に注力して下さい」

カシ「リヴォニアに戻るぞ」

ラデ「畏まりました」

カシ「ラグーザへの報告も頼む」

ラデ「はっ。……どこまででしょうか?」

カシ「……好きに報告しろ」

ラデ(自棄になられているな……)


この後、カシュガルは(色々積み重なったものがあったので)ラグーザに殴られました。

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