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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第五話 ~護るべきもの~


「どういうことだ」


その声で、我に返る。

真っ暗な空間から明るい場所に変化したことに、ようやく気付いた。

続けて、自分の腕の中の温もりに、少しだけ安堵する。

「さみぃ……?」

「涼ちゃん、離れないでね」

未由斗は涼子を庇うように立ち、声の方へと体を向けた。

男が一人、立っている。

先程の声は彼のもので間違いはなさそうだ。

詰め襟の上着は、ボタンのない学ランをベルトで留めたような印象で、右肩には肩当てを着けていた。

肩当てからは黒いマントが膝の辺りまで垂れている。

腰のベルトとは別に斜めに下げられていたのは剣帯で、ひと振りの剣が鞘に納められていた。

その姿形から、ここが地球ではないことが推測される。

「厄介だな……」

溜め息混じりに男が再度口を開く。

この男が涼子を連れていこうとしていて、自分がそれを妨害したことで良く思われていないのかと、未由斗は考えた。

だとすれば、目の前の男は未由斗の敵である。

男は少し考えてから、一歩、未由斗へと近付いた。

先程、部屋の中を一通り確認したが、逃げ道は男の後ろにしかない。

後ろは壁しかないので、ここで後退しても意味はなかった。

未由斗はその場から動かず、男を睨み付ける。

「動じない、か」

煩わしそうに眉を潜め、男はさらに未由斗へと近付いてきた。

目の前まで迫った男は、未由斗へと腕を伸ばす。

涼子と引き離されるわけにはいかないので、未由斗は伸ばされた腕を思い切り弾いた。

「触らないで……!」

物怖じせず真っ直ぐに男を睨み付け、未由斗はそう言い放った。

「……召喚の対象となるだけある、ということか」

召喚の対象──その単語に未由斗は眉を潜める。

「面倒なことになる前に、片付けるぞ」

誰に話しているのかと思った矢先、未由斗は慌てて振り返った。

後ろには壁しかない。

だから、背後を気にする必要はないと決め付けていた。

非常識な出来事を、身をもって体験している最中であるというのに。

壁しかなかった二人の背後に、いつの間にか男がもう一人立っていた。

未由斗が振り向いたことに驚いた涼子は、その刹那、いつの間にかそこにいた男に捕らわれる。

「きゃあ⁉︎」

「涼ちゃん!」

「さみぃ!」

大人の男が二人──。

未由斗に勝ち目はなかった。

それでも、諦めるわけにはいかない。

「その子に触るな!」

未由斗の瞳が、妖しく赤い光を帯びる。

涼子が未由斗のこの変化を見るのは二度目である。

あの混乱の中で見間違ったのだと思っていたが、今度ははっきりと見間違いではないと言えた。

そして、涼子を掴んでいた男の手が何かに弾かれるように離れる。

「何っ⁉︎」

男の手から逃れた涼子を抱き締め、なおも挟み撃ちにされている状況下で、未由斗は負けじと頭をフル回転させた。

「……これはどういうことだ、カシュガル」

「見たまま、としか言いようがない」

黒髪の男がもう一人の男をカシュガルと呼んだ。

関係性までは解らないが、協力する間柄ではあるらしい。

恐らくは瞬間移動の類いが使えるのだろう、黒髪の男から逃げ切るのは難しかった。

未由斗は逃げの手を早々に捨て、別の道を模索する。

「あなた方は何者ですか?

 どうして私達を引き離そうとするんです?」

対話が通用するかは賭けだったが、他にこれ以上の策はない。

「お前が知る必要はない」

「カシュガル!」

「知れば、待っているのは死だ」

カシュガルという男とは話しても無駄なようだ。

ならば、と未由斗は黒髪の男を見る。

「……あなたも、同じですか?」

「グラーツ、何も言うな」

黒髪の男はグラーツという名であることは解った。

「そこまで頑なになることもないだろう」

「黙れ。下手に情報を与えればどうなるか──」

「私はお前の指図は受けない」

この二人が仲間なのかがいまいち理解できないが、あまり良い雰囲気ではない。

「私はグラーツ、あれはカシュガルだ。

 すまないが、しばらくの間、君達には離れ離れになってもらう」

「何故ですか?」

あくまで引き離すつもりのグラーツに、未由斗はきつく睨み返す。

先程のような赤い光はまだ帯びていないが、彼女を刺激しないよう、グラーツも慎重に言葉を選んでいく。

「その理由も、今はまだ教えられない。

 だが、危害を加えるつもりはないのだ」

目的を果たすまで、大人しくしていろと言っているように、未由斗には聞こえた。

危害を加えないという言葉を信じて良いのか、現段階では判断材料が少な過ぎる。

「二人でも、駄目ということですか」

一人も二人も大差はない。

こちらは全員揃えば八人なのだから、二人くらいであれば許容されてもいいだろうと未由斗は思っていた。

「確かに、八人で群れるよりは脅威ではない。

 だが、こちらとしても、万全の策を取りたいのだ」

違和感を覚え、未由斗は眉を潜める。

「あなた方は……何を恐れているんです?」

自分達はただの女子高生で、八人で群れたところで常識外れな力を持つ存在に太刀打ちできるわけがない。

「私達は何もできない……。一人も二人も変わらない。

 あなた方が、何を危惧しているのか、理解できません」

自覚がないというのが一番恐ろしいと、グラーツは未由斗に言ってやりたかった。

赤い光を帯びたあの目も、睨むだけで何らかの力を発動させたことも、普通ではない。

だが、それをむざむざ伝えて自覚させるわけにもいかない。

「教えられない、と言ったはずだ」

「……そう、ですか」

状況の説明も含め、少しの情報を与えることすら避けるのは何故か。

状況を把握することで何が変わるというのか。

こうして、答に辿り着かせないようにしている、それだけしか解らない。

「……時間の無駄だ」

それまで静観していたカシュガルが、一歩、未由斗へと近付く。

「待て!カシュガル!」

()()()()()()()()()()、だろう?」

カシュガルが動くことは、未由斗にも良い状況ではなかった。

対話が可能なグラーツと違い、カシュガルは有無を言わさず行動で示す。

彼が動いてしまうと、もはや涼子を護れるか自信がなくなってしまう。

「どうしても、引き離す……と」

「残念ながら、それについては揺るがない」

先程から、涼子は声を出すこともままならず、小刻みに震えていた。

どう見ても手詰まりではあるが、腕の中で震える涼子を決して離さない。

だが、それに足る力を持ち合わせていない現実が未由斗を襲う。

彼女は武術の類いを身に付けたわけでもない、どこにでもいるような、普通の女子高生なのだ。

そんな彼女がここまでするのには、理由があった。

その「理由」を思い起こしながら、涼子は未由斗の思いとは反する決断を胸に描いていた。

カ「計画通りにはいかないものだな」

グ「予想外のことが起きたのは確かだが」

カ「何か言いたげだな」

グ「説明が面倒だからと私にばかり喋らせていた気がするぞ」

カ「お前が面倒だ……」


何だかんだで仲は良い二人です。

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