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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第六十一話 〜降りてくるもの〜


「デュラッツォ……?先程から……何を、言っている?」


状況に付いていけていないシャイレンドラが怪訝な表情で呟いた。


「ティフリスを裏切った人間どもを根絶やしにしろ!

 その為に来たのだろう⁉︎」


これまで溜めた怒りをぶつけるようにシャイレンドラは叫んだ。

それを聞き、アルヴェラは視線を落とす。

ティフリスと話すシャイレンドラはとても優しく、また、城の皆に掛ける言葉も慈愛が込められており、普段の彼女はそれが真実の姿なのだろう。

「デュラッツォ、シャーイはもう解放してあげてよ」

「残念ながら、俺では無理だな」

「シャーイも『上』がやったってこと?」

ヴィアハスの問い掛けに一度だけ答えたデュラッツォは、再び剣を構える。

一瞬、姿を消したデュラッツォはアルヴェラの左側に現れるも、回り込んでいたラディスの剣に邪魔された。

「……それを守って何になる?

 主上とやらの駒にさせたいのか?」

「本人に自覚もなければ、やる気もない。

 そもそも、こいつを御せる奴がいるとも思えんがな」

「そこに、無理強いされたいい例が居るだろう」

どうやらシャイレンドラのことを指しているらしい。

「それすら手の内とするような奴だぞ、こいつは」

「馬鹿な。ありえん」

何度もラディスと斬り結びながら、デュラッツォは怪訝な表情でアルヴェラを見やる。

「その、ありえない、馬鹿な存在がこいつという人間だ。

 死を偽装して肉体を奪われてなお、それを利用してここにいる」

先程から褒められているのか貶されているのか解らない会話を聞かされ、アルヴェラは溜息を漏らした。

仮に自分が何かの駒として利用されるのだとしたら、確かにそれを逆手に取ることを考えるが、それをありえないや馬鹿などと言われると複雑である。

「貴様の剣は大した事がない。

 昔のデュラッツォならば、俺など三撃もあれば斬り伏せたぞ」

「くっ……」

会話の合間に打ち込み続けていたラディスは、蔑むような視線と言葉をデュラッツォへと投げ掛ける。

「中身が違うからではないな。

 貴様の成そうとしている信念がその程度ということだ」

それを否定せず、デュラッツォは打ち込まれる剣をただ捌いていた。

「貴様自身、一矢報いることに執着はしていない。

 その先に何があるのかも考えない。

 ただ、気に食わないから流れに逆らう。

 そこに明確な信念など宿るはずもない」

デュラッツォにはなれない、アスターとしても生きられない。

その状態で、彼が新たな信念を抱くことは難しかった。

ただ、過去の僅かな思いを頼りに復讐と託けて自分の意思があるように振舞っているが、信念とは程遠いものである。

「それでもなお、生にしがみつくとは、滑稽だな」

「貴様に何が解る……!」

彼の言動には不可解な点が多い。

ティフリスを守る立場のはずが、精神体を捕らえて瓶詰めにしたり、アルヴェラの肉体に移したりと、理解に苦しむ行動をしている。

デュラッツォとしても、アスターとしても中途半端で、説明のつかない事ばかりだった。

「キミは……キミの望みは、何?」

「貴様を殺すことだ」

「違う。それを本気で望むなら、ラディスとも本気で戦うはず」

アルヴェラにも否定され、デュラッツォは眉をひそめる。

「キミは……終わりたいの?それとも生きたいの?」


『終わらせるべきなのです』


内側からの声に、アルヴェラは開けた口から声を出す事が出来なかった。

随分と熟考していたようだが、それから得られた答がそれではアルヴェラも納得がいかない。

『私達は過去の存在。今の時代の皆には不要なものです』

『何度でも否定してあげる。違うよ。

 不要なのは存在じゃない。過去に囚われる思いだ』

自分も過去に囚われている思いがあるので、それを他人に説くのは馬鹿げているが、アルヴェラはそれでも伝えたかった。

『本来なら死して存在しない私達がいるのがいけないのです』

『ここにいる以上、いちゃいけない理由はないよ。

 理として正しい状態にはいつか戻る。

 でも、それまでは存在を否定される謂れは無いと思う』

ここに「居る」のだから、その存在は認めて受け入れられるべきである。

アルヴェラの考えはティフリスにも伝わっているようだが、これまでの話を総合すると、自分もアルヴェラさえも事の発端であると言えた。

その状態では自分達の存在を認めることは難しいのかもしれない。


「誰が何を考えようと、自分の存在や行動を制限する理由にはならないよ」


そんなものは後付けでしかないのだと、アルヴェラは怒りを孕んだ声色で言い放つ。

「私達はここに居る。確かに存在してる。

 望まない形かもしれない。

 理に背いているかもしれない。

 それでも、ここに在る以上は『生きてる』んだ」

自分の中に感じる、自分ではない存在を確かめるように、アルヴェラは胸に手を当てた。

「生きているなら、信念をもって足掻けばいい。

 誰かに邪魔されても、そこに信念があるなら、突き進めばいい。

 その邪魔をする存在が私なら、全力で相手をするよ」

敵すら応援しかねない言葉に、グラディズは呆れる。

だが、同時にアルヴェラらしいとも思った。

「存在」に関する話をする場合、アルヴェラはしばしば善悪を横に置いてしまうのだ。

しっかりと考えて行動した結果が悪ならば、対峙した際も気持ち良く向き合えるからだと彼女は言った。

逆に明確な目的もなく、成り行きで悪事を働くような存在は嫌悪していた。

「……なるほどな。駒に選ばれるわけだ」

デュラッツォが皮肉めいた笑みを浮かべ、そう呟く。

「俺のような、生きる事に疲れた者には、その考えは出来ない。

 生きる意味を見出せずただ百年を過ごす。

 元が人間ならば、それは地獄だ」

長い年月を生きる邪族と、百年も満たない寿命の人間では、同じ百年を過ごしても感じ方は違うだろう。

それについてはアルヴェラには解らない感覚である。

「不毛だよ、こんな戦い……」


『まったく……何をしているのか』


アルヴェラの悲壮な呟きを掻き消すように、冷たい声が中庭に響いた。

刹那、眩い光が辺りを照らし、それが消えると、上空に人影が現れる。

見れば、それは人の形を成してはいるが、背からは翼が二対生えており、癖のない長い髪は真っ白だった。

その双眸は血のように赤く、冷たい光を宿している。


誰もが一瞬で理解した。

これが、主上と呼ばれる存在の使いだと。

デュラッツォとシャイレンドラを操り、今回の事件を手引きした黒幕だと。


それは、ゆっくりと中庭に降り立ち、デュラッツォの前からアルヴェラへ慈愛に満ちた笑みを向ける。

「はじめまして、アルヴェラ」

全身が粟立つ感覚に、アルヴェラは顔を顰めた。

外見に反して、その存在がとても危険に感じる。

そう思った直後、アルヴェラの目の前で「それ」はデュラッツォの胸を素手で刺し貫いた。

あまりの事に、何が起きたのか理解が追い付かない。

「不良品が粗相をしたようで、代わって詫びるよ。

 これはもう処分するから、安心して欲しい」

デュラッツォの紫色の瞳が見開かれる。

それは、胸を貫かれたからではなかった。

アルヴェラ、ロンシャン、グラディズの三人が「それ」に肉薄していたのだ。

それも、言葉を交わしていないというのに、示し合わせたような同時攻撃を行なっている。


アルヴェラは風の刃と氷の矢を使った攻撃魔術──。

ロンシャンは力を込めた正拳突き──。

グラディズは魔術により具現化させた氷の剣の斬撃──。


三方向から一斉に攻撃するも、「それ」は涼しい顔で自分の周りに結界を張り、防ぐ。

「相手を間違っているようだ」

「何も間違っちゃいないさ」

ヒビ一つ入らない結界に、アルヴェラはグラディズに目配せをする。

その意味を理解し、グラディズは頷いた。

そこから今度はグラディズがロンシャンへと視線を向ける。

ロンシャンもすぐにそれの意味するところを理解し、「それ」から離れた。

間髪入れずにアルヴェラとグラディズは同時に魔術を放つ。

狙う場所は同じ一箇所のみ。

一点集中での突破が目的のようだ。

氷と風の魔術が一点にまとまり結界を穿つ。

「それ」はすぐに上空へと飛翔し、結界を破った術から逃れた。

同時にデュラッツォの胸から腕が抜ける。

ディリスティアとレオナが倒れたデュラッツォを引き摺り、その場から遠ざけ、フリースラントが治癒の術を掛け始めた。

「何、を……」

苦しそうにデュラッツォが漏らすと、ディリスティアは上空へと逃げた主上の使いらしき存在を見詰める。

「アルが、あれを敵として認識したから」

「それにアルさんならこうしてくれって言うしね」

「自分を殺そうとする奴を助けるとか、ホントないわー」

レオナだけは呆れた様子だが、ディリスティアとフリースラントはアルヴェラの思いを受け入れていた。

彼女達は言葉を交わさずに行動している。

だが、誰もそれを止めず、また疑問の声も出ない。

邪王達やリューベックはさすがに驚いているようだが、抗議より先に彼女達は動いているので、対応が間に合っていないと言った方が良いかもしれない。

「デュラッツォ!しっかりしろ!」

そこへシャイレンドラが駆けてくる。

ディリスティアはシャイレンドラを警戒しつつも、デュラッツォを心配する様子は本物だったので、少し離れるにとどまるった。

「っ……血が、止まらない……!」

「諦めないで、フリース」

いつの間にか背後に転移して来ていたアルヴェラが発破を掛ける。

「ティフリス!デュラッツォを助けてくれ!

 君なら出来るだろう⁉︎」

「……奇跡を起こすのは、私でもティフリスでもない。

 助けたいという純粋な思いだよ」

アルヴェラはそれだけ言うと、フリースラントの隣で膝を折り、デュラッツォの胸に空いた穴へとかざす彼女の手に、自分の手を重ねた。

そして、目を閉じ、思いと魔力を集中させる。

「……無駄だ。俺は……」

「人の努力を無駄と切り捨てないでくれるかな。

 どんな結果になっても、信念に基づいた行動なら、無駄なんかじゃない」

フリースラントとアルヴェラの手が見えなくなるほどに、光が強まっていく。

「生きて欲しいと願う人が居てくれるなら……。

 最後まで生きるのを諦めないで。

 惨めだろうと、死に抗ってみせなさい!」

アルヴェラの言葉に呼応するように、光は広がり皆の視界を奪った。

その様子を、「それ」は歪んだ笑みを浮かべて見ている。

己の望む展開へと進んでいることを喜ぶかのように。

カッ「華麗なる連携攻撃だったね♪」

ロン「軽く避けられたけどねぇ」

アル「防ぐのをやめて逃げたってことは通用はしてるよね」

セラ「先輩方の積極性に付いていけない」

マー「私達、必要かなぁ……」

セラ「このままここにいたら無茶振り来るよ、きっと」


出番のない後輩は出番が来ることを恐れています

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