第五十七話 〜目指す「最善」〜
その時がいつ来てもいいように、皆は固まっていることになった。
邪王達はそれぞれ部屋を用意する予定だったが、バラバラに行動して裏目に出るのは避けた方が良いと、結局ひとつ所に固まっている。
ただし、謁見の間では問題があるということで、中庭に移動して来た。
「なーんか、釈然としないなぁ」
間延びした声でグラディズが言うと、皆の視線が向けられる。
「釈然としないって、何に対して?」
「デュラッツォにしろ護衛騎士にしろ、何で今更?」
「まあ、それは確かに」
「絶対アルさんもそこ引っ掛かってるって」
「百年記念とか」
「嫌な思い出を記念にして復讐とかヤバいだろ」
もしそうなら、全力でぶん殴るとグラディズは半眼で返した。
「あと、ウチらが八人まとめて召喚されたこと」
アルヴェラは手違いや失敗などではなく、明確な意図の元で召喚されたと言っていたことを、グラディズはロンシャン経由で聞いた。
「戦闘訓練受けた男とかなら解るぜ?
でも、ウチらは戦いなんてズブの素人で体育系ですらない。
そのウチらを八人も集めて何させたいんだ?」
「うーん……アルは何か確証はないけど予想はしてるみたいだったよ」
「くっそー……アルさんと一晩中語り合いてぇなぁ」
考察や議論はグラディズとアルヴェラにとって遊びと同じ感覚だった。
周りはそこに踏み込めず、一歩下がって見守っている程に、彼女達は熱中する。
一晩中など、それこそ徹夜でやりそうだとロンシャンは苦笑した。
「……なあ、アモイさんよぉ」
グラディズの矛先が、待機中のアモイに向けられる。
嫌な予感がして、アモイはあからさまに嫌悪の表情を浮かべてしまった。
「ウチらさぁ、生贄にされるとかはないよな?」
「生贄って……何のだよ……。ねぇよ」
「生贄ってのは言葉悪いかもしれないけどさ。
何かの犠牲とか……人柱的なものにされるとか。
数が必要なのってそれくらいしか思い浮かばないんだよ」
物騒な想像をするものだとアモイは溜息を吐いた。
「犠牲とかそういうんじゃねぇから安心しろ。
全部終われば、皆揃って無事に帰す」
「ふぅん……。とりあえず、アモイくんはやっぱり知ってるんだ。
ウチらが召喚された本当の意味を」
しまったとアモイは動揺を見せてしまう。
そこまでが、グラディズの揺さぶりだったというのに。
「素直な奴は好きだぜ。さんきゅ」
「くっそ、油断した……」
アルヴェラがこの二人ならばと託した相手を、甘く見てしまった。
アモイはもう余計なことは口にするものかと顔を背けた。
「うーん……うーーーん……」
グラディズはああでもないこうでもないと唸っている。
邪王の話とアルヴェラ側の情報で、ある程度までは輪郭が見えてきたと思う。
だが、本当にそうなのだろうか。
(囚われるな。視野を広げろ)
ひとつの考えに囚われると、新たな切り口すら見出せない事がある。
こういう時は、全く関係ない事を考えていると閃くことがあると、グラディズは顔を上げた。
「やっぱ、全員集まると安心するねぇ」
「アルだけいないけど」
「ディリスはホント、アルのこと好きだよねー」
フリースラントとディリスティア、そしてレオナが雑談を始めている。
そういえば、とグラディズは邪王達へと視線を向けた。
ここに集まったのは、大なり小なりアルヴェラと関わりを持ったものばかりだ。
元の世界では注目されることや人の輪の中にいることを避けるアルヴェラが、今やこの事件の中心にいると言っても過言ではない。
「中心……?」
グラディズはポツリと呟いた。
何を中心に考えを組み立てるかで物事の見え方は変わる。
今回の事件で中心にすべきなのは、何か。
召喚の儀を行ったアイユーヴ?違う。
アルヴェラが言う通り八人全員が召喚されたのであれば、アイユーヴの召喚は意味がないものだ。
ならば召喚された自分達八人?いや待て。
今しがた自分でも何の気なしに考えたではないか。
「この事件の中心にいる」と。
そこからは一気に頭が回転する。
アルヴェラは何をした?
邪王達を動かした思い、時の精霊との契約。
そして今や、敵地の中でありえない状態での孤軍奮闘。
物語の主人公かと思う程の活躍だ。
ダミエッタも、アルヴェラは強い光を持っているといっていた。
思考が、一瞬停止する。
至った結論に、自分で否定するという矛盾を起こしてしまう。
確かめなければ、早急に。
「アモイ!」
焦りを含んだ声色で、グラディズはアモイを呼んだ。
唐突に大きな声を出すので、その場は一瞬静寂に包まれた。
皆の視線がグラディズに集まる。
「何だよ」
「お前らはアルさんをどうするつもりだ!」
「何の話だ!」
話が見えないと、アモイは眉をひそめる。
「中心はアルさんだ!
召喚はこの世界に連れて来るのが目的!
そして召喚の隠れ蓑としてアイユーヴを利用した!
それを行わせる為に今回の騒動を起こした!
違うか⁉︎」
一息に捲し立てるグラディズに、他の仲間達は付いて行けずに顔を見合わせる。
「あまり考え過ぎて変な妄想抱えんじゃねぇよ、面倒くせぇな」
「じゃあ、納得のいく理由を説明してくれよ!
百年前の因縁をいまさら持ち出して動き出す理由をよ!」
「そんなの、知るわけねぇだろ!」
いい加減にしろとアモイは怒鳴り返す。
「じゃあ、質問を変えるよ。
あんたは主にアルさんを選んだ。何故だ?
異世界の人間を主にするなんて、おかしいだろ?
この世界のことなのに、何でわざわざアルさんなんだよ」
アモイはアルヴェラを「選んだ」という。
それは、果たして本当なのか。
「出来るだけこの事件の関係者である方が望ましかった。
その中でも、アルが相応しいと俺が判断した」
「事件に片をつけたら、ウチら帰るんだろ?
主と終生契約ってことは当然あんたも付いてくる」
「まあ、そうなるな」
「こっちの世界の存在であるあんたが、ウチらの世界に居座るんだぜ?
普通は避けないか?
また何かあったら、少なくともアルさんは巻き込まれなきゃいけないんだろ?」
ハッと皆はアモイを見詰める。
誰もが今の問題が解決して元の世界に戻ったら終わりだと思っていた。
さらにその後の可能性など、思い至らなかった。
だが、言われてみれば確かにその通りである。
有事の際に動けるように契約が必要で、それを行い、終生の契りを交わしたのであれば──。
「アルさんが生きてる間に、この世界がずっと平和である確約はない。
何かあれば、アルさんは否応なしに巻き込まれなきゃいけない」
「それは……」
「あんたとの契約は今回の件だけ見て言えば問題ないかもしれない。
けど、その内容を正確に知っていると、おかしいんだよ」
アモイは反論できずにただグラディズを睨み付ける。
その表情は怒りよりも悔しさの方が強く出ていた。
「あんたは、神様の使いなんだろ?
なら、当然、そこには神様の意思も含まれるんじゃないのか?
天界とやらの総意と言ってもいいかもしれないな。
だから、敢えて『お前ら』って言わせてもらった」
事情があるのであれば、それを全て話した上で、本人に了承を得る必要がある。
だが、今回の事だけを矢面に立てて、本当の目的を隠したままでは、不公平ではないか。
「アルさんのことだ。
どうせそれでもいいと思って引き受けてるだろうさ!
でも、アルさんが目的なら……せめてアルさんには全部話せよ!」
アルヴェラはアモイを信頼している。
こちらを任せるくらいには。
自分に言えない事情を抱えていようとも構わず。
「……時の精霊の使命に関わることだ。言えない」
「主でもか⁉︎」
「そうだ。残念ながら使命は主に勝る」
「アルさんの身に、危険はないのか?」
「その為に俺がいる」
この精霊からは恐らくこれ以上の情報は引き出せない。
グラディズはそう判断すると、握った拳を開いた。
感情的になってしまったと深呼吸して落ち着かせる。
「……今回の事件は『上』がアルさんに何かさせる為の布石。
下手すりゃ全てが茶番……。それで間違いなさそうだな」
グラディズが導き出した結論に、アモイは苦い表情で視線を逸らした。
その思いはアルヴェラへの贖罪なのか、人間に知られてしまったという悔しさなのか。
「じやあ、何で……アルだけじゃなくて……みんな……」
アルヴェラが目的ならば、それこそ八人も連れて来ることはない。
アイユーヴの召喚数よりも多い人数は、明らかに不自然だった。
「アルさんに捧げる生贄ってのも考えたが……。
犠牲にはならないらしいからな。
ただ、必要な何かの為、としか」
結局のところ、アルヴェラがさせられる「何か」が解らなければ全てを把握することは出来ない。
ディヴァースに来てアルヴェラは急速に成長している。
この世界に都合が良いように。
それ自体が目的なのか、それが必要な事態への布石なのか。
グラディズは解らないと頭を掻いて溜息を漏らした。
「貴様は敵側の存在か、時の精霊」
グラディズの突拍子も無い考察を聞いていたラディスが、会話が途切れたところを見計らって問い掛ける。
「使命は契約より優先されるが……主を裏切るような真似はしない。
主を守り、主が行く道を切り開くのが俺の仕事だ」
「それは、お前の主にとって敵では無いというだけだろう。
もしもあれが俺達に刃を向ける事になったら──」
「なるわけねぇだろ、バカか?」
八つ当たり先を見付けたとばかりにアモイはラディスを睨み付けた。
「さっきも話した通り『全ての円満解決』を主は目指してる。
主が刃を向けるとしたら、俺か『上』だろうさ」
「あんたもバカか?」
半眼でアモイを見詰め、グラディズは溜息を漏らした。
「アルさんが『全てにおいて』って言ってるんだ。
なら、本当に『全て』を望むさ。
あの人は、そういうところは欲張りで抜かりがない。
つまり、その『上』も納得する形で終わらせる。
だから言ったろ?アルさんにも話せって」
目的や事情を知らなければ、応えることは出来ない。
最善を導き出す為には、正しい理解が必要になる。
まさか、とアモイが瞠目するのを見て、グラディズは苦笑した。
「まだまだ、アルさんのこと解ってないな、あんたも」
ロン「カッシーの考察はいつ聞いてもぶっ飛んでるわ」
カッ「もっと褒めてくれていいんだぜ!」
ロン「あと、口調が定まらないの何なの」
カッ「愛嬌?」
ディ「でも、ホントにアルが目的なら……」
フリ「許せないよね。みんな必死なのに」
ディ「上の人達は目の付け所がいいと思うの」
レオ「あ、そうなるんだ……」
女子高生達は今日も逞しい




