第五十二話 〜一堂に会して〜
円形のテーブルに四つの椅子──。
テーブルの中央にある灯以外に光源はなく、それら以外は何もない空間──。
再び集まった──否、集められた邪王達は思い思いの表情で顔を突き合わせていた。
もっとも、集まったのは相変わらず三人で、今回も男ばかりである。
ただし、いつもと違う点がひとつだけあった。
邪王以外の存在の介入である。
今現在、この空間には邪王が三人と、もう一人男の影があったのだ。
それこそ、邪王を集めた張本人──時の精霊その人だった。
「どういうつもりだ」
ようやく口を開いたのはグラーツである。
声色が一段低いところを見ると、やや不機嫌なのだろう。
「我が主の命だ。お膳立ては済ませてある」
「あの娘の……?」
「動くのは今だと、主は示している。
それをどう取るかはお前ら次第だけどな」
時の精霊──アモイはアイユーヴからリヴォニアに飛び、カシュガルに事情を説明した。
アモイの頼みを聞く義理はなかったが、アルヴェラの言葉を伝えるという彼の言葉に、カシュガルは渋々グラーツとヴィアハスを招集したのだ。
「主の現状、そしてこれからどう動くか。
それを関係者全員集めて説明する。
その為にアイユーヴに来てくれ。
当然、あの二人も連れて、な」
苦い表情のグラーツとは対照的に、ヴィアハスの方はもう答えが決まっているようだった。
「僕は行くよ。
アルが次に何をするのか、すごく楽しみだ」
「……不本意だが、俺も行こう」
「っカシュガル⁉︎」
まさかカシュガルが了承するとは思わず、グラーツは狼狽している。
「話を聞くだけだ。
どうするかは内容にもよるだろうが……」
「グラーツも行こうよ。
アルのこと、期待してたんでしょ?」
グラーツが頑ななのはもはや意地でしかないだろうと、ヴィアハスは思っていた。
そして、それを当人も解っているはずだと。
「……時間の無駄と判ればすぐに戻るぞ」
「素直じゃないんだから。
そういうことで、全員行くよ、アモイ……だっけ」
最初の関門を突破したと、アモイは安堵した。
彼らを動かすことが、一番難しいと思っていたので、どういう形であれ協力を取り付けられたのは大きい。
「リヴォニアから『飛ぶ』。
招くことを決めたとて、緊張は一度の方がいいからな」
「りょーかい」
その場は解散し、リヴォニア城へと戻ったカシュガルは、ラグーザに事の次第を伝える。
「解った。留守は任せろ。
戻って来たら、俺にも解るように説明しろよ?」
「……すまないが、任せたぞ」
説明することに関しては触れず、カシュガルはひとまず不在時のフォローやケアを頼む。
「カシュガル様!」
玉座の間に慌てた様子で飛び込んで来たのは、ラディスだった。
何かあった、という様子ではないが、彼らしからぬ焦りを感じる。
「ラディス?」
「っ……自分も、お供させて下さい」
どこからかアモイの来訪を聞き付けたラディスが共を申し出る。
「お前を連れて行かねばならぬような場所ではない」
他の邪王も居り、行くのは人間界の小国である。
「……お願い、します」
「アルヴェラもいない。連れて行く理由がない」
グラーツとヴィアハスはディリスティアとレオナを連れているが、他に護衛は連れていないだろう。
アルヴェラが連れて行かれた責任を感じているラディスは、必死だった。
だが、カシュガルが答えた通り、連れて行く理由がない。
すると、思わぬところから声が掛かった。
「いや、そいつも連れて行こう。
アルの当初の計画を知ってる。
異世界人以外で、唯一……な」
横からアモイが口を挟むと、カシュガルは怪訝そうに眉をひそめた。
「知っていたからどうだと言うんだ」
「俺や他の異世界人が身内贔屓で口裏を合わせてるわけじやねぇって証明になる」
アモイはラディスを見やり、笑った。
「あと、言葉が足りない邪王に変わって発言してもらった方がいい」
「貴様……!」
「まあ、そういう意味じゃ、確かにカシュガル一人は不安だな」
「ラグーザ⁉︎」
要らない敵を作るかもしれないので、ラグーザはアモイの提案を支持した。
「アルがいない状態だと自国の味方はゼロだ。
状況を知る奴が一人はいた方がいいと、俺は思うぜ」
さらに続けたラグーザに、カシュガルは渋々頷いた。
「解った。ラディス、共に来い」
「っ……は!」
程なくしてグラーツとヴィアハスが、それぞれディリスティアとレオナを連れて現れる。
「これで役者は揃ったな。んじゃ、行きますか」
そう言うと、アモイは一同を風の結界で包み、そのまま転移させた。
「……無事に済めばいいが……」
不安げな表情で、ラグーザは溜息をついた。
同時に、自分の立場を少しだけ恨めしくも思う。
竜王であるが故に、邪王と共に行動できない。
邪王を支えるものとして、何が正しいのか、時々解らなくなる。
ラグーザは、ただ、何の問題も起きずに戻って来る事を願うしかなかった。
アイユーヴ城に姿を現したアモイは、騒然となる謁見の間に苦笑していた。
本当に邪王が、それも一度に三人も人間界に現れたのだ。
何が起こるのか、アイユーヴ側は気が気でない。
そんな彼らをよそに、異世界の人間達はようやくの再開に喜んでいる。
「涼ちゃん!みぶっち!」
「郁さん!ゆいりん、みほ!
それに、りおんちゃんときおりちゃんも!」
きゃあきゃあと、それは嬉しそうに彼女達は飛び跳ねた。
実際に無事な姿でまた会えた事で、不安要素が少しだけ取り除かれる。
ヴィアハスはあるべき姿に戻った彼女達を微笑ましく見守っていた。
「……こうしてみるとさ、やっぱ僕達が間違ってたんだって思うよ」
「それは、彼女らを中心に見た場合だろう」
何が起きるか解らない以上、罪悪感はあれど、やるしかなかった。
グラーツは自分に言い聞かせるようにそう言った。
「時の精霊、どういうことだ?
邪王とこいつらの仲間だけだという話だろう」
リューベックは、招かれざる客──ラディスの存在に険しい表情でアモイに問う。
「関係者だから連れて来た。それだけだ」
「関係者?」
「アルがリヴォニアにいる間、護衛として付いていた。
当初、何をやろうとしていたかも聞いてる」
護衛、と聞きリューベックはさらに眉間のシワを深くした。
「そういうわけだ。これで、役者は揃った事になる」
「一番いなきゃいけない人がいないけどね」
両手を挙げ、肩を竦めるグラディズに、アモイは苦笑する。
「ここに来られないってのは何となく解ったけど……。
前みたく、同調?だかって出来ないの?」
「情報共有の為に瞬間的に同調する事はあるが……。
意識まで同調させんのは、主の今の状態じゃ、無理だな。
それに、あっちはあっちでやる事もあるらしいからな」
意識をしばらくこちらに飛ばすのはそれを阻害する。
アモイはロンシャンの問いに的確な回答を返した。
その時、ダミエッタが玉座から立ち上がった。
おもむろに邪王三人の前まで進み出る。
それから、膝を曲げ頭を下げ、丁寧に礼をした。
「お初にお目に掛かります。
アイユーヴを治める、ダミエッタと申します。
本日はご足労頂き、至極光栄に存じます」
失礼のないようにとダミエッタなりに考えての行動だった。
「丁寧な挨拶、痛み入る。
私はグラーツ。フェルガナの王だ。
右がリヴォニアのカシュガル、左がラオスのヴィアハス。
それから、アルヴェラを護衛していたラディスだ」
代表してグラーツが挨拶を済ませてしまう。
ヴィアハスは口を開けば何を言い出すか解らない。
カシュガルはむしろグラーツに任せる。
ラディスは自分が出るべきではないと身を引く。
そう考えてのことだったが、ヴィアハスだけは不満そうにしていた。
「互いに思う事はあれど、今は話を聞きましょう。
時の精霊の──その主の話を……」
ダミエッタがアモイへ視線を向けると、彼は溜息を漏らしながらも頷いた。
「まずは、今の主の状況から説明させてもらう」
「そうそれ!何よりもまずそれ!」
「解ったから、ちょっと黙ってろ!」
グラディズが急かすので、アモイは頭を抱える。
ロンシャン達は彼女らしいと笑っていた。
「主……アルは黒幕を突き止める為に、敵の襲撃を利用した。
自分が死んだ事にすれば、尻尾を出すかもしれないってな。
これは、そこのラディスやディリスやレオナも知ってる話だ」
驚き、ロンシャンとグラディズはディリスティアとレオナを見やる。
「うん。証拠を偽装してカマかけてもばれるだろうって」
「上手く出来れば死の偽装の方が黒幕を釣れるから、とも」
レオナとディリスティアは順にその時の事を話す。
「何故それについて俺に報告しなかった、ラディス」
配下の将に出し抜かれるなど、一人の王としての沽券にかかわる。
カシュガルはラディスに鋭い視線を向けた。
だが、ラディスは慌てる様子もなく軽く頭を下げ、答える。
「相手は相当な切れ者です。
付け焼き刃の策ごときではすぐに見破られてしまいます。
故に、敢えてその場にいた者しか知らぬ状態を作りました」
「俺に話すことすら、か?」
「然り」
抗議の代わりに、カシュガルは拳を強く握り締めている。
「まあ、ラディスの判断は正しいと思うよ」
ラディスを擁護するようにヴィアハスが口を挟む。
「だって、カシュがあそこまでの対応出来ると思えないもの」
「信憑性を持たせる為、致し方なかったかと」
「うんうん。ラディスだって、結構不自然だったしね。
カシュはきっと、もっと酷くなると思うよ」
さりげなくラディスにダメ出しをするヴィアハスに、ラディスは気まずそうに顔を背けた。
「ヴィアハス、途中で疑ってたもんねー」
「なんかラディスの様子がおかしくて気になってさ」
「ふん、お前も大差ないではないか」
自分だけが駄目なわけではないと、カシュガルは不満そうに呟く。
「役割の差ってやつ?」
「そうだね。周りに知らせる為に動く人かどうかもあるし」
「うんうん。
カシュのあの感じは知ってちゃ出来なかったと思うよ」
ヴィアハスから見て、ディリスティアの演技はそれと解らないほどだった。
レオナは友を失ったにしては淡白な印象で、そこも引っかかっていた。
「実際、カシュが報告受けた直後の動きとかさ」
「っその話はどうでもいいだろう」
「えー?そこ大事じゃん」
完全に興味本位である事は誰が見ても明らかである。
「アルが想定していた筋道通りではあったな。
まあ、勝手に触ろうとしたのはやり過ぎだが……。
ディリスティアが迫真の演技で追い払ってくれて助かった」
笑いながらアモイも会話に加わる。
精神体が抜けた肉体は、死んだように見せる為、多少の施しがされてあった。
それは、人によっては触れるだけで見破ることも可能だろう。
「アルを守るんだ、って思ったら何でも出来るわ」
にっこりと笑うディリスティアは、可愛いよりも怖いと感じられた。
カシュガルは居心地の悪さに、早く次の話に進む事を、切に願うのだった。
レオ「みんなで賭けしようとして賭けにならなかったとかねぇ」
カッ「くそ!何で俺がその場にいなかったんだ……!」
ロン「それはあたしも加わりたかったわー」
リュ「お前らはどうしてそういう方向には元気なんだ」
セラ「娯楽が少ないからですよ」
ヴィ「……アル達は大人しい方だったんだね」
女子高生が七人も集まれば騒がしくもなります。




