第四話 ~別離~
未由斗がスマートフォンの時計を確認すると、最初に確認した時から10分ほど経っていた。
時間の流れが遅く感じるのは、この異様な空間のせいだろうか。
電池の節約のため、未由斗は画面を消した。
「やっぱり、少し歩いた方がいいんじゃないですか?」
莉音がそう提案すると、郁恵はどうしたものかと考え込む。
「さみは……どう思う?」
「……体力を使わない程度に動くくらいなら問題ないと思う」
それで皆の不安が収まる、もしくは気が紛れるのであれば、それはそれで良いかもしれない。
未由斗はそう考えていた。
ただし、何かが起きた時のために体力は温存しておきたい。
「じゃあ、少し歩こうか。はぐれないようにね」
郁恵がそう決断すると、皆それぞれ緊張した面持ちで頷いた。
「しっかし、さみさん、最初から冷静すぎ!」
唯李が肩を竦めてそう言うと、実星もうんうんと頷く。
「でも、すごく頼りになる感じだよね」
「ゲームのやり過ぎじゃないのー?」
弥栄子がからかうように言うと、涼子は心配そうに未由斗を見やる。
「まあ、こういう時は冷静な人が一人でもいた方がいいし」
郁恵が話を打ち切ろうとまとめに入る。
確かにと皆が頷くのに苦笑しながら、未由斗は周りを見渡した。
やはり真っ暗なままで、景色が動いているかすら解らない。
(やっぱり、ここは……)
仲間達が自分を見ていないのを確かめ、未由斗は険しい表情を浮かべる。
「私達……歩いてる、よね?」
しばらくして、不安に耐えきれなくなったのか、実星がふと呟いた。
「歩いて、ますよ……」
同じく不安に苛まれた季織が相槌を打つ。
さすがに普通じゃないことを肌で感じ始めた仲間達に、未由斗はどう説明したものかと視線を落とした。
少し迷っていたものの、意を決して告げようと顔を上げる。
「もう!何でこんなことになってんの⁉︎何なのさ!」
「別に誰が悪いわけでもないし、何にあたればいいか解らないね」
理不尽な目に遭っていることに、弥栄子は憤りを隠せないようだ。
これが誰かのせいであれば、その人を責めることで気を晴らせるのだろう。
「実は誰かが狙われてて他は巻き添えみたいな?」
「そうだったらちょっと困るね……。その人が悪いわけじゃないけど」
弥栄子と実星の会話に、未由斗は拳をぎゅっと握り締める。
「誰かのせいにした方が楽だろうけど、そうじゃないでしょう?」
郁恵がさりげなくフォローするが、未由斗には届いていない。
真実を告げようとした決意も、どこかへ行ってしまった。
「さ──」
涼子が未由斗に呼び掛けようとしたその時、真っ暗なだけだったその空間に変化が起きた。
きらきらと白く光る何かが、彼女達の周りを漂い始めたのだ。
「何これ⁉︎」
「今度は何⁉︎」
禍々しさは感じないが、良くないものにも思える。
「っ……手を──」
離れ離れにならないよう、せめて手を繋いでいるべきだと思った未由斗だが、判断が遅すぎた。
光は徐々に増え、あっという間に全身を覆うほどに広がる。
最初に姿が見えなくなったのは郁恵だった。
「郁さん⁉︎」
「いやぁ!何、何⁉︎」
再びパニックになる仲間達に未由斗も焦る。
この状況ではもはや自分の声も届かない。
莉音、季織も光に包まれ、姿を消した。
「こんなのって……!」
「みぶっち!ゆいりん!みほ!涼ちゃん!手を……!」
唯李と涼子には未由斗の声が届いたのか、手を伸ばそうとしている。
だが、二人の手が未由斗に届く前に、見えない壁のようなものに阻まれた。
その直後である。
辺りを漂っていた光が白から黒に変わり始めたのだ。
明らかに先程までと様相が違うので、未由斗は警戒を強める。
「何なの、これ……!」
「ゆいりん!」
「さみさん……さすがにお手上げだよ……」
自分達に出来ることはもう何もない。
そんな諦めの表情を浮かべ、唯李は力なく手を伸ばした。
未由斗も手を伸ばすが、何かに弾かれて掴めない。
「みほとは一緒に行けそうだ」
「ゆいりん、怖いよ……」
「ちょ、ちょっと!二人でとかずるくない⁉︎」
黒に変わった光が、唯李と実星、そして弥栄子を包んでいく。
時折、白い光が黒い光とせめぎ合っているのが解った。
「いや、さみ……さみぃ!」
見えない壁を必死に叩き、涼子が未由斗に助けを求める。
「涼ちゃん!……いや、ダメ、そんなの……」
二人を隔てる壁は見えないが確かにそこにあった。
それが何かなどは未由斗にとってどうでもいい事である。
涼子に手が届かない。
すぐ目の前にいるというのに、手が届かないのだ。
「っ……あ、いや……」
涼子を包む光が徐々に増えていく。
「ダメだ、やめて……。……やめろ……」
見えない壁に触れていた手を握りしめ、未由斗はその拳を思いきり叩き付ける。
音はならず、衝撃も吸収されているのか、壁はびくともしなかった。
「どうして……私は、また……」
黒と白の光が未由斗の周りを高速で回転し始める。
「涼ちゃんに……その子に手を出すなあぁ!」
未由斗の目が突如、赤い光を帯び、二人を隔てていた壁が崩れた。
その場に蹲り、黒い光に包まれようとしていた涼子へ、未由斗は手を伸ばす。
黒い光が拒むように未由斗の手を弾いた。
「させない……。その子は──」
白い光だけが未由斗の右手に集まり始める。
──私が護る!
白い光を宿した右手が、黒い光を突き破り、涼子に届いた。
そのまま強く引き寄せ、庇うように覆い被さる。
「さ……み……?」
「今度こそ、私は……!」
未由斗と涼子は二人一緒に黒い光に包まれ、消えた。
目的を失った白い光が、あてもなく漂う中、その人は現れた。
翡翠色の長い髪をなびかせ、白い光を導くように払う。
そこで「残滓」を見付けた。
「これは……」
笑みを浮かべ、身を翻すと、三歩ほどで闇に溶け込むように姿を消す。
全てが終わったその空間は、役目を終えたように収縮して消えてしまった。
涼「さみ、ナイトみたい」
未「いや、別に百合とか興味ないからね?」
涼「えー?さみとならいいかなって思ったのに」
未「本気にされると困るから、そろそろやめようね?」
シリアス展開でもぶれない二人。




