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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第四十四話 〜部屋前の攻防〜

厨房番が戻って来るのと入れ替わりに、アルヴェラ達は厨房を後にする。

カシュガル達が何か言っていなかったかを尋ねたが、特に感想などは口にしなかったという。

逆に文句もなかったということなので、口に合わなかったわけではないらしい。


アルヴェラ達は部屋へと戻って来た。

扉の前で違和感に気付き、アルヴェラは足を止める。

自分ですら違和感を覚えるのだから、随分と杜撰なモノだ。

「……ラディス殿、どうしましょう?」

「仕掛けた奴に解除させるしかないだろう」

唐突な二人の会話に、ディリスティアとレオナは顔を見合わせた。

「どうしたの?」

「扉に罠?が張られてるみたいで」

「え……」

「……この、変な黒いもやのこと?」

困惑するレオナの横で、ディリスティアは扉の取っ手部分を指し示しながら尋ねる。

「お前は『視える』のか」

「アモイのことも、隠密状態で気付いたって言ってたね」

「感知能力が高い、ということだな」

異世界の人間は誰も彼も規格外なのかと、ラディスは驚きを隠せない。

「アモイ、これ他人でも解除ってできるの?」

『優秀な術者ならできると思うぜ』

声の後に、アモイは姿を現した。

「……アモイは?」

「できるに決まってんだろ」

「じゃあ、お願い」

「了解、マスター」

扉の前に立っていたアルヴェラと入れ替わり、アモイは扉に手をかざす。

やがて扉が黒い光を帯びると、すぐにそれは淡い緑色に転じた。

最後にはガラスが割れるような音と共に光が弾け、しばらく宙に漂う。

「完了だ」

「すごい!何やったのか全く解らない!」

「魔術に関することなら、何でも俺に頼れよ」

時の精霊に選抜される程の魔術師であり、精霊になった事で得られた知識もある。

古代魔術については解らないと言っていたが、それ以外は飛び抜けていることは確かだろう。

「便利な精霊だな」

「頼りになる、って言ってください」

認めるのが嫌で、ラディスは顔を背ける。

その様子に苦笑しながら、アルヴェラは取手に触れた。


扉を手前に引いて開けた刹那、剣の切っ先がアルヴェラの喉元を狙う。

咄嗟にラディスはアルヴェラの腕を掴んで引き寄せた。

同時に腰から剣を引き抜き、なおも迫る剣を受け止める。


一瞬の出来事で、ディリスティアとレオナは動けなかった。

アモイは反応出来ていたが、ラディスに先を越された上に彼が邪魔でアルヴェラに手が届かない。


キィンという金属音が響くと、アルヴェラはラディスの背後に庇われていた。


「罠が発動し、万が一仕留め損なった場合の二手か。

 周到だが……どちらも防がれることまで考えていなかったようだな」


険しい表情でラディスがそう言うと、相手も苦々しい表情で打ち込んでくる。

素早く何度も打ち込まれるそれを、ラディスは易々と受けていた。

ラディスと襲撃者の力の差は歴然である。

それは、襲撃者も理解しているに違いない。

それでも執拗に打ち込む姿に、アルヴェラは違和感を覚えた。

その違和感から推測を立てると、すぐに彼女はディリスティアの前に立つ。

「アル?」

次の瞬間、扉を壊してもう一人の襲撃者が現れた。

そちらは真っ直ぐにディリスティアとレオナの方へと向かってくる。

だが、それを予期していたアルヴェラが前に立っていた為、その剣は迷わずアルヴェラへと向けられる。


「残念だったな」


襲撃者の剣は、アルヴェラに届かなかった。

その手前で、彼女の精霊──アモイによって止められたのだ。

魔力による物理干渉─それを使ってアモイは敵の剣を片手で止めていた。

「……アモイ、まだだよ」

アルヴェラは壊れた扉の横の壁を睨み付ける。

一か所にひびが入り、それは壁全体に広がって行った。

突如、壁が爆発によって吹き飛び、瓦礫が飛び散る。

さらに止めと言わんばかりに黒い光の矢が幾つも放たれた。


辺りは爆発によって舞い上がった砂埃で視界が利かなくなる。

だが、それらの脅威は全て見えない壁によって防がれた。


何が起きているのか解らず、恐怖でディリスティアはアルヴェラの背中にしがみ付く。

そのまま、全てが終わるまで目を瞑っていることしか、彼女にはできなかった。


「ディリス、大丈夫。すぐに終わるから」


優しく、穏やかな声色で、アルヴェラはディリスティアに呼び掛ける。

そっと震える手に触れると、強く握り返された。

突然の襲撃に、平然としていられるわけはない。

アルヴェラは苦笑すると、砂埃の先を睨み付ける。

「“風よ”」

一言だけ、アルヴェラが紡ぐと、一陣の風が砂埃を払い、現状を露わにする。

部屋の中には杖を持った黒いローブの男がいた。

最初に飛び出してきた男とアモイが止めた男、それらを合わせると襲撃者は三人である。

扉の罠も看破され、奇襲する意味で飛び出したがラディスに邪魔され。

ならばとラディスを引き付けている間にもう一人が護られていないディリスティア達を狙ったが止められた。

最後の手段として、壁を壊すことも厭わずに大火力での魔術を仕掛けたが、これも防がれてしまった。

襲撃者たちの思惑は、ことごとく外れてしまう。

「狙うなら、私だけにしてくれないかな」

アモイが止めた男と、部屋にいる男、それぞれを目で追い、アルヴェラは怒りのこもった低い声で言い放つ。

そこへ、騒ぎを聞きつけたラグーザとカシュガルが駆け付けた。

城の内部で爆発が起きたのだから、只事ではないだろうと。


「“堅固なる巌も断つ風の刃よ、我が声に応え、全てを切り裂け”」


アルヴェラが詠唱するのを聞いていたカシュガルとラグーザは、彼女の魔力が高まるのを感じた。

詠唱と共にアルヴェラの胸の高さほどの位置に、翠色の刃のようなものが3つ現れる。

その3つの刃が放たれると、部屋の中にいた襲撃者の両腕を掠め、頭頂部を少しだけ削いだ。

それらは襲撃者に恐怖を与えると勢いを失い、ただの風となり窓を少しだけ揺らす。


ラディスが相手をしていた襲撃者の方も、剣を折られ床に倒れた。

襲撃者を撃退したはずのラディスの表情は晴れない。

敵の思惑通り、まんまと相手をさせられてしまったからである。

アルヴェラは無事だが、彼女を守ったのは精霊と彼女自身であり、任を全う出来たとは言い難い。

「君達は私が……人間が気に入らなくて殺しに来たのかな?

 それとも、誰かにそうしろと言われたのかな?」

正直に応えてくれるとは思っていないが、アルヴェラはそれでも尋ねる。

アモイが止めている男は、剣が全く動かず身動きが取れないようだ。

「簡単な仕事だって……。

 扉に術式仕掛けて、止めを刺すだけの……。

 こんな……こんな……」

「……ということは雇われただけだと」

誰に雇われたかは聞いても無駄だろうなと、アルヴェラは溜息をついた。

「……城内で良からぬ噂を流していたのも貴様らか」

男達は黙り込んでしまった。

反論してこないところを見ると、図星なのだろう。

「噂……ですか?」

「……邪王に媚を売り、取り入ろうとしている。

 そのような類の噂だ」

「なるほど。より私を狙い易くするための布石ですね」

無言で頷き、ラディスは近くに居た兵士を呼び、襲撃者を捕らえるよう言い付けた。

「アル、大丈夫か?

 怪我は……ないみたいだけど……」

心配そうに駆け寄るラグーザに、アルヴェラは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「私は大丈夫ですが、部屋がボロボロに……。

 すみません」

「こんなの、また作ればいいだけの話だ」

アルヴェラに縋りついていたディリスティアはようやく落ち着きを取り戻していた。

また、アルヴェラに助けられた。

それを負い目に感じ、ディリスティアはアルヴェラから離れる。

「ディリス、もう大丈夫だよ」

不安を吹き飛ばすように、アルヴェラは笑い掛ける。

そして、その思惑通りに安心している自分がいる。

「……アルは、やっぱりすごいね。

 三人いたの、解ってたんでしょう?」

「最低三人は、っていうのは……まぁね」

それ以上の可能性も考えてはいたが、今回は最低数だけだった。

「ラディス殿に防がれた時、すごく焦ってたみたいだったんだ。

 その後も勝てる見込みなんてないの解ってて剣を振るってた。

 時間稼ぎ、もしくは囮のようにも見えたの。

 そして、狙い易い『人間』がすぐ近くに居た。

 扉が壊された時に魔力も感じたから……三人はいるだろうなって」

至って普通に話しているアルヴェラに、ラグーザは呆れ顔である。

実際に目で見たのは途中からではあるが、「人間」が狙われた襲撃であるのは言うまでもない。

つまりはアルヴェラも狙われていたということだ。

先程までディリスティアとレオナは蒼白な表情で震えていたが、アルヴェラは平静を保っている。

それだけではない。

襲撃の最中に、冷静に状況を見て判断し、自ら動いていたことが窺える。

「申し訳ございません、ラグーザ様。

 彼女を危険にさらすことになってしまい……」

襲撃者の時間稼ぎに踊らされてしまった事を気にしているようだ。

今回はどちらかというと、アルヴェラが勝手に守られていた場所から危険に向かって行った、という方が正しい。

「ラディス殿はきちんと任を果たしていました。

 私が勝手に飛び出しただけです」

「……お前は時間稼ぎにも二の矢三の矢があることにも気付いていた。

 本来ならば俺が気付き先手を打つべきだった」

ラディスは自分の落ち度を理解している。

アルヴェラも本来ならば守られる立場であることを理解している。

自分が自分がと言い出す、このような手合いは面倒だった。

「なら、今回はどっちもどっち、だな。

 アルは大人しく守られてなかった。

 ラディスは読みが甘かった。

 それぞれ反省点が解っているなら、それでいい」

多少の無理はあるが、両成敗が一番丸く収められそうだと、ラグーザは苦笑する。


「ところでアル、首のところ、ちょっと血が滲んでない?」


その場を凍り付かせる一言を、レオナは口にしてしまった。

アルヴェラ自身も気付いていなかったほんの僅かな傷を、レオナは指摘した。

レオナが失言に気付くのはこの後すぐのことである。

ディ「手当てしないと!」

アル「薄皮ちょっと切れただけだよ」

ラグ「薬箱持ってくるから待ってろ!」

アル「いや、だから……」

アモ「あいつら、消し炭にしてやる……」

ラデ「待て精霊、俺も行く」

アル「何か物騒なこと言ってます⁉」


邪王様はこの輪に加わらずブツブツと呪いの言葉を吐いていたらしい。

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