表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
45/80

第四十三話 ~厨房再び~

気まずい空気を何とかしようと、アルヴェラは少し早いが厨房へと来ていた。

厨房番の例の兵士もいたので、丁度よいとばかりにお邪魔する。

兵の方は人間が増えていることを訝しがっていたが、ラディスが何も言わないので特に問い詰めはしなかった。

「お邪魔します」

「ああ、来たな」

兵はどこか挑戦的な笑みを浮かべている。

「前日のスープ、食事好きな兵にも好評だったぞ。

 どれくらい置くのがいいかは今後の課題だな」

「それは良かったです。

 再加熱せずに置き続けると悪くなるのでそこは気を付けて下さい」

自分の評価も上がったのか、兵はご機嫌だった。

「今日の分はこれから作るのですか?」

「ああ。丁度いい、材料を選ばせてやる」

「え?」

「お前が食べるものだろう。選べ」

言い換えると、これまでの食材以外のもので、かつ、新しい料理を作るのが見たい、といったところだろうか。

ただし、兵が作るのはスープだと思われるため、スープに出来るものを選ばなくてはならない。

「……解りました」

ディリスティアとレオナは兵が偉そうだな、と思いながら成り行きを見守っている。

アルヴェラは食材を一通り確認すると、そこからいくつか取り出した。

見た目は地球にある野菜と大差がなく、味も違わなければいいなと思いながら選んだ。

昨日の食材は地球で言うところの、キャベツとニンジンとタマネギだった。

そこで、今回はジャガイモとベーコン、ほうれん草に見える食材を選ぶ。

ベーコンがあったことに驚いたが、保存食としての干し肉のようなものだろう。

「お前が選んだのなら、スープに出来るということだよな?」

「私達の世界では……ですけれど」

「面白い、やってみるか」

そこから調理が始まったのだが、やはり兵の切り方は豪快で、ディリスティアとレオナも唖然としている。

だが、昨日これを見ていたアルヴェラは、予想通りの切られ方で満足そうだ。

ほうれん草は葉の部分だけを使うように半分にされている。

ジャガイモなどは皮を剥くという習慣がないのか、皮が残らないよう四角く切られた。

ベーコンも両端を切り落とすように三等分され、中央のみが使われる。

「これも使えるか?」

「はい。よろしいでしょうか?」

「ああ、どうせ廃棄するものだからな」

なるほど、とディリスティアは合点がいった。

この切られ方では食べられる大部分が捨てられてしまう。

その上、スープしか出てこないとなれば、自分で作るというのも頷ける。

兵がスープを作り終えると、入れ替わりにアルヴェラが調理を始めた。

ほうれん草は茎の部分になるので、茹でておひたしに。

ジャガイモとベーコンは火を通してジャーマンポテトに。

量としては付け合わせ程度だが、スープのみの寂しい食事に彩りを加えることには成功している。

「今日からは三人分でお願いします」

「ああ、好きなだけ食え」

兵はアルヴェラの使った食材の切り方や調理法を、必死に書き留めているようだ。

素直に聞けばアルヴェラは快く答えるのに、とディリスティアは不思議そうに兵を見ていた。

そんな兵には気にも留めず、アルヴェラは料理を取り分ける。

「少し貰うぞ」

「え?あ……はい、どうぞ」

大したものではないが、と苦笑するアルヴェラに、ラディスは少し面倒そうに手元へ取り分けていく。

皿は一つの料理に三つ用意してあり、ラディス以外に二人分取られていることが判った。

「あれ、ラディス殿の分……だけではないのですね」

「……次があれば持って来るよう仰せつかったからな」

「今から持っていくのですか?」

大したものではないのに、という言葉を飲み込み、アルヴェラはラディスに尋ねる。

が、そこでラディスの手が止まった。

ラディスがこの料理をカシュガルとラグーザに届けるということは、アルヴェラ達の側を離れることになる。

届けるのを後回しにすれば、料理が冷めてしまう。

「……これをカシュガル様とラグーザ様に届けてくれ」

葛藤した結果、厨房番の兵に届ける仕事を頼む方を選んだらしい。

「はっ」

兵の方はラディスからの直々の命令ともあって、ただのお使いにもかかわらず、嬉しそうに拝命している。

「それじゃあ、私達はご飯を頂こうか」

「やったあ!お腹空いてたんだよねぇ」

「アルの手料理、いつぶりだろう?」

「手料理なんて大それたものじゃないよ」

ディリスティアは家に専属の料理人がいるので、舌は肥えているだろう。

残り物を適当に処理しただけのそれが、口に合うとは思えなかった。

せめて、彼女のために、心を込めて料理したものであればまだ張り合う気も起きるのだが。

「いただきまーす」

三人は手を合わせると、食事を始めた。

ラディスも少し離れて同じものを食べ始める。

邪族にとって食事は娯楽のようなもので必須ではない。

そう言っていたラディスだが、アルヴェラの護衛を始めてからは共に食事を摂っている。

「美味しい!

 ジャーマンポテトなんて久し振りに食べたよ」

「おひたしの方、これ……醤油?」

「それっぽいのを調味料の中から選んだんだ。

 違和感ないならいいんだけど……」

おひたしなどという和食を、邪族側が受け入れられるかは解らないが、アルヴェラは食べたいなと思ったのであえてこれを選んだ。

「……これは……何だ?」

ラディスが問い掛けたのは、ちょうどおひたしを食べたところである。

「茹でた野菜に調味料を掛けただけです。

 やはり、馴染みがなかったでしょうか……」

「いや……このような食べ方もあるのだな」

少し意外そうな表情で、ラディスはおひたしをもう一つ口に運ぶ。

「調理後に味を付けているのは初めて見た」

アルヴェラは苦笑する。

これは刺身などという文化を話した日には、卒倒されるのではないかと。

「野菜の中には生のまま食せるものもありますが……」

「火を通すことすらしないのか⁉︎」

「そういうものもあります」

サラダも無理だろうかとアルヴェラは今後の献立を考える。

「味付けの好みもありますし。

 食べられなさそうなものがあったら教えて下さいね」

「大丈夫!その分は私が食べるもの!」

「ディリス、そういうことではないからね?」

食べ残しの心配をしているのではないのだと、アルヴェラはディリスティアを諭す。

「でも、ここは食材自体もいいものだし、調味料も多いし。

 料理好きであれば理想な環境だと思うな」

自分は得意ではないが、それでも料理したくなる、そんな環境だった。

アルヴェラは兵が作ってくれたスープを口にする。

使った食材がいつもと違うこともあり、味も異なっていた。

だが、具材に合った味付けとなっていて、違和感はない。

あの兵はどこで料理を覚えたのだろうか。

聞けそうなタイミングがあれば聞いてみようと、アルヴェラは食を進める。

ふと気付けば、ラディスが既に食べ終わっている。

レオナとディリスティアも残り少しの状態なので、アルヴェラは味わいながらも早めに咀嚼していった。

「美味しかったね」

「ここでもスープなのはちょっとウケたけどねぇ」

「レオナのとこも?私のところもそうだったよ」

邪界の食事はスープが主流なのかと思ってしまう。

作りやすく、量も多めに出来るからだろうが、そもそも料理を教えた側の問題かもしれない。

「アルが色々作ってくれるなら、これからは食事も楽しみだよ」

「お茶の時間にはクッキーも焼いてほしいなぁ」

「二人とも、何のためにここにいるのか解ってる?」

この環境で楽しみを見出すのは難しいので、悪いとは言わないが、それでもアルヴェラは呆れてしまった。

「とはいえ、うちらはむしろどうしようか状態だし?」

「それはそうなんだけど……」

今のところ、二人の役割は邪王を説き伏せるくらいしかないが、すぐには無理だろう。

「……食べないのか?」

「え?」

「手が止まっているぞ。食べないのなら──」

「私がもらう!」

考え事をしていて、手が止まっていたアルヴェラにラディスが声を掛ける。

さらには残り物を狙ってディリスティアまでもが身を乗り出した。

ディリスティアに遮られたものの、どうやらラディスも残り物を狙っているようだ。

カシュガル達の分も取り分けたので、おかわり分など残っていない。

だからといって人の食べ残しを狙わないでほしい。

少なくとも、お嬢様育ちのディリスティアは。

「人の食べ残しを所望するのは品がないですよ、お嬢様」

「それでも、残すくらいなら食べたいもの」

皮肉で返すアルヴェラに、ディリスティアは不満そうに口を尖らせている。

その様子を愛おしそうに見詰め、アルヴェラはそっとディリスティアの頭を撫でた。

「じゃあ、食べる?」

アルヴェラがそう問い掛けると、ガタッと音を立てて残りの二人も立ち上がる。

「……あ、はい。こんなもので良ければ皆さんどうぞ」

三人の勢いに押され気味だが、アルヴェラは苦笑しながらも望む三人に勧める。

代わりにアルヴェラはスープをもう一杯頂くことにした。

器に盛り付けながら、カシュガル達の口には合っただろうかと、兵が持って行った料理に想いを馳せる。

これまでは自分が食べるだけしか考えていなかった。

評判が良ければ、次からは「食べてもらう為に」作ろうかと、アルヴェラは空になった皿を見詰めながら考えていた。

厨「ラディス様より承り、料理をお持ちしました」

ラ「ああ、すまないな」

カ「例の……アルヴェラが作ったという……」

ラ「(もぐもぐ)……へぇ、食べたことない味だな」

カ「だが、量が少ないな。味見用か?」

厨「ラディス様は均等になるよう取り分けておられました!」

カ・ラ(足りない……)


邪王と竜王は揃いも揃ってわがままです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ