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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第四十二話 ~その頃アイユーヴでは~

まだ昇りきっていない太陽を仰ぎ見ながら、ため息をつく。

その溜息が複数交差したことに気付くと、どうしたのだろうと各々顔を上げた。

視界に入ったのは金髪碧眼の青年──リューベックである。

その立場上、彼もため息が絶えないのは周りもよく知っていた。

「リューさん、今度はどうしたんですか?」

「お前こそ、朝早いうちから溜息なんて珍しいな」

互いに浮かない顔のまま、二人は言葉を交わす。

「溜息も出ますよ。さっきの話……」

「実戦の話か?それはどうしようもないな」

「そう、どうしようもないから溜息が出るんですよ」

「俺も付いて行くから心配ないさ、ロンシャン」

苦笑しながらそう告げたリューベックに、溜息の主──ロンシャンは頭を抱えた。

「そういう問題じゃないんですってば!」

「命の危険があるかどうかは重要だろう?」

「話が飛躍し過ぎです。

 その前の段階でもう頭が痛いんですよ」

異世界の人間とは価値観が違うことはリューベックも身をもって理解していた。

今回もそういった行き違いかと首を傾げる。

「やると言った以上、命を懸けて戦うことに異議はないです。

 ないのですが……」

はあ、とロンシャンは再び溜息をついて見せた。

「そういう大事なことを、さらっと話の流れで決めないで下さい!」

その時の状況が次の通りである。


おはよう。

そろそろこちらの世界での生活にも慣れて来た頃だろう。

戦闘訓練は順調かな?

ああ、昨日の邪鬼の襲撃は驚いたね。

実戦はあんな形になると思うから、見ていたのは良い勉強になったのではないか。

君達も邪鬼との戦いは経験しておいた方がいいと思う。

そうだ、今日の訓練は実戦に切り替えて周辺の邪鬼討伐に行こう。


以上が、起床してから朝食を摂っている間の会話の内容だった。

準備が整い次第、出発することになっているのだが、ロンシャン達の準備はもう終わっている。

何しろ、装備一式を渡されて、それを着けておくように言われているだけなのだ。

格闘術を身に付けたロンシャンには武術着と動きを阻害しない程度の胸当て肩当てを着けている。

剣術を主とするマーシアは銀製の軽量鎧が支給された。

魔術士となったセラヴィーンは魔術結界を展開させて身を守る為、魔力強化に重きを置いた神官衣に袖を通している。

「翌日まで緊張して待つよりかいいだろう」

「だとしても、急すぎますよ……」

「昨日のように、突然襲撃されることもある。

 どんなことにも臨機応変に対応できるようになる為と思えばいい」

そう簡単に出来るようになるなら苦労はしない。

ロンシャンは再度の溜息を飲み込む代わりに、痛む頭を押さえた。

「……それで、リューさんの方は何なんですか?」

「お前らとは関係ない……他愛のない悩みだ」

気にするなと軽く手を振りながら答える。

「それはそうと、昨日のお前達の仲間のことだが」

「さみ……アルヴェラのことですか?」

追及する前に話題を変えられ、ロンシャンは心の中で舌打ちしていた。

「アルヴェラというのか、あいつは」

「今はそう名乗ってるみたいですね。

 あたし達と同じような理由だと思いますが」

「あいつが、時の精霊と契約した主……なのか?」

「そうみたいですよ」

後から、時の精霊が主であるアルヴェラの意識と同調し、姿だけ変えたものと説明されていた。

外見はあのままだと聞いて少し安心した自分に疑問が残っている。

仲間へと見せたあの穏やかな笑みが、どうにも瞼に焼き付いていてリューベックは困っていた。

「どういう奴なんだ?」

「うーん……友達思いで自己犠牲の激しい子、かなぁ」

「は?」

「あの子、無二の親友がいるんですよ。

 で、その子の為なら何でもできちゃうんです」

見た目から性格は解らないものだが、思っていたものと違っていたので彼も困惑している。

「実際、親友を助ける為に、暴漢に頭殴られたことがあったり」

「え⁉さみ先輩、そんなことあったんですか⁉」

マーシアの方が驚きを見せたので、リューベックは眉をひそめた。

「昔ね……。それで生死の境をさまよったりもしたの。

 女子中学生が、体張って親友助けるとか、ないよね」

困ったようにロンシャンは笑う。

「……でも、そこまでの覚悟が、さみにはあるんだ」

「覚悟……?」

「さみのおかげで親友は助かったけど……。

 それをさみは納得してなくてね。

 守れなかった、ってずっと言ってる」

リューベックは思わず拳を握り締めていた。

こんな話が出てくるなどとは思わなかったので、余計に動揺が見て取れる。

「力がなくて守れなかった、なんて言ってたから。

 今はその力があるし、危ない方向に走ってないかは心配かな」

この話はこれ以上聞いていられないと、リューベックは会話を切り上げることにした。

ロンシャンから離れ、自分の剣に触れる。

「……そろそろ行くぞ」

「え⁉あれ?迎えに来るんじゃないんですか」

出立の準備が出来たら迎えが来ると聞いていたロンシャンは、困惑した様子でリューベックに聞き返した。

「どこに集まるかは聞いている」

「はぁ……。それなら行きますか」

どことなく不自然さは感じたものの、理由まで推測できず、ロンシャンは首を傾げながらリューベックに付いて行く。


正門前の広場に集まった討伐軍は、規模の小さなものだった。

ロンシャン達の師とリューベックを筆頭に、十数人の小部隊である。

討伐目標はアイユーヴ城周辺の邪鬼、とやや曖昧だが、巣のようなものがあるわけではないので仕方がなかった。

昨日のようにまとまって襲撃があることの方が稀で、基本的にはその辺を適当にうろついている邪鬼の方が多い。

街道を行く商人たちなどが不意に襲われないよう、定期的に討伐隊を組んで一掃しているのだとロンシャン達は説明を受けていた。

その討伐隊に、今度はロンシャン達も参加することになった。

今回の討伐隊の名目はそうなっている。

あたりは付けているものの、その場所に確実に邪鬼がいる保証はなく、目的地が絶対的に決まっているわけでもない。

逆に、進軍中に襲われる可能性もある。

「そういうことだ。常に気を引き締めていろ」

心強い味方がいるものの、どこから襲ってくるか解らない恐怖はかなりのものだった。

おかげでマーシアは説明を受けている最中からずっと顔面蒼白なままである。

「よし、出発だ!」

リューベックの号令を受けて、討伐隊は城を出た。

ロンシャン達は隊列の中央に位置しており、前後左右を兵達が固めている。

上空からの奇襲以外は確実に防げる隊列ではあった。

アイユーヴの人間にとっては、ロンシャン達がいる以外はいつも通りの作業である。

だが、緊張感だけはいつもよりも高かった。

とはいえ、あまりにも固くなりすぎているロンシャン達に、リューベックは苦笑する。

「そこまで緊張しなくてもいいだろ。

 お前達のことは俺が必ず守る」

それが仕事だからなと、リューベックは笑った。

守ってもらえると解っていても、怖いものは怖い。

ロンシャンは何度目かの深呼吸をして、気持ちを落ち着けようとした。


「邪鬼がいたぞ!左舷だ!構えろ!」


無情にも響いた兵の声に、ロンシャン達は身を震わせる。

数匹の邪鬼が、こちらへ向かって来ていた。

樹の間をすり抜けるように素早く移動する邪鬼に、ロンシャンは目で追うのもやっとである。

隊列の左側を守る兵達が盾と剣を構え、応戦体制に入った。

ロンシャン達を守る隊列の為、積極的に前へは出て行かない。


──戦う理由を、思い出して──


昨日のアルヴェラの言葉が、脳裏に浮かんだ。


怖くても、戦わなければならない。

何故?

戦う道を選んだ。

その理由は?


ロンシャンは再び深呼吸をする。

答は既に出ていた。

「あたしは……手を差し伸べられたんだ。

 あの……誰にも頼らないと言っていた、さみから。

 だから、それに応えたい。

 ……応えなきゃ、いけないんだ……!」

両手に付けたナックルをしっかりと握り、ロンシャンは向かってくる邪鬼を睨み付けた。


怖い?怖いさ。

何が怖い?化け物が怖いんじゃない、逃げそうな自分が怖いんだ。

立ち向かえ。恐れるな。

さぁ、一歩を踏み出せ。


「ロンシャン……?」


不安げに声を掛けて来るマーシアに、ロンシャンは現実へと引き戻される。

「あたしが先陣を切る。

 二人は後から付いて来て。

 あたしの一撃はたぶん浅いから、止めをお願い」

「え……?」

動揺するマーシアとセラヴィーンに、ロンシャンは精一杯の笑顔を見せた。

「あんなの、大したことないんだって解ったら、怖くないよ」

「た、大したことないなんて……」

「さあ、行くよ!」

「ちょ、ロンシャン⁉」

戸惑う二人をよそに、ロンシャンは邪鬼が突っ込んでくる左側の守りの外へと踏み出す。

先頭の邪鬼に対して、ロンシャンはその拳をめり込ませた。

突っ込んできた勢いもあって、邪鬼は地面に転がる。

後続の邪鬼を左足の蹴りで飛ばし、勢いのまま体を回転させた。


──戦える。覚えたことをただ実践すればいい。


構え直し、ロンシャンは邪鬼を睨み付ける。

ナックルがあるとはいえ、まだまだ力の弱いロンシャンの一撃では、邪鬼は倒せていなかった。

だが、その姿を見たセラヴィーンが、杖を握り術を放つ。

「せ……セラ?」

「先輩一人に戦わせるなんて……できないよ」

「……うん!」

恐怖が完全に消えたわけではない。

だが、ロンシャンが戦えているのなら、それを補佐するくらいはできる。

マーシアも剣を抜き、ロンシャンに続いた。

ロンシャンが蹴り倒した邪鬼を、起き上がる前に倒す。

驚くほど手応えもなく、邪鬼は消滅した。

真正面から邪鬼の相手をしているのはロンシャンだけだが、セラヴィーンとマーシアの加勢により、その攻勢がバランスよく見える。

今は、これで良いのかもしれないとリューベックは苦笑した。

戦う事に慣れさえすれば、自ずと敵と相対するようになる。

戦う少女達を見ながら、リューベックは成長を嬉しく思うと同時に、戦いを強いる現状に胸を痛めていた。

ロン「はいはいはいはい、どんどん行くよー!」

セラ「ちょ、ま……詠唱が追い付かないです!」

マー「セ……セラ、代わりばんこでやろう?」

リュ「その調子だ、三人とも。次は右から来るぞ」

ロン「了解です!リューさん!」

セラ「勝手に了解しないで下さい!」

兵達(俺達、必要だったのかなぁ)


今回の討伐隊は始終賑やかだったそうな。

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