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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第三十七話 ~鶴の一声~

椅子が四つにテーブルが一つ。

僅かばかりの灯りがそれらを照らしている。

石煉瓦の床はイスとテーブルを置ける広さ以上はなく、辺りは闇に包まれていた。

この場所は四人の邪王達がそれぞれの魔力を集結させて作り上げた空間である。

彼ら四人のみが入れる、彼ら専用の空間として存在していた。

邪王同士での話し合いや決め事などは必ずここで行われる。

だが、今、椅子は一つだけ空席となっている。

自然とそちらに視線が向くのは、仕方のない事だった。

「シャイレンドラ……やはり止まらぬか」

「僕、まだ信じられないよ。まさか……シャーイが……」

グラーツとヴィアハスがそれぞれ呟くのを、カシュガルは黙って見ている。

嘆いても、目を背けても、現実は変わらない。

ただそれを受け止めて、先の事を考えるまでである。

そう思い、カシュガルはようやく口を開いた。

「人間界不可侵の盟約を破ったのだ。

 どのような理由があるにせよ、城への攻撃は明確な宣戦布告だ。

 今回ばかりは看過できないたろう」

「とはいえさ。実際のところどうしようか?」

「話し合いは……場にすら出て来ない以上は無理だ。

 ならば、実力行使しかないだろう」

再度、カシュガルは空席を一瞥してそう告げる。

「シャーイだって、ただでやられないだろうから……全面戦争になるよ?」

「……盟約を破るというのは、そういうことだ」

「うーん……シャーイのとこと戦うとなると、一筋縄じゃいかないかなぁ。

 あそこの四天王、竜王の代わりだけあって曲者揃いでしょ」

乗り気ではないヴィアハスに、カシュガルは眉をひそめる。

「割り切れ、ヴィアハス。こうなってしまっては戦うしかない」

「……ホントに戦うしかないの?」

「何?」

「何か言いたい事があるのなら、今のうちに言っておけ」

不機嫌そうにグラーツが口を挟むと、ヴィアハスは肩を竦めた。

「二人とも絶対怒るし猛反対するだろうからなぁ」

「根拠もなくつまらぬことを言えば、そうなるだろうな」

腕を組み、グラーツが牽制する。

ヴィアハスはちらりとカシュガルに視線を向けた。

その意図が解らず、カシュガルは怪訝そうにしている。

「僕はね、アルに全部話して意見を聞きたい。

 その上で、異世界の人間達に協力してもらうのがいいと思う」

「ふざけるな!なぜそこであいつが出て来る!?」

グラーツは「アル」というのが誰を指すのかすぐには解らなかった。

が、異世界の人間ということとカシュガルが反応したことで、一人の少女を思い浮かべる。

妖しく光る赤い瞳は、今でも忘れられない。

「根拠があるのか」

「アルは限られた情報から自分なりに現状を推測してる。

 優先すべきことも解ってて、自分の立場も弁えられる子だよ。

 何より、時の精霊なんていう奥の手まで得たのに、まだ動かない。

 あの子は異世界の人間の中でも、特別だと僕は思うな」

根拠というより、ヴィアハスなりにアルヴェラを評価している、ということが語られた。

「たった一日二日でカシュガルが絆されるような子だよ?

 それだけでも只者じゃないでしょ」

いつの間に、という呆れの視線をグラーツから受けながら、カシュガルはヴィアハスを睨み付ける。

「異世界の人間はこの件が片付くまで大人しくしていてもらう。

 そう決めたはずだ」

「それは邪魔になるから、って意味でしょ?

 あの子達は邪魔どころか十分な戦力になるよ」

「戦力だと?戦わせるつもりか」

怪訝そうにグラーツが尋ねると、ヴィアハスはすぐに首を振った。

「そういう意味での戦力じゃないよ。

 それにね、忘れてない?

 シャーイのとこにも、異世界の人間はいるんだよ?」

グラーツとカシュガルは揃って目を見開く。

この様子だと本当に忘れていたようだ。

「……キミ達は自分のところの子しか目に入ってないようだね」

「お前にだけは言われたくないが……」

レオナにべったりなヴィアハスを見ているので、カシュガルは呆れ口調である。

「それに、人間界にもいるんでしょ?

 僕達の思う通りに進めるには障害が多いんじゃないかな」

「仲間の説得があれば邪魔されない、ということか」

「説得が難しい状態でも、対処は任せられるでしょ」

グラーツはしばらく考え込んでいたが、やがて顔を上げると頷いた。

「物は試しだ。話をするだけしてみよう」

「グラーツ!?」

「使えるかどうか、共に戦うかは別だ。

 だが、話をするのはカシュガルのところにいる娘だけか?」

「三人とも集めて話しちゃっていいの?」

グラーツが嫌がるだろうと思い、ヴィアハスは敢えてアルヴェラだけを名指ししていた。

「あの娘が正しい選択をするならば、三人揃えておく方がいい」

「あれ?グラーツもあっという間に丸くなったね?」

「勘違いするな。余計な時間や手間を省くだけだ」

事情を話すことになるのであれば、もはや隔離している効果は薄い。

加えて、アルヴェラの意見に他の仲間についてが含まれないとは思えない。

話を聞く中で、残り二人にもいてほしいと言い出すのは目に見えている。

ならば、最初から連れていけばいい。

「頑なに接触させまいとしてたのにねぇ?」

「お前達が勝手なことをするからだ」

「待て。俺も含まれるのか」

聞き捨てならないとカシュガルが反論する。

「当たり前だ。知らぬうちに人間と親しくなっているだろう。

 それで何もしていないとは言わせんぞ」

「俺は何も──」

「あの娘に関わるものを御せていないのも、変わらんからな」

邪王である以上、それくらいは出来て当然とばかりにグラーツはカシュガルを睨み付けた。

「じゃあ、これからカシュんとこ行く、でいい?」

「ああ。異世界の人間を連れてリヴォニアで落ち合おう」

「カシュもそれでいい?」

「……解った」

不服そうではあるが、カシュガルも頷く。

すると、ヴィアハスとグラーツはすぐに姿を消した。

アルヴェラが来てからというもの忙しないことこの上ない。

溜め息をつくと、カシュガルもリヴォニアへと戻る。

「カシュガル、早かったな」

「……ああ」

険しい表情を見て、ラグーザも顔色を変える。

「何か、嫌な展開になったのか」

「いや……まあ、そうだな」

歯切れの悪いカシュガルに、ラグーザは首を傾げた。

「アルヴェラを呼べ」

「は?」

「グラーツとヴィアハス、他の異世界の人間も来る」

「いやいやいやいや!待てって!何でそんなことに!?」

「ヴィアハスのせいだ……」

カシュガルが険しい表情だった原因が予想外の理由で、ラグーザは唖然としている。

「あー……うん、解った」

「ああ、頼む」

疲れた様子でカシュガルは玉座に腰を下ろした。

それを横目にラグーザは兵を呼び、ラディスにアルヴェラを連れてくるよう伝言する。

使いに走る兵が出ていくと、ラグーザも溜め息をついた。

「場所はここでいいのか?」

「ああ、問題ないだろう」

場合によってはどこか会議室を宛がうことも考慮したが、この玉座の間で良いらしい。

これからどうなるのか、ラグーザはおろかカシュガルにも先を見通せなかった。


今日はどこへ行こうかと考えていたアルヴェラは、突然の訪問者に予定を打ち砕かれ、肩を落としていた。

ラグーザからの呼び出し、とのことだが、実質的にはカシュガルからの呼び出しだろう。

ヴィアハスが訪ねてきた後での呼び出しということは、事態が動いたのかもしれない。

その上での呼び出しならば、ただ事ではないと思われる。

「何をしている」

「あ……はい、すみません……」

頭を抱えて寝台に腰掛けたままだったアルヴェラに、ラディスは声を掛けた。

「何を躊躇うことがある」

「いえ、ちょっと展開が早かったので頭痛がしただけです」

「……実際に痛みがあるわけではないな?」

頭痛がすると申告があれば報告するよう、ラグーザから言い遣っていたラディスは念のため確認する。

「今のままだと遅かれ早かれ痛み出しそうですが、大丈夫です」

「問題ないのであれば行くぞ」

「……はい」

体調的な問題は今のところない。

この頭痛は体に影響を及ぼす種類のものではなかった。

精神的なところからくる、いわゆる偏頭痛も酷いときは契機になるが、今回は悪化させるものではないと感覚で判る。

立ち上がったアルヴェラを確認し、ラディスは部屋を出た。

それにアルヴェラも続く。

玉座の間までは大した距離ではないが、アルヴェラは頭をフル回転させていた。


ヴィアハスがもたらしたのは、恐らくアイユーヴが襲撃されたという情報だろう。

それは、元凶が動き出したということも同じだったはずである。

これまでどうにかして止めようと画策していたが、上手くはいっていなかった。

それを踏まえると、この呼び出しはどういう意味を持つのか。

いまだに深く関われない立場としては少々やきもきする展開ではある。

まさか、名指しで今後を左右する話し合いに駆り出されたなど、アルヴェラに想像できるはずもない。

情報も少ない中で、自分がどう動いていくか、等と考えていたアルヴェラは、この後、別の理由で頭を抱えることになるのだった。

グ「カシュガルのところへ行く。お前もな」

デ「え?私も?いいの?」

グ「ああ」

デ「あ……でも、さみ達とは話さない方がいいよね?」

グ「それも、もう良い」

デ「ホント?」

グ「意味がないからな」

デ「ありがとう!グラーツ!」


何だかんだ言っていたグラーツも、実は人のこと言えないっていう。

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