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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
36/80

第三十四話 ~予想外~

厨房の見学と、ついでの食事も終えたアルヴェラは、元の部屋へと戻ることにした。

今日のところは城内を軽く把握するだけで良いだろうと。

「美味しかったです!

 いつも食事を用意して頂きありがとうございます。

 一度、ちゃんとお礼を言いたくて。

 ……それでは、お邪魔しました」

「お前、他にも作れるものはあるのか?」

暇乞いをしたアルヴェラを、兵士は何故か引き留める。

「え……と、ええ、多少は」

「ふん……そうか。また余った食材を使いに来てもいいぞ」

「へ?……宜しいのですか?」

「どうせ棄てるものだ。好きにしろ」

「解りました。ありがとうございます。

 また来ますね!」

嬉しそうに笑みを浮かべ、アルヴェラは頭を下げた。

どういう形であれ、毛嫌いされて拒絶されるだけではなくなった。

好意を持たれたわけではないが、親密度が一段階上がった感じだと、アルヴェラはシミュレーションゲームのような考え方で結論付ける。

ゲームや漫画のように都合よくは運ばない。

だからこそ、厨房で出会った兵士が「また来ても良い」と言ってくれたことは大きかった。


戻るまでの間、アルヴェラは始終ご機嫌で、ラディスはそんな彼女に苦笑している。

たかだか兵士一人に受け入れられたところで、状況はそこまで変わらない。

事実、他の兵からは相変わらず負の視線を向けられている。

浮かれ過ぎだと呆れられても当然だと思っていた。

「どうかしましたか?」

苦笑したままアルヴェラを見ていたラディスは、それを疑問に思った彼女に問われる。

すぐに首を振り問題ないことを示す。

言葉を返さなかったが、アルヴェラは気にした様子もなく、そうかと笑みを返した。

玉座の間へと戻ってきたアルヴェラとラディスは、カシュガルとラグーザに迎えられる。

「戻ったか。何か面白いものはあったか?」

少しだけからかうように、ラグーザが尋ねる。

「初めて見るものばかりなので、何もかもが楽しいです」

にこにこと、それは楽しそうに応える様子に、ラグーザも思わず笑ってしまう。

「それは何よりだな。

 ラディス、変わったことはなかったか?」

「は。自分が共にいるので、兵達も直接何かは出来ないようです」

「まあ、その為の護衛だ。それなら大丈夫そうか。

 アルはもう休むだろ?あ、食事がまだか」

自分達は決まった時間に食事をしないので、アルヴェラの食事の時間もまちまちになっていた。

だが、今回は先程のことがあるので、アルヴェラは首を振る。

「今さっき食べてきました。

 今日の分を作っていたようなので、それは寝る前にいただけますか?」

一瞬の静寂。

この発言にはカシュガルも驚いた様子である。

「え……っと、それはどういう?え?食べた?」

「はい。厨房にお邪魔させていただいて、昨日の残りを」

「は⁉︎昨日の残り⁉︎何だよそれ!

 あいつ、いくら人間相手だからって何考えて──」

「いえ、私がそれでいいとお願いしたんですよ」

再びの沈黙。

何があったのかと、ラグーザは思わずラディスを見やる。

「相違ありません。

 彼女は自ら赴き、兵に願い出て昨日分を再加熱し、食しました」

「再加熱……?」

「そうすることで具材はより柔らかく、味も染みるとのことです」

「少なくとも私の家では二、三日同じスープが出されてました」

目を丸くするラグーザに、アルヴェラは笑う。

「棄てられるくらいなら、頂きますとも。

 食べ物を粗末にしてはいけないのですよ」

「それと、今日の分を作り、余った食材で彼女自身も調理を」

「はあ⁉︎調理なんて出来るのか⁉︎

 ってか、やらせたのか⁉︎」

ラグーザ達も、アルヴェラが「出来ること」をよく知らない。

ましてや、調理などは邪族に必要なく、出来るものも少ない。

その為、調理が出来る存在は貴重だった。

「兵の同意も得ておりますし、問題はありませんでした。

 火も、自分で点けられていました」

最後の言葉に、カシュガルは反応する。

アルヴェラの世界のように、誰でも押すだけ回すだけで火を点けられるわけではない。

だこらこそ、それができたということは、大きな意味を持つ。

「……もう、使いこなせるまでになったのか」

それは、カシュガルからアルヴェラに向けられた質問だった。

「使いこなせる、というまでの自信はありませんが。

 ()()だけであれば、この通り」

指先に無詠唱で火を点すアルヴェラに、カシュガルとラグーザは言葉を失う。

火を出すだけであれば、精霊との契約や彼からの教えで出来るようになったのだと理解できるが、無詠唱なのは別である。

「末恐ろしいな」

「だが、確かに出すだけであれば、単純なものだ」

必要以上に騒ぎ立てたくないのか、カシュガルは負け惜しみのようにそう告げた。

「詠唱魔術はまだ制御がうまく出来ないので、

 下手に詠唱すると逆に大変な事になりそうですし」

「……いや、普通は逆だろう?」

「え?」

きょとんと首を傾げたアルヴェラに、ラグーザは頭を押さえる。

「詠唱することで、威力や範囲を具体的に制御するもんだ」

「そう……なのですか?

 私は思い描いた効果を詠唱で制御するのが苦手なようで……」

頭にあるものをそのまま反映できる無詠唱の方が、魔力は使うが思い通りに使える。

この辺も、異世界人だからこその違いなのかもしれない。

「あー、うん、その話はまた今度にしよう。

 それで……作ったやつはどうなった?」

「その場にいた三人で全て食べました」

「……食べたのか」

「はい」

「……全てってことは、もうないのか」

「はい」

悔しさを表に出さないよう努めているが、ラグーザの拳は強く握り締められている。

「あまり多く作って余っても、スープのように再加熱が難しいですし。

 そもそも、廃棄予定のところから食べられる箇所だけ使ったので。

 量もそんなになかったんですよね。

 大したものではないですから、気にしないで下さい」

食べたかった、などとは言える雰囲気ではない。

「厨房番が悔しがるほどのものを大したことがない、とはな」

「ただの野菜炒めですもの。

 美味しかったのなら、置いてある調味料が良いものだからです」

悔しさが増すだけなので、味については敢えて尋ねなかったラグーザだったが、結局しっかりと味についても知ることとなった。

「とにかく、それで厨房番は彼女にまた来ても良いと」

「お……おう、そうか。良かったな、アル?」

「はい!」

嬉しそうに返事をするアルヴェラは満面の笑みである。

「まあ、何だ。次また何か作ったら俺にも食わせてくれよ」

「それは構いませんが、本当に大したものは作れませんよ?」

「俺達にとっては、大したもの、なんだ」

厨房番が作るもの以外の料理は殆ど食べたことがない。

だからこそ、たかが野菜炒めでも、彼らには珍しい料理だと思われている。

アルヴェラはこくりと頷いた。

「解りました。作ったらこちらまで持って参ります」

よし、とラグーザは心の中で躍る。

「それ以外は特に何もありませんでした」

「そうか、解った。ご苦労だったな。

 すまないが、明日も頼む」

「はっ」

軽く頭を下げて礼をし、ラディスは立ち去ろうと一歩下がった。

「あ!ラディス殿、今日はありがとうございました!

 明日もまた宜しくお願いします。おやすみなさい」

また礼を言っているのかと、ラディスは苦笑する。

軽く手を挙げるだけでアルヴェラに応え、ラディスは玉座の間から去って行った。

「ラディスとはうまくやっていけそうだな」

「はい。問題ありません」

「人間に対して偏見を持たない奴なんだが……。

 口数も多くないから、取っつき難いだろ?」

確かに必要最低限の会話しかしていないかなとアルヴェラはこれまでを振り返る。

「取っつき難いだなんてことないですよ。

 私の事も気遣ってくれる好い人です」

まさか、とラグーザはラディスが去った後の扉を見詰めた。

ラディスは人間に対して侮蔑や偏見などを持たない。

だが、同時に興味や執着も持っていなかった。

良くも悪くも無関心、それがラディスという男のはずだった。

先程のアルヴェラに対する反応を見ても解る。

たった数刻の間に、ラディスの中でアルヴェラに対する思いや考えが変わっている。

ラグーザやカシュガルでさえ興味を引かれる対象なのだから、無理もないのかもしれないが。

「何か不都合があったら言ってくれ」

「ありがとうございます。

 今日のところはもう休ませていただきますね」

「ああ。望んだこととはいえ、疲れただろ?

 ゆっくり休んだ方がいいさ」

笑顔でお辞儀をすると、アルヴェラは寝室へ戻る前にカシュガルと向き合う。

「それでは、お先に失礼します。

 おやすみなさい」

わざわざそれを言う為だけに声を掛けたのかと、カシュガルは怪訝な表情を浮かべる。

何も返って来ないとしても、アルヴェラには関係ない。

カシュガルに向けられた挨拶に対し、ラグーザが後ろから応えるわけにもいかず、微妙な空気が流れた。

一言でいいから返してやれと、ラグーザが目で訴える。

「……ああ、休むといい」

返ってくると思っていなかったアルヴェラは、少し驚いたらしく、目を瞬かせた。

言われた事を遅れて理解すると、アルヴェラは嬉しそうに笑う。

「はい!」

アルヴェラ自身は、恐らく自分がどういう表情を見せているか解っていないことだろう。

ラグーザはいつも気に掛けてくれていて、挨拶にも気軽に応えてくれる。

だが、カシュガルはまだ自分を快く思っていないのだろう。

些細な、他愛のない挨拶などは無視されてしまう。

習慣の差なのかもしれないが、その些細な挨拶でも交わすことで少しずつ近付ける気がする。

そう考えていたアルヴェラにとって、たった一言の返しが、何よりもうれしい事だった。

ぺこりと頭を下げ、満面の笑みのまま、アルヴェラは寝室へと戻って行く。

茫然としているカシュガルに、ラグーザは苦笑しながらため息をついた。

ラ「ほらな?あれだけでいいんだよ」

カ「何をそんなに喜ぶことがある」

ラ「少なくとも、無視されるよりは嬉しいだろ」

カ「無視はしていない」

ラ「無言は無視と同じだぜ?」

カ「理不尽だな」

ラ「お前が言うのか……」


しばらく邪王様はご機嫌だったそうな。

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