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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第二十五話 ~想定外~

予想外だと、アモイは息を呑む。

姿を消したままだというのに、目の前の男は顔色ひとつ変えずに、的確にアモイを狙って黒い光を放って来た。

その後ろには戸惑いの表情を浮かべる少女が二人。

ヴィアハスとは違い、話し合いが出来る雰囲気ではない。

ひとまず、向かってくる光を防護結界で消滅させ、アモイは再び男を見やる。


「シュレスヴィヒ、そいつらを連れていけ」


側には他に誰もいない。

だが、彼はまるでそこにいるかのように声を掛ける。


「は~い」


そして、彼の呼び掛けにシュレスヴィヒと呼ばれた青年は姿を現し、気が抜ける口調で応えた。

彼は深緑色の髪と瞳で、肩に付く長さの髪は1つに束ねられている。

顔の両側サイドの髪は、左右それぞれひと房分だけ金属製の髪留めでまとめられていた。

やや童顔で、見た目だけだとグラディズ達よりも若く見える。

「デュラッツォ、なんか面白そうなことになってるけど、相手は何なの?」

「……さてな」

彼──デュラッツォは相手の正体までは解らなかった。

存在は感じるが、何者かまでは解らない。

解らないものは排除するまで。

姿を消しているのだから、敵として処理されても文句は言えない。

「早く行け」

「ちぇ~。りょーかーい。

 じゃ、ここはデュラッツォに任せてボク達は行こう。

 カッシー、フリース」

二人の少女──グラディズとフリースラントはこの状況に付いていけていなかった。

だが、とりあえずは五体満足でそこに立っていて、具合も悪そうには見えない。

無事かどうか確かめる、という最低限の任務はこれで果たせそうだ。

「いつまで隠れているつもりだ」

苛ついた口調でデュラッツォはアモイがいる方を睨み付ける。

「そこにいるのは解っているぞ」

目的は達成出来たので、アモイはデュラッツォを無視して戻る選択肢を選ぶ。

それを察したデュラッツォが、させまいと再び黒い光を放つ。

「逃がすと思ったのか」

攻撃を受けようと、挑発されようと、アモイはこの場から立ち去ることだけを考えていた。

むざむざ敵に情報を与えるわけにはいかない。

黒い光は立て続けに飛んでくるが、同数以上の炎を放ち、相殺させた上で攻撃の手を止めさせる。

その一瞬の隙を突き、アモイは別の場所へと転移した。

「ちっ……結界を展開したが、遅かったか」

デュラッツォは悔しそうに舌打ちし、気配の消えた廊下を睨み付けている。

「姿を消した状態で、結界・攻撃・転移……。

 人間のなせる業ではないな。何者だ……?」

最後に受けた炎の魔術が予想よりも強い威力だったので、デュラッツォは驚いていた。

姿を隠し、こそこそと嗅ぎ回るような輩ならば大したことはない。

そう高を括っていたというのもある。

「結界内に気付かれることなく侵入できるくらいの力はある。

 それだけでも異質と認めるべきか……」

呼び付けたシュレスヴィヒが敵に反応を見せなかった事も、デュラッツォには気掛かりだった。

あれは自分よりも魔術においては優る。

つまり、魔力や魔術の優劣では見分けられない、特別な存在──。

そこまで考えて、デュラッツォは馬鹿馬鹿しいと嘲笑した。

そんな出鱈目な存在が今回の一件に介入しているのであれば、事態はもっと悪くなっているはずだ。

「だが、警戒するに越したことはない……か」

険しい表情を浮かべ、デュラッツォは踵を返した。


眩い光が差し込む森に、アモイは姿を現す。

ここには「敵」がいないと判断した上での実体化だった。

精霊であるアモイは、本来、実体がない存在である。

人間でいうところの精神体と同じようなもので、実体はないがそこに存在し、魔力の攻撃によって傷付くこともある。

魔力による攻撃から本体を守る為に、実体化をするというわけだ。

この実体化は物理的な殻を作る、いわば鎧のようなものだった。

その為、精霊は実体化する方が力を使う。

必要がない時以外は、姿を見せないのが普通だった。

だからこそ、このアモイの実体化は不自然であるとも言える。

「よし、誰もいねぇな」

あらかじめ何もいない場所を選んだとはいえ、改めて周りを確認する。

「さて、被弾したのはどこだ……?」

アモイは先程の攻撃を防ぎ切れずに被弾していたのだ。

精霊は魔力の塊みたいなもので、攻撃を受けても魔力が削られるだけなのだが、精霊が精霊たる存在であることを示す「核」が傷付くと話は別である。

そして、実体がなく魔力の塊であるが故に、被弾した際に「どこに攻撃を受けたのか」がすぐに判断できない。

肉体がある状態と違い、痛みもなく自分の力が削られるだけのそれは、とても警戒しなければならないものなのだ。

実体化したのは、元の姿そのままに作った殻を見て、攻撃を受けた箇所を特定し、核への損傷がないかを確かめる為だった。

アモイは自分の体を確認し、左足が欠けていることに気付く。

一番核から遠い部位だったので、核の損傷は皆無だった。

「これなら大丈夫だな」

魔力を再度、全身に巡り直すと左足も元通りになる。

ぷらぷらと左足を振り、アモイはニッと笑った。

「っし!気を取り直して行くか」

歩き出したアモイは三歩目で姿を消し、見えなくなる。

刹那、強い風が吹き抜けた。

その風は真っ直ぐ進み、森を抜けてさらにその先を目指す。

やがて見えてきた城の正門から上空へと吹き上がった。

「うわっ⁉︎」

前触れなく突風に煽られ、門を守る兵士は飛ばされないようにと踏ん張る。

城の上空からアモイは目的の気配を探した。

(芳しくねぇな……)

出来れば三人まとめて同じ場所に居てくれると確認も楽なのだが、むしろバラバラのようだ。

だが、ここは人間界で、周りに脅威も少ない。

城の中に居る時点で、身の安全は保証されているも同然だった。

(──からって、実際に姿を見ずに戻っちゃ、意味ねぇよな)

仕方がない、とアモイは中庭にある気配のひとつへ向けて下降する。


アイユーヴ城の中庭では、セラヴィーンが魔術の鍛練をしていた。

魔術に触れてまだ1日だというのに、彼女は師も驚くべき速さで知識を吸収し、魔術というものを己がものとしつつある。

これが、異世界の人間のもつ資質─才能なのか。

師であるコウライとコウセイは内心で驚愕していた。

「うーーーん……」

そんな中で、セラヴィーンは唸っている。

両手を見詰め、時に握ったり開いたりを繰り返していた。

「順調なのに、何を悩んでるの?セラ」

コウセイが見かねて尋ねると、彼女は顔を上げる。

「なーんか、しっくりこなくて」

「しっくりこない、だ?」

何の話だと、コウライは眉を潜めた。

「精霊と契約して、魔力ってものを掴んだのはいいんだけど……。

 使うのに何か無駄な遠回りしてるっていうか。

 発動までが長すぎるっていうか。

 とにかく、何か……ずれるのよね」

セラヴィーンは魔術と魔力、そして、精霊の知識を得た後、火の精霊と風の精霊と契約した。

精霊と契約することで己の魔力が底上げされ、魔術も扱えるようになった。

だが、その発動にイメージとのずれ─妙なラグがあるように感じているのだ。

「精霊魔術は契約した精霊を召喚して、精霊が放つ魔術だからね」

「自分が直接やってねぇからそう感じるんじゃねぇの?」

「そうなのかなぁ」

「もう少し慣れてきたら、言語魔術も教えるから。

 もしかしたら、セラはそっちの方が得意なのかも」

コウセイは丁寧で優しく、気遣いもしてくれる、いわば「良い子」だった。

逆にコウライは粗雑で乱暴、無遠慮だが真っ直ぐ、ただ、素直になれない「ひねくれもの」である。

年齢も16とセラヴィーンともほぼ同世代なので、彼女は肩を張らずに接することが出来た。

二人を交互に見詰め、納得いかない様子のまま、正面に向き直り、視線を再び両手に落としたところで、セラヴィーンは気付く。

視界のやや上側に、誰かの足が見えたのだ。

誰かが来たのだと最初は疑問に思わなかったが、相手によっては挨拶しなければと顔を上げた彼女は、目を疑った。

そこには確かに、立っている人がいた。

初めて見る人だったとか、こんな人がいたのかという疑問よりも、大変な事実がある。


体が透けている。


見間違いかと、目を擦るなどしてみたが、奥の植物が見えるので、やはり透けている。

この世界では元の世界の常識が通じないことがあるのも解っているが、人が透けることまで許容できない。

「っき……きゃあああぁぁぁ⁉︎」

セラヴィーンは思わず全力で叫んでしまった。

突然のことに、コウセイとコウライは驚く。

「ど、どうしたの、セラ?」

「いきなり何だよ!」

人が透ける、というのはセラヴィーンの中では幽霊という存在に紐付けられていた。

そんなものは見たことがないのだが、未知のものに対する恐怖は拭えない。

「ゆ、ゆゆ幽霊……!」

自分が見た、透けている人間を指差し、セラヴィーンは震える声でそう呟くのが精一杯だった。

「幽霊?お前、何言ってんだ?」

指し示された方向を確認し、コウライは怪訝な表情を浮かべる。

「何も……いないよ?」

「そ、そんな……見えないの⁉︎そこに!人が!」

自分しか見えていないという事実が更に恐怖を掻き立てた。

コウセイとコウライは顔を見合わせるが、本当に見えていないらしい。


『お前……俺が見えてんのか……?』


突然の第三者の声に、セラヴィーンはびくりと身を竦ませる。

『声まで聞こえてんのかよ⁉︎』

彼女の反応に、目の前の体が透けた青年は困ったように頭を掻いた。

『怖がんなくていいぜ。俺は精霊だ。

 あんたも契約したなら、精霊は怖くねぇだろ』

変な騒ぎになる前にと、彼は少しだけ慌てた様子でそう語りかけてくる。

「せ……い、れ……い?」

この世界の常識を知らないセラヴィーンは、完全に人の姿をした精霊もいるのだろうと、警戒を弱めた。

『そうだ。それに、主はあんたも知ってる人間だ』

「……え?」


『俺は時の精霊、主から戴いた名はアモイ。

 そして、主の名は「斎木 未由斗」。

 あんたと同じ、異世界から召喚された人間だろ』

ライ「おい、お前……あれ止めろよ」

セイ「ライがやってよ!」

ライ「嫌に決まってんだろ!」

セイ「相手はセラなんだから出来るよ。気になってるんでしょ?」

ライ「な!誰がこんな乱暴女!」

セラ「誰が乱暴女ですって!?」


怖いものを前にしても聞き捨てならならい台詞には反応する子

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