第十四話 ~理解と前進~
「協力させていただきます」
長テーブルの上には豪華とは言い難いが、一汁一菜と主食が乗せられている。
中庭でのひとときを終え、郁恵達は来るまでの事情を話し、食事を催促した。
結果、この食堂へと場所を移し、食事も用意して頂いたというわけだ。
そこで、郁恵は食事に手を付ける前に、協力の意向を伝えた。
食事をしている間、焦らす趣味はない。
こういうのははっきりさせてしまう方が郁恵の好みだった。
「っ本当ですか⁉︎」
ダミエッタは驚いた様子で聞き返す。
「実質、それしか道はないですし……。
ここにいない友人達のことも気になります」
他の皆は無事だと信じて、まずは自分達の状況を何とかしなくてはいけない。
どのみち、合流できたところで元の場所には戻れないのだがら、合流すること自体の優先度は高くなかった。
できれば無事かどうかを知る術があるとより良いのだが、ないものねだりをしても仕方がない。
「なので、今は出来ることをやっていくだけです」
郁恵が淡々と説明する間、莉音は不機嫌そうにダミエッタを睨んでいた。
理不尽なこの状況を作った元凶である彼らを、許したわけではないと。
「それで、構いません。ありがとうございます」
「……話はまとまったのか?」
出入口の方から声がして、皆は一斉にそちらを向いた。
食堂には扉がなく、誰かが入ってきても気付き難い。
いつからそこにいたのかは解らないが、郁恵達が初めて見る男性が立っていた。
金の長い髪を一つに束ねており、その目は碧眼で切れ長。
服装は濃い灰色のシャツに薄い灰色の外套─けどロングコートを着ている。
「リューベック、ええ、今しがたですが」
「では、そいつらが件の?」
「はい。異世界の戦士達になります」
戦士ではないのだが、と苦笑する郁恵にリューベックもふんと鼻を鳴らす。
「女……しかも子供……。正気ですか?」
「彼女達からは光を感じます。
その光は、何かしらの力となり、この世界を救うはずです」
「……まあいい。俺は仕事をするだけだ」
どこか投げやりな印象を受けるが、同時に哀しげな表情だと、郁恵は思った。
「彼はリューベック。貴女方の為に雇った傭兵です。
城の騎士ではありませんが、その強さは保証します。
必ず、貴女方を護ってくれるでしょう」
騎士にしては態度が大きいと思ったが、騎士ではないと聞いて納得する。
「では、そういうことで、ひとまず食事を頂きます」
「はい!遠慮せず召し上がってください」
「食べながら、というのは少々行儀が悪いですが……。
もう少し、詳しい事情を聞かせていただけますか?」
時間を無駄にしないよう、郁恵はダミエッタに進言する。
「では、そのままで耳を傾けて下さい」
「すみません、お願いします」
そう言うと、郁恵も控えめに食事を始めた。
「この世界の名はディヴァース。
我々の住む人間界の他に、邪界という領域が存在します。
邪界には四つの国と、それを治める四人の王が居ります。
その四人は邪王と呼ばれ、とても強い力を持っているのです」
ゲームなどでは魔王に代表される、破壊や独裁を行う悪者のポジションのような存在だろうか。
郁恵は険しい表情を見せていた。
そんなものが四人もいるとなると、一筋縄ではいかない。
むしろ、一人ですらどうにかできるか解らなかった。
「邪王を束ねる邪王、フェルガナ国を治める、グラーツ。
冷酷無比な邪剣の使い手、リヴォニア国を治める、カシュガル。
笑顔で殺す邪術使い、ラオス国を治める、ヴィアハス。
唯一の女邪王、ゼーランディア国を治める、シャイレンドラ」
当然ながら、郁恵には聞き覚えのない国名ばかりで、到底覚えられそうにない。
「このうち、ゼーランディア国は我がアイユーヴに侵攻してきているのです。
既に二つの街が、ゼーランディア国に奪われている状態にあります。
他の邪王は直接的には侵攻して来ておりませんが……。
邪王同士の結束は固く、一人の敵は四人の敵となるでしょう」
聞けば聞くほど、アイユーヴの状況は悪い。
これでは協力するという言葉も撤回したくなってしまう。
「ですが、結託すると解っているのですから、対策すればいいだけです。
我々は少数精鋭でシャイレンドラのみを相手にして勝てば良いのです」
大軍が動けば、邪王達も動いてしまう。
ならば、他の邪王達が援軍に来ない状況を作り、気付いた頃には間に合わないというのが理想だというのは解る。
だが、それをこれから戦い方を覚える少女に任せるのは無理があるというものだ。
「……戦い方は知らずとも、これが無謀だというのは解るようだな」
一人離れた場所で壁に寄り掛かっていたリューベックが嘲笑混じりに口を挟む。
「無謀としない為に、これから学ぶべき事は多いのですよ。
それに、あなたもいるではないですか」
「仕事はする。だが、子守はごめんだ」
莉音と季織は態度の大きなリューベックに不満そうな表情を見せた。
食事中でなければ、莉音などはリューベックに対して何様だと詰め寄っていたかもしれない。
「状況は解りました。
それで、私達は具体的に何をすれば……?」
「お三方にはそれぞれの適性に合った力を伸ばしていただきます」
「適性?」
「はい。何が適しているかはもう解っております」
ダミエッタが心配するなと微笑みかけてくるが、自分達にすら解らないものをどうやって把握するのか。
「ダミエッタ様の目には特別な光が見えておいでなのです」
「光……ですか?」
「ええ。光の大きさと色、形でその方の大よその才能が判断できます」
それは見えている本人にしか解らない事だろう。
「もう一つ、問題を片付けて、話を終えましょう」
「何か、問題だらけの気はしますが……」
「そうですが……。ひとまず、あなた方の呼び名を決めなければなりません」
「へ?」
郁恵達は顔を見合わせる。
名前は名乗ったが、呼び名を決めるとはどういうことだろうか。
「あなた方の名はこの世界では目立ちます。
名を呼んだだけで、どれほどの危険があることか……。
ですので、素性を隠すためにも別の呼び名を用意しなければなりません」
なるほど、と郁恵は納得しつつ考える。
莉音と季織も渋々考え始めた。
三人とも考え付くと、一人ずつその名を口にする。
「あたしはロンシャンでお願いします」
「私はセラヴィーンです」
「えと、私はマーシアで……」
郁恵がロンシャン、莉音がセラヴィーン、季織はマーシアとそれぞれ名が決まった。
「ロンシャン、セラヴィーン、マーシア。
これから、よろしくお願い致します」
「今日は遅くなりましたし、疲れているでしょう。
部屋に案内させますので、お休みください」
疲れているというよりは、精神的に弱っているという方が正しかった。
友人とは離れ離れになり、見知らぬ世界で戦うことを強いられ、特別な力がないと帰れない。
現実を受け止めるだけでも、かなりの精神力が必要になる。
食堂を出ると、白いワンピースを来た侍女が立っていた。
ダミエッタとオックスフォードとはそこで別れ、リューベックだけ付いてくる。
「あの、リューベックさん」
「……リューでいい」
「え?あ、はい。
リューさんは邪王との戦いは反対なんですか?」
オックスフォードの説明に呆れていたようにも見えたので、郁恵──ロンシャンは気になっていた。
「倒せるのであれば文句はない」
「無謀だから、反対してる……んです?」
「そうだ。勝機もないのに邪王と戦うなど馬鹿げている」
確かに、聞いている限りではロンシャン達に勝ち目はない。
これからの特訓にかかっているとしても、これまで誰も成し遂げていない事を、自分達でどうにかなるのか。
先行きは不透明どころか、崖っぷちである。
「邪界と人間界、邪王と人間ってどれくらい違うんです?」
莉音──セラヴィーンが疑問に思っていたことを口にした。
邪界を「領域」と言われたが、どうにもピンとこない。
「邪界は邪族の住む場所だ。
邪族は長命で、人間とも大きく異なる存在なんだ」
「人間じゃ……ない?」
「中には人間と見た目が似ている奴らもいるがな。邪王のように」
返す言葉に詰まっていると、ちょうど目的地に着いたところだった。
「こちらの部屋をお使いください」
「あ……どうも、ありがとうございます」
三人部屋という、都合のいい定員数の部屋に、ロンシャンは少し安心した。
「俺はここで見張っている。何かあれば呼べ」
「え⁉︎見張り、って……」
「お前らはすでに命を狙われる立場にある。
城の中にいても、安全だと思うな」
リューベックは脅すような口調でロンシャン達に警告する。
「あ、私達を監視するとか、そういう意味じゃないんですね」
「良かったぁ。ちょっとびっくりしたよね」
「……はぁ、さっさと休め」
セラヴィーンとマーシアが小さく笑うと、リューベックは少し困ったようにそれだけ返してきた。
「ありがとうございます。おやすみなさい」
「ああ」
三人が部屋に入ったのを確認してから、リューベックは壁に寄りかかり目を閉じる。
静かな廊下で、独り感覚を研ぎ澄まし、リューベックは何も起こらないことを祈った。
リ「女ばかり三人もいらないんだがな」
ダ「女性に囲まれるリューベックも、見ていて面白いですよ」
リ「どこから出てきたんですか」
ダ「秘密の抜け穴があちこちに……」
リ「あってたまるか」
ダミエッタ様は意外とお茶目です。




