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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第十二話 ~彼女の決意~


「カシュガル様!」


すぐ隣の大広間から兵士の声が聞こえる。

カシュガルは未由斗を一瞥すると広間の方へと向かった。

「どうした?」

「ヴィアハス様がいらっしゃっております」

「ヴィアハスが?」

つい先程、話をしたばかりだというのに、わざわざ再訪問してくるなど、明らかに何かありましたと言っているようなものだ。

「追い返すわけにもいかないか……。通せ」

「はっ!」

兵士が早足で外へと向かう。

カシュガルはヴィアハスの訪問の真意を考えていた。

とはいえ、感情やその時々の気分で行動する彼の動向を予測するのは困難である。

だからこそ、彼が広間に入ってきた時に、まさか異世界の人間を連れているなど思いも寄らなかった。

「ヴィアハス⁉︎」

「やあ、カシュガル。彼女はレオナだよ」

「何を考えている!

 お前は自分が何をしているのか解っているのか⁉︎」

声を荒げるカシュガルに、ヴィアハスは耳を塞ぐ姿勢を取る。

「僕は、僕が最善だと思うことをするだけだよ」

「最善だと?」

これがか、とカシュガルはレオナを睨み付ける。

すると、彼女はびくりと身を竦めた。

「カシュガル、彼女が怖がってる。

 思い通りにいかないからって彼女に当たるのはやめてよ」

「何を……!」

視線をヴィアハスに戻し、カシュガルは頭を抱える。

「それで、何をするつもりだ」

「レオナがね、友達に会いたいって言うんだ。

 カシュガルのとこの子と会わせてあげてよ」

「ふざけるな」

ヴィアハスが個人で動くのならばそれでいい。

こちらはこちらで動くまでだ。

互いにやりたいことをやるだけならば、迷惑も掛からない。

だが、干渉しようとするのであれば、見過ごせない。

「お前はその人間に何もかも話したのだろう?

 その状態で、こちらと邂逅すれば厄介なことになる」

「彼女は……彼女達は、自分で考えて、動くことができるんだよ、カシュ。

 僕達にそれを阻害する権利はないんだ」

相変わらず、カシュガルとヴィアハスの意見は平行線である。



隣の寝室で、未由斗は彼らのやり取りを窺っていた。

ヴィアハスという「もう1人の妨害者」が現れたことで、状況が動き始めている。

先程の考察を前提とすると、ヴィアハスが連れて来たという人間は弥栄子だと推測できた。

ここで何もせず、大人しくしているのがカシュガルの望みに適う行動だろう。

だが、未由斗は敢えて彼の望む通りにはしないことにした。

「アル?」

未由斗の様子を心配したラグーザが声を掛けて来るも、未由斗は応えない。

意を決して彼女が立ち上がると、途端に視界はちらつき、眩暈を起こしてしまった。

立っていられない程の症状だったのは予想外だが、未由斗はそれでも前に進もうと踏み出す。

しかし、一歩踏み出した後に、もう一歩というところで足がもつれ、倒れ込んでしまった。

「危ない!」

ラグーザが未由斗を支えたおかげで、彼女は倒れずに済んだ。

「急に動いたら駄目だ。まだ全快じゃない」

「ごめん、なさい……。でも、行かなきゃ……」

「……カシュガルは出ていくのを望まないぞ」

解っていると、未由斗は頷く。

それでも、この機会を逃すわけにはいかなかった。

「はぁ、解った。俺も行く。

 どのみち、君を行かせたら止めなかった俺は責められる。

 歩けそうか?肩、貸すか?」

「大丈夫……」

「──じゃないよな?」

ラグーザから離れた途端ふらりとよろける未由斗に、彼は呆れたように目を細める。

「ほら、掴まれ」

「え、いや……でも……」

さすがに知り合って間もない男性の、首や肩に手を回したりというのは抵抗があった。

「なら、行くのをやめるか?」

「嫌!……肩、お借りします……」

個人の感情を持ち込んで足踏みしている場合ではない。

大義や目的の為には、手段は選んでいられないのだ。

未由斗はラグーザを真っ直ぐに見詰める。

射貫くようなその眼差しに、ラグーザは面食らった。

直前まで肩を借りる事を恥じらっていた少女の表情とは全く違う。

躊躇なく伸ばされた手が、するりとラグーザの肩に触れた。

そのまま首まで滑らせ、未由斗はラグーザに寄り添う形で体を預ける。

一瞬の出来事だったが、ラグーザにはゆっくりとした動作に思えた。

また、ドキリとしてしまった自分に戸惑う。

「ごめんなさい。少しの間、不便おかけします」

「あ……ああ、いや、気にするな」

動揺しているのを悟られないよう、ラグーザは平静を装い未由斗を支えようと腰に手を回した。

「それじゃあ、行くぞ」

「はい。お願いします」

こうして、ラグーザに支えられた状態で、未由斗は寝室から続く唯一の扉から外に出る。

扉が開いてすぐにカシュガルが気付き、驚いた様子で振り向くのが見えた。

「ラグーザ、貴様……!」

「はは!君も彼女のことを御せてないみたいだね」

それはそれは可笑しそうにヴィアハスが笑う。

そして、それまで戸惑った様子で控えていた「レオナ」が未由斗に気付いた。

「さみ……さん?」

呼ばれ、未由斗はカシュガルから視線を外す。

制服から着替えてはいるが、友人の姿を見間違えはしない。

無事な姿を診れたことに安堵し、未由斗は微笑みを返した。

「さみさん……さみさん!」

堪らず駆け出す彼女を邪魔させないように、ヴィアハスはさりげなくカシュガルと彼女の間に立つ。

「っ……ヴィアハス!」

「彼女は僕を……僕達を理解してくれたよ。

 理解したうえで、協力してくれるって言ってくれたんだ」

何を言っているのかと、カシュガルは怪訝そうに眉をひそめた。

ヴィアハスの横を抜け、レオナは未由斗の傍に辿り着く。

「さみさん、怪我したの⁉︎大丈夫?」

「大丈夫。ちょっと転んだ拍子にぶつけただけ。

 み……じゃない、レオナ……か。

 そっちこそ、怪我とかしてない?」

未由斗は敢えて彼女を「壬生 弥栄子」としてではなく「レオナ」として接することにした。

その真意は解らないが、レオナもヴィアハスに連呼されたせいで特に拒絶はしなかった。

「転んだって……」

転んだ拍子に怪我をした、という割には人に支えてもらっている状態なのは何故だろうか。

当然、レオナもその疑問に行き着いたが、未由斗の性格から何かあったとしても言わないだろうと追及はしなかった。

「うちは大丈夫。ヴィアハスも悪い奴じゃなかったから」

「良かった……」

「でさ!うち、ヴィアハスから色々聞いたんだけど──」

「ストップ!」

興奮気味に持っている情報を渡そうとするレオナに未由斗はすかさず制止の声を掛ける。

「レオナはレオナなりに聞いた情報はあるんだろうけど……。

 私はそれを聞くわけにはいかない」

「え?何、言ってんの?だって……何も解んないじゃん?」

理解できない、とレオナは険しい表情を浮かべた。

「そうだね。何も、解らない。

 でも、今の状況を聞くのは、レオナからじゃダメなんだ」

「何で⁉︎意味解んないんだけど」

「ごめんね。でも、これは譲れない」

未由斗を支えていたラグーザもこれには驚いている。

自分達が与えていない情報を得る機会を、自分から棒に振ろうとしているのだから。

「いいのか?アルはそれで……」

「アル?」

「あ、私の名前、アルヴェラだから。よろしく『レオナ』」

「あー……うん、じゃあ、うちもアルって呼ぶね」

レオナがヴィアハスに勝手に命名されたように、未由斗──否、アルヴェラもそうなのだろうと、深くは尋ねなかった。

まだ違和感があるものの、元の名前よりも呼びやすくはある。

「ホントにいいの?聞いといた方がいいと思うけど……」

「そうだね。それに、多分……時間もあまりない」

「うん!そうなんだよ!」

「だったら、なおさら焦りは禁物だと思う」

申し訳なさそうに、アルヴェラは続けた。

「今後の為にも、私は今ここで乗り越えなきゃいけない。

 それにはきっと、誠意が必要なんだと……思ってる。

 ごめんね、レオナ。上手く説明できてないけど……」

「ホントだよ!誠意って何に……ってか誰に対してだよ、もう」

呆れた様子で怒るレオナに、アルヴェラは苦笑しながら視線をカシュガルに向ける。

レオナは見ていなかったが、ラグーザはそれに気付いた。

まさかと、瞠目する。

カシュガルはアルヴェラに対し情報を与えるなと言っていた。

そして、情報を持っているヴィアハス側の人間であるレオナと会わせることも阻止しようとしていた。

アルヴェラは、カシュガルが望んでいない、彼女が情報を得るということを避けたのだ。

今のカシュガルが、アルヴェラに自分から情報を与えるなど、万に一つもないだろう。

だが、敢えて自分から情報を得ないことで「誠意」を見せ、カシュガルが話してくれる事に賭けたということだ。

それでも、とラグーザは視線を落とす。

恐らく、カシュガルはアルヴェラに真実を話すことはしないだろう。

あれは頑固で融通の利かない分からず屋なのだと。


そんなことを考えながら、ラグーザがカシュガルへと視線を向けた時、彼は予感した。

カシュガルの、例え難い苦悩の表情と、葛藤の様子は、これまでに見たことがないものだった。

もしかすると何かが変わるかもしれない。

楽天的かもしれないが、そう思わずにはいられなかった。

カ「もう元気そうだ。手を放してもいいだろう」

ラ「そこまで邪険にするなよ。彼女も大変なんだ」

カ「だからといって密着する必要はないだろう」

ラ「え?何?もしかして羨ましいとか?」

カ「別に……羨ましくなど……」


素直になれないジェラシー邪王さま。

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