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放送室は異世界への扉  作者: 雷華
第一部 初めての異世界召喚
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第十話 ~初顔合わせ~

自分の城へと戻って来たカシュガルは、疲れた様子で玉座に腰を下ろす。

カシュガルの寝室から出て来たラグーザが、そんな彼の様子を見て苦笑した。

「あの人間は?」

「まだ眠ってる。何も問題はないさ」

「そうか……」

「……守りたいもの、守るべきもの。それを見誤るなよ?」

そう助言するラグーザから視線を外し、カシュガルは目を瞑る。

言われなくても解っている、と言いたげなカシュガルに、ラグーザは溜め息をついた。

「……で、結局どうするんだ?あの人間」

「しばらくは様子見だ」

「様子見って……。事情とか聞きたがると思うぞ?」

「何も教えるな」

ひとことそう返すカシュガルだが、ラグーザは困った様子で頭を掻いている。

「何も⁉︎そりゃさすがに無理じゃないか?」

「必要以上の会話をしなければいい」

「傷付けたり、酷いことはしないけど、監禁はするってことか?」

それだけ聞くと何をしたいのか全く解らない。

「あの人間自身の話は聞いておけ」

「うわぁ……こっちから何も話さないのに、相手からは情報もらおうとするとか……」

「あの人間の為でもある」

「そうは見えないから困るんだよな」

カシュガルは目を開けると、寝室の扉を見詰める。

先程の話し合いの中でヴィアハスが訴えていた言葉が脳裏をよぎった。

だが、すぐにそれを払うように軽く首を振る。

「あの人間がどういう人物なのか。それを知る必要がある」

「……あのな、カシュガル。

 人を知るには、こっちも誠意を見せる必要があるだろ」

「何とかしろ」

最終的に放り投げられたボールを、ラグーザは受け取ってしまった。

「いくら何でも無茶苦茶だ」

「あの人間のことは任せる」

「……なら俺のやり方でやるぞ」

「さっき言った事が守られれば文句はない」

「だから!それが無茶だって……!」

平行線を辿りそうな会話に疲れ、ラグーザは大きな溜め息をつく。

「……すまない。人間の扱いはお前の方が上手い。

 あの人間ともうまくやれるはずだ」

「はいはい、解りましたよ。

 あと、お前の場合は人間だからどうのじゃなく、対人能力が低いってことだけ言っとくぜ」

そんなことはない、と言おうとしたが、カシュガルはただ眉を潜めただけである。

「そういうところが、だよ」

不器用だなと、ラグーザは肩を竦めた。



翌朝、未由斗は気だるさと共に目覚めた。

起きたばかりの倦怠感とは別の体の不調に、再び目を閉じる。

体が休息を必要としていると判断した為だろう。

だが、目を閉じた瞬間に、今しがた目にしていた天井が見慣れぬものと気付き、慌てて体を起こした。

ふかふかのベッドと掛け布団の心地よさと、その大きさに困惑する。

ふと、こめかみの辺りが痛み、未由斗は顔を歪めた。

「わた……しは……」

心を落ち着けて、未由斗は記憶を辿る。

暗闇、光、転移、離別─。

「私は……()()涼ちゃんを護れなかった……」

そして、その後の記憶がない。

カシュガルに付いていこうと、階段の前まで進んだところで、ぷっつりと記憶が途切れている。

再び、こめかみがズキンと痛んだ。

記憶が途切れる前にはなかったこの痛みは、恐らく倒れた時にぶつけてしまったのだろう。

自分がどうなるのか、相手がどうしたいのかはまだ解らないが、こうして別の場所で寝かされていたということは、多少なりとも迷惑を掛けてしまったかもしれない。

未由斗は疲れた様子で溜め息をついた。

涼子のことで冷静さを欠いていた自分を心の中で叱咤し、未由斗は改めて現状の把握や分析を行うことにした。

常識は最初から捨てる。

異世界、召喚、二人の男と、分断された仲間達、別々に監禁する意味と時が来れば解放する意味。

点と点が全く繋がらない。

ありがちな設定を幾つか当てはめてみたが、どれもぴたりと当てはまらなかった。

そもそも、複数人を召喚するというところからイレギュラーすぎる。

一番ありそうな設定だと、何らかの戦力として異世界の人間を召喚したというものだが、小隊でも組ませるような規模でそれを行うだろうか。

自分の考えがすでに常識的ではないのだが、その中でさらに非常識だと切り捨てるのはやめようと、未由斗は思考をリセットする。

その上で、いくつかの仮説を立ててみた。

ひとつは、やはり何らかの戦力として召喚した説。

人数の問題を置いておけばこれが一番可能性が高そうだ。

カシュガルという男性が言っていた「召喚の対象」というのも、戦力に足りうる人材を選定したという意味だろう。

どこにでもいる普通の女子高生である自分達が即戦力になるとは思えない。

束になっても大差はないだろうから、戦力の不足を埋めるために数を増やした、とも考え難い。

ぐるぐると答えのない問いをひたすら考えていた未由斗は、扉の開く音で我に返った。

「お。起きたんだな」

カシュガルが入ってくるとばかり思っていた未由斗は、彼とは違う顔に首を傾げる。

「傷は大丈夫か?」

「え?あ、これ……?」

痛む箇所を押さえると、今更ながら包帯に気付いた。

「寝ていたところに無理やり巻いたからさ。

 あまりちゃんとできなかったんだよな」

「あなたが、手当てしてくれた……んですか?」

「ああ。ほっとくわけにはいかなかったからな」

彼は持っていたトレーを手近な台の上に置き、寝台に近付く。

「とりあえず、包帯をちゃんと巻き直そう」

「え?……え⁉︎」

他にやり取りすべきことはあると思うのだが、彼は有無を言わさず救急箱を取り出した。

「一旦、巻いたやつほどくぞ」

「あ……は、はい」

自分で、と思ったときには彼が既に取り掛かっていたので、未由斗はされるがままの状態である。

初対面の男性と至近距離で接していることに、 未由斗は困惑していた。

(普通の子、だな……)

包帯を取りながら、何気なく未由斗を観察した彼──ラグーザは彼女の第一印象に拍子抜けしている。

カシュガルがあれだけ警戒する人間ならば、一癖あると構えていたが、どこにでもいそうな普通の人間のようにラグーザには見えた。

「よし……っと。一応傷も見ておくか……」

ガーゼを取り、血も出ていた傷口を再度確認する。

既に血は止まっているが、かなりの強打となったのだろう。

腫れている上に青黒く変色していた。

「んー……薬付けた方が良さそうだな」

ラグーザは新しいガーゼに薬を浸み込ませ、そっと傷口に当てる。

傷に沁みるようなものではないが、冷たい感触に反応するかと思ったラグーザは気付かれないよう未由斗を観察していた。

が、彼女はガーゼが当てられても微動だにしない。

目や眉が動くこともなく、何も感じていないかのようにジッとしていた。

「まだ痛みはあるか?」

「え?……あ、はい、少し……」

「結構な強さでぶつけたみたいだからさ。

 しばらく痛みが続くと思うけど……」

心配してくれているのだろうか。

未由斗は意外そうにラグーザを見詰める。

彼女が思わず視線を上げたことで、ラグーザと視線が交わった。

キョトンとした未由斗の顔はラグーザには幼く見えた。

(まだ、子供じゃないか……?)

(この人、あの……カシュガルって人に似てる?家族かな)

手際よく包帯を巻き終えると、ラグーザは救急箱をしまう。

「……ありがとうございます」

「これくらい、お安いご用だ」

会話が続かないなと思っていた未由斗の前で、ラグーザは最初に持っていたトレーを手に取る。

「食事、できそうか?」

「……はい」

あまり食欲はなかったが、食べなければ力も付かない。

どれくらい動けるかは解らないが、食べられるときに食べておくのは重要だと未由斗は考えた。

「大したものじゃないけど」

「いえ、むしろ用意していただいてありがとうございます」

トレーには楕円形で少し深めの皿があり、野菜スープのようなものが注がれている。

未由斗はトレーごと膝の上に乗せ、添えてあったスプーンでスープをすすり始めた。

薄味だったが、今の自分にはちょうど良い塩梅である。

「……美味しい」

「口にあって良かった。

 人間の食べ物なんてもう何年も用意したことがなかったからな」

カシュガルやグラーツ、そしてラグーザも「人間」と、自分達を区別しているように呼ぶ。

ここが地球ではない以上、常識的な考えはするだけ無駄である。

未由斗は彼らが人間とは別の生き物なのだと推測した。人間のような容姿をしていても、人間ではない。

角が生えていたり、羽が生えていたり、耳が尖っていたりなどもないので、人間だと思ってしまいそうだが、人間ではない。

黙々とスープを食べ進める未由斗に、ラグーザは哀しげな視線を送っていた。

少し接しただけではあるが、害のあるような人間には見えない。

それなのに、事情すら話してあげられないのは可哀想だと。

目の前の哀れな少女に、ラグーザは何もしてあげられない自分を悔やんでいた。

ラ「料理のできる兵に作らせたんだ」

未「とても美味しいです」

ラ「良かった。炒め物は失敗しちゃって黒焦げでさ」

未「・・・」


料理が下手で不器用でも、スープなら何とかなるっていうジンクス。

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