決別
はじめまして。まろのかばこと、作者でございます。
お読みいただきありがとうございます。駄文、駄作者ですが、お付き合いいただけたら幸いです。
季節は冬、人によっては春。そんな時期の大イベントといえば卒業式。
「これで制服着るのも最後か」とか、「遠くに行っても友達だからね」とか、先生の泣き声とかが聞こえる中、棚口裕太とその親友は神妙な面持ちで、ため息を吐いた。
「とうとうか…」
「ああ…」
この場の雰囲気になんら反さない空気を纏う二人。しかしその言葉が暗喩で意味するところは、周りとは全く違うのである。別れを惜しむわけでもなく、卒業に感慨を覚えるでもない。
それはそのはず。彼ら地元の大学、しかもこの高校の付属校で、学内での進学人数が最も多いところへの入学が決まっているのだから。
妥協したわけではなく、しっかりと考えた上での進路。内部推薦で楽に通ったとはいえ、二人とも第一志望の学部に合格した時は泣いて喜んだ。しかしそこの入学説明会で、問題が発生した。
なんとその大学には、ヲタクが少なかったのだ!
漫画研究部どころか、イラスト部、アフレコ部もない。ヲタクの居場所がとことんない大学であった。
このご時世、まるで雑草のようにどこにでも発生するヲタクが全くいないなんてことはないだろう。しかし校内を隈なく探しても、グッズを鞄につけている者を見つけることはできなかった。
オープンにする者がいない、それが意味するところは、ヲタクの肩身が狭い、ということ。
まさか、趣味に没頭する場である大学がそんなところとは思わないし、そんな視点から大学を選ぶ者は少ないだろう。
遅ばれながらそれに気づいた彼らは、卒業までの数ヶ月で、ある決意を固めた。それは…、
脱オタ!!
幸い、彼らは重度のヲタクではなく、厨二病を患ったこともなかった。また、これから勉学に励むためにはいずれ切り捨てなければいけないこともわかっていた。苦渋の決断であったが、ちょうど良い機会だと、互いに慰め合い、着々と準備を進めていた。
そして今日。彼らは最後の行動に出る!
卒業式が終わり、集合写真を撮って解散した後、二人は駅前の古本屋の前で佇んでいた。
「持って来たか?」
「ああ、家には漫画雑誌しか残ってない。」
「よし!」
そうして彼らは緩慢に重々しく、その一歩を踏み出す。
二人の後ろで訝しげに、また面倒くさそうに二人が店内に入るのを待つ人々がいることに気づいていない。正直、ものすごく邪魔であった。
もう幾度か訪れたレジの前。二人はかつてないほど逡巡していた。後ろで完結作品をまとめ買いしようとしている小学生がウザそうに、重そうに自分たちを見ていることにも気付かずに。クッソ邪魔である。
「お客様?」
催促されてやっと我に帰ったが、それでもすぐには動かない。いや、動けない。
それからたっぷり1分。後ろの子供の細腕がプルプルしだした頃、やっと裕太が大きめのスクールバックをレジに置いた。それに続き、もう一人も重そうなそれを隣に並べる。
「「売却、お願いします。」」
グッズも書籍も殆ど売った。そして今日、最後にして最愛の漫画たちを手放し、ヲタ生活に終止符を打つ。
バックから取り出されたそれらは確認作業に回され、小銭と一枚の小さな紙になって帰ってきた。大量の夢がとてもちっぽけになってしまった。自分達の宝物が世間ではそんな価値しかないのだと思い知り、彼らはどちらともなく肩を叩きあった。
因みに、確認作業の最中、凝視しすぎて店員が居心地悪そうにしていたのは言うまでもないだろう。
裕太は何度目かの溜息を吐きながら、帰路を辿っていた。友人と別れてからも、宝物がなくなった部屋を見るのが辛くて、なかなか帰る気になれずに只々遠回りを繰り返す。
辛うじて車や人の確認をするものの、喪失感のあまり周りが見えていなかった。
それは彼にとって不幸か幸いか。
人気が全く無くなったのも気づかずに、また遠回りしようと道を曲がったところでそれは現れた。
突然視界で迸る黒い光。慌てて足元を見ると、そこには夢の結晶とも言える光景が広がっていた。
「魔法陣!?」
脱ヲタしたその日にあんまりな光景に、裕太の頭は真っ白になる。それは見事な虚無だった。思考停止ではなく、何にもない、全てを失くした状態。
魔法陣はさらに輝きを増した。真っ白な裕太の中が、まるで光に飲まれるように色づいていく。漸く思考を取り戻した瞬間、彼は思った。
俺の喪失感返せ!!
と。
こっちの世界との、そしてヲタク生活との決別ですね。
シリアスメインではないので、真面目なサブタイトルでも内容はこんなもんです。